今朝ほど早くには、溪(たに)の方からオオルリ(大瑠璃/ヒタキ科オオルリ属)のさえずりが聴こえてきていました。
このオオルリの声というのはとても美しくかつ特徴的で、例えばカッコウ(郭公)のように一節のフレーズをくりかえすのではなく、さまざまな節を次から次へとくりだしてくるのです。それは本当に、歌を歌っているかのよう。
筆者はオオルリの姿は一度だけ見かけたことがあるけれど、その瑠璃の青の美しさは息をのむほど。この溪にオオルリが一緒に住まうことの幸いを思います。
メーテルリンクはこの鳥から材を取ったのでは?(笑い) しあわせの青い鳥?
※下はネット上の公開画像から。
6月の半ばを過ぎるころになると、山菜はフキが最盛期。
フキの茎はぐんぐんと太くなりしかもみずみずしく、調理に持ってこいです。
そして、シオデ(牛尾菜/サルトリイバラ科シオデ属)が出てきました。例年よりずいぶんと遅い出です。
このシオデは別名“山のアスパラ”と呼ばれるもので、その名の通り、見た目は違えど味はアスパラガスそっくりです。こちらの方が濃厚な甘みがあるように思います。
筆者はこのシオデをオイルパスタ(アーリー・オーリオ・ペペロンチーノ)の具にすることがよくあります。彩りもよく、抜群においしいです。
太くてみずみずしく育ったシオデ。右の細いものが同科同属のタチシオデ(立牛尾菜)。
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家に眠っていてもはや使わない食器がたくさんあるはずとふんで、地区で「持ち寄り交換会」なるものを企画・提案して開きました。公民館にものすごい量が集まって、ほしい方に引き取ってもらい、残ったものは不燃廃棄物として処分しました。
これで、地区の家庭では断捨離とあいなって、スッキリした家庭も多いのでは。
でも引き取り後の大量の残りを清掃場に持ち込んで、割れながら処理槽に吸い込まれていく姿には胸が痛みました。
そして思いました、品物は目にかなったよいものを、ていねいに大切に、末永く使いたいものだと。
下は、持ち寄り交換会のスナップ。
その打ち上げを、焚火の傍らで。
久しぶりに、よい酒でした。
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仕事とやるべきことに区切りをつけ、我がフィールドの西吾妻に向かった第1回目はこの(6月)11日のこと。ちょうど山開き翌日のことでした。
山はまだ、何とも雪でして。
とんとたっぷりの、予想を超える雪でして。
リフトを乗り継いでいざ登山道の取りつきに立ち入るやいなや下のような雪でした。これにはビックリしました。
筆者はここ7、8年、西吾妻の山開き直後に毎年のように登っていますが、登山道取りつきにしてこんな雪は初めてのことです。これは、今年の雪がいかにすさまじいものであったかを物語っています。里も筆者のところも雪との格闘でしたし。
下は、西吾妻ボランティアガイドのみなさん(先のおふたり)が登山者が道に迷うことがないように赤い裂き布を樹木に巻きつつ進んでいるところ。
山開きにあわせてこんな貢献活動をされていることをはじめて知りました。
こういう活動によって安全な山登りが保証されていると思うと、とてもありがたく感じます。心からの感謝です。
西吾妻最大のお花畑たる大凹(おおくぼ)は完全に雪で埋まっている模様、行き先を変えて人形石へ向かいました。しかしここでもすごい残雪です。
先を行くおふたりは、お仲間と二分三分してのボランティアガイドさん。
人形石(1,950メートル)にて。
帰りは中大巓(なかだいてん)の北側のコースゆえ、この通りの分厚い残雪でした。
こういう道では、目印の赤い布切れがなければ道に迷って遭難してしまいます。慎重に目印の赤をたどって進みます。
下には、登山道で見た、今の時期ならではの花々を。
ヒメイチゲ(姫一華/キンポウゲ科イチリンソウ属)。
なかなかお目にかかれない希少種です。一般的に知られるヒメイチゲに対して、ここのは鋸歯がやわらかです。
ミネズオウ(峰蘇芳/ツツジ科ミネズオウ属)。
高さが10センチ少々の、常緑小低木です。
ミネザクラ(峰桜/バラ科サクラ属。標準和名はタカネザクラ/高嶺桜)。
ミネザクラは日本の野生種のサクラの中でもっとも標高の高いところに咲くサクラです。ちょうど今が満開というところでした。
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2回目に向かったのは、あまり間を置かないこの17日のことです。
今回は時間に余裕を感じて、西吾妻山山頂まで足を延ばしてきました。
