森の生活

初夏の森から

6月に入りました。
ルーザの森はぐんぐんとみどり味が増し、初夏の装いとなってきました。
筆者はこのところテレビやラジオなど電波を通して入り込んでくる音声をほぼ遮断しているせいか、自然に住まう者たちの声がストレートに身体に入ってくるようになりました。

朝早くにはハルゼミ(春蝉)の声が森中に沁みとおります。
で、このハルゼミ、本当は昼も鳴いているのだろうけれど他の声にかき消されるらし。

※以下の、写真にクレジットの入るものはネットで公開されているものからの拝借です。撮影者(公開者)に感謝です。画像の名称とクレジットをたどればそのサイトに行きつくことができると思います。

yamanobe

日が高くなってくるとホトトギス(不如帰)の甲高い声に対抗するようにエゾハルゼミ(蝦夷春蝉)の大合唱がはじまります。
それに呼応するかのようにカジカガエル(河鹿蛙)が鳴きます。

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カジカガエルは野鳥のそれに勝るとも劣らないほどに美しい声です。

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それからこのところ筆者は、野鳥ではイカル(鵤)と、

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ミソサザイ(鷦鷯)の声を識別できるようになりました。

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この声はずっと気になっていたけれど(いやあ、美しいものです)、ようやく名前を当てはめることができました。
名前が分かると、友だちがひとりふたりと増えていくような感覚になってうれしいです。

筆者はもうすぐ66歳にならんとする年齢だけど、こうして毎日のように新しい発見があるのはよいこと、それもこれも森に住まえばこそのこと。 季節のめぐりに、花々も次々と咲き…、

下は、5月末日の我が庭の可憐なイワカガミ(岩鏡/イワウメ科イワカガミ属)。

白い花はウンベラーツム。“ベツレヘムの星”とも称される美しい花です。
園芸種が野生化したものだと思いますが、そのひと株の移植でどんどんと増えてきました。
標準和名はオオアマナ(大甘菜/キジカクシ科オオアマナ属)です。

家のすぐ近くのレンゲツツジ(蓮華躑躅/ツツジ科ツツジ属)。
磐梯朝日国立公園の裏磐梯エリアにある雄国沼(おぐにぬま。標高1,090メートル)はニッコウキスゲ(日光黄菅)の大群落で有名だけど、このレンゲツツジの群落も素晴らしいのだとか。 

そのニッコウキスゲ(日光黄菅/ユリ科ワスレグサ属…、標準和名はゼンテイカ/禅庭花)も咲きました。
これは奥羽本線の米沢駅近くの線路沿いの群落からの移植です。どうしたわけか、線路に沿ってみごとな群落があるのです。
鉄道とニッコウキスゲはどんな関係にあるんだろう。列車によってタネが拡散した?
それまで高山植物と思っていたニッコウキスゲが線路あたり280(メートル)そこそこの標高にも適応できているなんて驚きです。

今年も約束したかのように、ルーザの森にヒメサユリ(姫小百合/ユリ科ユリ属)が咲きました。
この花は、新潟と福島と山形の県境の飯豊連峰や朝日連峰とその周辺にしか自生しない(宮城県七ヶ宿にも一部あるらし)貴重なもの、環境省のレッドリストでは準絶滅危惧種、国際自然保護連合のリストでは絶滅危惧種に指定されているそうです。
それにしても何とやさしい色をしているんだろう。

※このヒメサユリが最近、仙台ナンバー(仙台ナンバーは仙台市に限定)の老年男によって盗掘されました。山道の途中で遭遇し現物を確認し厳しく注意したものの、男が山を下りた後、麓で確認していた株まで(採り跡をカムフラージュして)持っていってしまっていました。こちらはゴミを拾い登山道を整備して花々を守っているというのに、不届きなヤツです。情けなくなり悲しくなり(涙がにじんだ)、心の底から憤りを覚えました。思い出すだけで不快になるので、この辺で止めておきます。わざわざ仙台からねえ。

そしてこれは、アカマツ(赤松/マツ科マツ属)の、松ぼっくりのできたてのかわいい坊や。 

とまあ、現在の森の様子をなぞってみたけど、異変もあります。

下は、60年から120年に1度しか咲かないと言われるササ(チマキザサ/粽笹/イネ科ササ属)に花が咲きました。
花が咲けばその株は枯れてしまうとのこと、だとして株は地下茎でつながっていて、ここらの群落は消滅の運命にあるのかも。

笹の花が咲くとよくないことが起こると昔から言われているようで。そういえば、近年まれにみる大雪(最大積雪深はここらで230センチに達した。出入りの板金職人に聞いたところ、建築物の被害はかなりのものらしい)を含む異常な気象、そしてロシアによるどこまでも理不尽な戦争…。
でも、そういう迷信的なことを好まない筆者は、最低60年に1度のものを見ることができたという意味なら、これはラッキーということにしておきます。

