森の小径

ルーザの秋

ルーザの森に霧がかかるというのは1年にそんなにないこと。ここは標高が約350メートル、少し下って330メートルくらいまではよく霧の風景に出会うのですが、このわずか20メートルが気象のひとつの境目のようなのです。で、霧のゆえ、こんな照度も明度も落ちた時こそ紅葉は美しいのです。久しぶりに歩いて、ルーザの秋のスケッチ。

ルーザの森のビューポイントの笊籬橋の紅葉は見事。今年ももうすぐ、だいたい11月1日がピークのような予感です。
ひとつ、アオハダ(青膚)の黄色が美しい。やがてアオハダは葉をすっかり落とすと、びっしりとついた赤い実が全身を覆うようになります。アオハダの名はその樹皮を剥ぐと緑色の地肌が現れるから、表皮にも少しばかり青味・緑味が入っているから。すっくとして、とても美しい木です。
ヤマウルシ(山漆)の赤も絵具を絞りだしたがごとく。上杉鷹山の産業振興のひとつ、木蝋の生産はこのヤマウルシの実でこさえたのだとか。その実もたわわです。

みどりが少し薄くあるいは白くなったのはコシアブラ(漉油)。さらに冬に近づけば、葉肉はますます薄くなり葉脈がはっきりとしてくるもの。コシアブラというこの一種独特な名については、塗料(金漆=ごんぜつ)とするために樹液を採取したことからとか、越後国の越(こし)の油からとか諸説あり。それはともかく、この若い芽の山菜としてのコシアブラは絶品なんだよね。このほろ苦さこそが本格的な春の到来を告げるのです。

と、ふらふらしていたら、ナメコ(滑子)ではありませんか。今年はマツタケ(松茸)も雑きのこも一様に不作と聞いていますが、3年ほど前に種駒を打っておいたものが出てきていました。我が家では早生(わせ)から晩生(おくて)まで数種を打ってあるので、これから雪が降るまで楽しめそうです。なめこ汁、おいしいよね。大根おろし、日本酒に合うよね。紅葉でも、ウワミズザクラ(上溝桜)のそれはまるでセザンヌの色彩。緑が混じる黄色から赤の何とも言えないグラデーションが見事なのです。
それからそれから、今年は我が家のヒュッテ前のブナ(山毛欅)の黄色も美しい。ブナの分布域は本州中部では標高1000メートルから、ここいらの奥羽山系では標高約500メートル以上のようですが、350メートルほどのルーザの森にもわずかながら自生しています(ただし、我が家のものは植栽)。ブナは、何といっても新緑が美しい。比類なきその美しさにはゾクッとします。かの宮澤賢治はこの新緑のブナの葉が日光に透けるのに感動を覚えて、ホッホウ!と声をあげていたのだそうな。それも分かるなあ。 霧に包まれる秋のルーザの森クラフト、そして我が家。