前回は相棒と一緒でしたが、今回はソロで。
雪の亀甲紋は、雪が解ける過程で(風の滑りが作るのだろうか)スプーンカットになって、そのカットの境界縁にオオシラビソ(大白檜曽)の落ち葉が付着してできたもの。自然が作り出した素敵な造形です。
下は、前回はスルーした大凹あたり。
遠くから、ソロの妙齢の女性が山頂帰りに雪の斜面を登ってきていました。
すれ違いざまに、「あー、シンドかった!(笑い)」だそうです(笑い)。
雪の表面は日中の日差しでやわらかくなっていて、このぐらいの雪ではアイゼンをつけるかどうか迷うもの。
そうして登山靴のみで前進しようとするなら、不意に滑ってしまうことも多く、そこは慎重に、慎重に。
憩いの場である“大凹の水場”もまだまだ雪の下であり。生命の水が迸(ほとばし)っておりました。
“山の泉ここにあり、とわに清し”と書かれた年季の入った(筆者にしたらこの上なく美しい)看板も見えます。
山頂までにはここ以外に水場がないので、清冽な水をペットボトルにつめてと。
途中に出会った花たち。
コバイケイソウ(小梅蕙草/ユリ科シュロソウ属)はういういしい若葉をたたえて。
西吾妻の名花のひとつバイカオウレン(梅花黄蓮/キンポウゲ科オウレン属)。
ものの情報ではバイカオウレンの分布は福島県以南とあるけど、とすればここのは北限かもしれない。
ちなみにみちのくの名花のひとつヒナザクラ(雛桜)は西吾妻が南限です。そうここは、植物相の北限と南限の境界に当たっているのです。
天狗岩(2,004メートル)の岩海の片隅で出会ったミヤマキンバイ(深山金梅/バラ科キジムシロ属)の美しい黄色。
筆者の知るかぎり、西吾妻の登山道沿いのミヤマキンバイはここしかないと思います。
咲きそめのチングルマ(稚児車/バラ科ダイコンソウ属あるいはチングルマ属)。
チングルマはこれでも樹木、落葉小低木です。
もうすぐチングルマの花が一面に咲き競います。
ショウジョウバカマ(猩々袴/メランチウム科ショウジョウバカマ属)。
里の雪解け一番のこの花が、ここでは今美しく咲いています。
西吾妻山山頂(2,035メートル)にて。
周りはオオシラビソ(大白檜曽)の樹木に覆われ、眺望はゼロです(笑い)。
下の西吾妻小屋より歩いて約40分の西大巓(1,982メートル)を向こうに。
西大巓からの眺望は抜群です。安達太良山や磐梯山をはじめ檜原湖や小野川湖や秋元湖、そして天上のお花畑ともいえる雄国沼(おぐにぬま。1,090メートル)も一望できます。
今、雄国沼は、ニッコウキスゲの大群落の圧巻の景色でしょう。
山頂から10分ほどの西吾妻小屋。
ここは高層湿原で、あたりはやがてキンコウカ(金光花)の黄色い絨毯(じゅうたん)が敷かれます。
天狗岩の端に立つ、石で周りを囲んだ素朴な吾妻神社。
西吾妻の景勝地、いろは沼と残雪。
西吾妻山の登山口の天元台高原には3基のリフトがありますが、山を下って1基のリフトで下りて歩いた道で出会った花々。
マイヅルソウ(舞鶴草/キジカクシ科マイヅルソウ属)の大群落に花がつきはじめていました。
ムラサキヤシオツツジ(紫八汐躑躅/ツツジ科ツツジ属)の幼木。
“ヤシオ(八汐)”というのは染色用語で、染料の壺に八回ひたすという意味だそうです。それでこんな美しい色になったというわけ。
これが福島側の磐梯吾妻スカイラインの道沿いではもっともっと紫が濃いものに出会うことができます。
ミツバオウレン(三葉黄蓮/キンポウゲ科オウレン属)の大群落。
林床に生えるツルシキミ(蔓樒/ミカン科ミヤマシキミ属)。
白い花弁が美しいツマトリソウ(褄取草/サクラソウ科ツマトリソウ属)。
ツマトリソウは通常の花冠は7裂なのに、天元台のものには8裂のものも数多い頻度で見ることができます。
天元台のコバイケイソウ(小梅蕙草)はもうすぐ咲くようです。
で今回、なぜにリフトを途中で下りて歩いたのかと言えば、ツバメオモト(燕万年青/ユリ科ツバメオモト属)に会いたかったから。
まともに撮影した天然のツバメオモトはこれが初めてです。いやあ、美しいものです。
美しいものに会うと気持ちがすがすがしくなります。
ということで、今年のしょっぱなの西吾妻への山行はこれでおしまいです。
今回の山行は、雪あり花ありの心地よい時間でした。
疲れ覚えず歩けるってうれしいことです。
さて筆者はつい先日66歳になったけど、いつまで山を歩けるのだろうという不安は当然あります。少なくてあと10年は足取り軽く歩きたいと願っています。
ということで、そいじゃあ、また。
バイバイ!
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