で、今年の異変の筆頭は、マイマイガ(舞舞蛾/ドクガ科マイマイガ属)の異常なほどの大量発生です。2015年にも大発生があったものの、これほどの数は目にしませんでした。とにかくすさまじいばかりです。

下は、庭のヤマモミジ(山紅葉/ムクロジ科カエデ属)の葉を食い荒らすマイマイガの幼虫。
ヤマモミジはもはや悲惨な姿です。

ここブナ帯の主木のコナラ(小楢/ブナ科コナラ属)の葉を食べるマイマイガ。
膨大なすべてのコナラがこうです。

車庫のシャッターを這うマイマイガ。
ちょっと、です(苦笑い)。

とはいえ対処法などはありません。目の前のものを無慈悲にも(笑い)踏んでつぶす以外は。
7月からの一斉の羽化ではどんなことが起こるものなのか。どんな風景になるものやら。

ゼンマイが干しあがれば、山菜の季節の大きな区切りを迎えます。それは5月末日としてよいと思います。
肩に食い込むほどのゼンマイを背負って帰ったというのに、乾燥後はこんなものです。重量で約11分の1になるのだとか。

6月に入れば、山菜はフキ(蕗/キク科フキ属)の季節。
みずみずしい茎がどんどんと成長を続けています。栽培物とは野性味においてまったく違います。

食卓からフキの炒め煮が消えれば、筆者は散歩のついでに(フキ専用のナイフを携行して)フキを採取し、採ってくれば茹でて、皮をむき(筋を取り)ます。そのあとは油で炒め、定番の調味料(醤油、酒、みりん)で煮詰めて、唐辛子と白ごまを加えれば出来上がり。
もう何度作ったことだろう。そして、これからもしばらく作ります。
冬分に備えて、塩蔵もしましたし。

下は、鉤形(かぎがた)の専用ナイフ。

茹でたフキの皮むきは工房の作業台で。
半野外のここは、(本業の)木工以外にも使えてとても重宝する場所です。
左奥のビールケースの上に建築材料が載っているけど、そうフキの皮むきは、力仕事の合間を縫っての気分転換の意味もあります。

この防水前掛けはダイソー扱いのもの。200円くらいだったろうか。
もう10年も前のものだけど、水ものを使う仕事にはうってつけです。
むいた皮はすべてコンクリート土間の床下に落として捨てます。あとで集めて、野外に放ります。

で、今回のsignal「初夏の森から」のトピックスは何といってもアサツキです。

ことのはじまりはワラビ(蕨)採りです。
散歩がてらにいつものワラビ場に行ってみると、そこでノビル(野蒜)が目に入りました。
ノビルへのすぐの連想は、球(鱗茎の球根)を生で味噌をつけて食べたいなあ(笑い)、どんなにか日本酒に合うだろう(笑い)でした。米沢の隠れ銘酒「裏雅山流」もあることだし(笑い)、でした。

今まであまり気が向かなかったということもあるのですが、ノビルは本当に久しぶりのこと。
で、持ち帰って、数株の、ノビルと思しき球根をむき出してみたのです。でもどうも、球のイメージがノビルとは違います。
そこで調べてみると、分かりました。それはノビルではなく、何とアサツキ(浅葱/ヒガンバナ科ネギ属)ではないですか。
アサツキって、こんな球根を作るんだ! はじめて知りました。

下は、掘り上げたアサツキの球根。

下が、早春のアサツキ。これは筆者のなじんできたアサツキ(“あさづき”と呼んでいた)の姿です。
アサツキが顔を出す頃になると筆者は幼少の頃より母親に連れられ、近くのリンゴ畑や野原に出向いたものです。そしてそこら中に生えているアサツキを掘っては土を落とし、そして洗いました。そうして現われたるひげ根の白さと言ったら。

アサツキはおひたしとして飯台(はんだい)に上りました。
実家の我が家のおひたしは削り節に醤油が定番で、アサツキといったらこの味が身体に染みこんでいます。アサツキの酢味噌和えというのは大人になってから覚えた味です。

そうして筆者は春のひとつを、アサツキの色や匂いや味で感じていたのだと思います。
今思い出しても幸せな時間です。

下は、6月下旬のアサツキの花。

調べてわかったことは、球根は立派な食材であること。そうか、若い(ネギのような)葉だけが食用ではなかったんだ!

