言の葉

それは、恰好の悪い

それは、恰好の悪い

 

それは、恰好の悪いことなのである
恰好の悪いことは、いやなのである
何が恰好が悪いのかといえば
夜の明けぬころから
懐中電灯を下げて
人目はばかり
山に分け入っていくことがどうにも受けつけない

雨が降ろうと風が吹こうと
その場所に着いたらば
薄明の落ち葉 慎重に慎重に
それこそ腹這いになって
指を目にして
女体のあちこちを這わすがごとくのその仕草は
どうにもはずかしいのである

汚い恰好をして
犬のようにクンクン
耳を側立てては誰か来やしないか警戒し
わずかでも見つけでもしたら
ここには誰も来なかったかのように
証拠湮滅を企てて立ち去る
それのどこが恰好いいと言えるか

七竈生える
岩ごつごつの峰
誰も知らぬ自分だけのその場所は
家族へも教えぬ
もし教えることがあったとて
自分の足腰が立たなくなるちょっと前のこととくる
それは精神の不健康の極み
醜悪な匂いさえ漂うというものでないか

うーん
だが しかし
あの芳醇

 

ホンマテツオ/2003 初出