アサツキの球根は新潟では伝統的な食材なんだとか。
アケビ(木通)の萌えにしても、アサツキにしても、エチゴ、恐るべし!です(笑い)。
なお、新潟県魚沼郡の蕎麦屋では、アサツキの球根そのままを薬味として提供するのだとか。このへんでは考えられない発想と光景です。

下は、地上部が枯れはじめたアサツキ。掘り上げは、これがサインのようです。

葉を落とし、株からひとつひとつを分離させた球根。

分離した球根を網袋に入れて(家からすぐの)清流にひたし、土を洗い流しているところ。網袋を流れにひたせば、ものの数分で土は取れていきます。流れというのはまったく素晴らしいです。
なお、この水は上流部に汚染源がまったくないので飲むこともできます。実際、この辺の山歩きの場合はこの水でのどを潤します。

清流から引き揚げたアサツキの球根。

ひげ根を根元からひとつひとつていねいに、(愛用のオピネルの)ナイフで落とします。

右から左へ。中間は落としたひげ根。

むらさき色の皮をむいてやれば(ひげ根をナイフで取っておけば、皮をむくのは簡単です)、ツヤツヤの真白い肌のアサツキの球根がピュッと出てきます。

そうして仕上がった美しいアサツキの球根。

それを情報にしたがって、醤油漬けにしました。
それからラッキョウ漬けにならった漬け汁(甘酢)に漬け込みました。
醤油漬けは翌日から、

甘酢漬けは4日後から食べておいしいということです。

これは2回目の作。

食べてみました。新鮮でいかにも若いカリカリとした食感、実においしいのです。
ツーンと鼻に抜ける香り、ニューロン(神経細胞)によって脳のてっぺんにまで伝わるかの微細な刺激。
味はラッキョウに似ていますが、何とも言えないこころよい刺激はこちらが上回るようです。
もうおいしくておいしくて、筆者は食事ごとに少しずつ口に運んでいます。

アサツキの球根の効能は…、
少し紹介すると…、

アサツキの球根の成分として…、
・“カリウム”が多く含まれる。カリウムはナトリウムの排出作用を持ち、したがって塩分の摂り過ぎの防止につながる。
・“硫化アリル”という成分があり、これは血液の凝固を抑制する働きがある。よって血液をサラサラにし、疲労回復の効果が期待できる。
・“ビタミンK”が含まれ、骨の形成に役立つ。
・“β-カロテン”が体内で発生する活性酸素を除去する。それは、がんや動脈硬化防止に役立ち、老化を抑制する。
・“葉酸”という物質を含む。葉酸はビタミンB群の一種で、細胞の増殖に必要不可欠。したがって胎児の成長をサポートする、ということです。朗報ですよ、妊婦さん!
驚きです。

※情報は(株)なにわサプリおよびサイト“季節の耳より情報局”による。基礎とされている資料は、“おいしい山形ホームページ”(山形県公式)、厚生労働省、日本健康文化振興会などから発表されているもので信憑性の高いものと思われる。

自然の偉大なめぐみともいうべき、アサツキの球根。
筆者はもう、〈半〉不老不死の秘薬を手に入れた面持ちなのです(笑い)。
これで健康寿命はグンと延びるだろうし、寿命それ自体も20年ほど伸びて120歳まで行けそうな感じがしてきました(笑い)。
ウレヒイ!(笑い)

下は、ある日の朝食です。
フキの炒め煮に、ジャガイモとソーセージ炒め、それにアサツキの醤油漬けと甘酢漬け。
パンは三重の友人が焼いて送ってくれた天然酵母のもの。それに、自家製のマーマレードや(いただきものの)ルバーブジャムにバターを添えて。
シンプルはおいしい、です。

(話は逸れるけど、)三重関連で、パンを焼く友人は手作り大好き。
このあいだは、“いばら餅”というものをわざわざこしらえて送ってくれたのでした。
三重でいばら餅はこの時期になると和菓子屋にも登場する風物詩なのだそうで、各家々でも手作りするのだとか。
餅の上と下はサルトリイバラの葉で包んだものだそうで(だから、いばら餅)、それにはビックリです。
サルトリイバラの葉をねえ。ところ違えば、です。
中に餡が入った餅には小麦粉を使い、成形したものを蒸して完成ということです。
いばら餅は少々塩気を感じるほんのりした甘さのおいしい和菓子、お客さんにもお出ししたのですが大好評でした。

下は、いただいたいばら餅。

花瓶に挿したのは、我が家の敷地にあったサルトリイバラ(猿捕茨/サルトリイバラ科シオデ属)の葉。
サルトリイバラの茎には鋭いトゲがあって、藪こぎで衣服をひっかけるのはこの植物の場合も多いものです。
三重のサルトリイバラの葉はこちらのものよりぐんと丸いですね。丸いので、丸い餅を包もうという発想になったのだと思います。
こちらのは丸というより卵形に近いです。

味わいあって、それぞれにちがった初夏。
タテに長い列島の、それぞれの土地の豊かな風土を思いながら…、それじゃあ、また。バイバイ!

 

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