山歩き

縦走、白布峠まで

この7月1日、またひとつ仕事の区切りもついたことだしと(と、勝手に判断して休暇を決め込んで)、西吾妻に向かいました。
西吾妻は、今季はもうこれで5度目のことになります(笑い)。
西吾妻はもう、ホームグラウンドあるいはマイガーデンという感じです。

まあ筆者は今年も(ここ6年ほども)ロープウェイとリフトの夏季シーズン券を購入しているし、山へ向かう準備は常にしてあるし、さっと身支度して、出かけるのは実に簡単なことなのです。

なお、天元台高原の夏季シーズン券は(昨年より2,000円アップの)17,000円。期間は6月初旬から10月下旬まで、1回のロープウェイとリフト往復で4,200円(昨年より400円アップ)ですから、いかに格安なものか。

この日は、下のような絶好の天候で。
と、登山日和を期待して登りはじめたのだけれどそうでもなかったです。
下界は晴天でも、山の上は曇り空でした。

ワタスゲ(綿菅/カヤツリグサ科ワタスゲ属)がそれこそ綿のようなフワフワの実(果穂)をつけていました。
こういう季節になりました。

西吾妻最大のお花畑の大凹(おおくぼ)はまだたくさんの雪が残っていました。
でも、1週間前と比べたら雲泥の差、木道にかかる雪はわずかとなりました。

大凹の水場。
ここで登山者の様子をうかがっていると、ここの水を利用しないひとも多いようです。「生水はよした方がいいよね」などと言って通り過ぎる若いひとも。
天然の水は汚れているというのは都会や町場のひとの思い込みのひとつ、上方に汚染源がないと予想される場合の水は安心して口にできるもの。
筆者は、こういう猜疑心(さいぎしん)というのはかえって不健康、不幸せだと思いますね。
ここは西吾妻にあっては昔からの唯一の水場、とても貴重な水なのです。

下は、梵天岩(1,904メートル)手前の、いろは沼。
1週間前はこの少し前まで多くの雪があったのでしたが。 

梵天岩に至るまでの岩ゴロゴロの急坂。


梵天岩までの道々。

サンカヨウ(山荷葉/メギ科サンカヨウ属)が咲きはじめていました。大きな葉に小さな白い花が集まって。
サンカヨウが咲くと、あんなに道々を楽しませたバイカオウレン(梅花黄連)が姿を消すことが分かりました。
花期としてサンカヨウとバイカオウレンは、出る、入るの関係ですね。

ゴゼンタチバナ(御前橘/ミズキ科ミズキ属)が林床のいたるところに。

みちのくの名花のひとつヒナザクラ(雛桜/サクラソウ科サクラソウ属)。
ヒナザクラの北限は八甲田山、南限がここ西吾妻とのことです。
大凹では今、美しく咲き競っています。

これはめずらしい、花びらが6枚(通常は7枚)のツマトリソウ(褄取草/サクラソウ科ツマトリソウ属)。

天狗岩の片隅に咲くミヤマキンバイ(深山金梅/バラ科キジムシロ属)。
もうピークは過ぎたようです。

少し湿った場所を好むイワイチョウ(岩銀杏/ミツガシワ科イワイチョウ属)が咲きはじめました。
葉がイチョウの幼木の葉に似ているところからの命名のよう。

お花畑の代表選手たるチングルマ(稚児車/バラ科ダイコンソウ属)。
まさに咲きはじめ、これからしばらくそこかしこに見られるでしょう。

ベニバナイチゴ(紅花苺/バラ科キイチゴ属)。
登りはじめから西吾妻山頂までの間、道々ずいぶんと目にしました。もう少しすると大粒の赤いイチゴになります。
『木いちごつみ』という絵本(岸田衿子 詩、山脇百合子 絵)があったと思うけど、原作の岸田衿子サンはこのベニバナイチゴを知ってたかなあ。
すっごく、おいしいです(笑い)。

西吾妻山頂(2,035メートル)にて。
ちょうど行き合った、石川県からおいでだという筆者と同じ年恰好の登山者に撮っていただきました。

「天気がイマイチで残念ですね。下界は晴れなのに」とこちらが言えば、「一昨日が古寺(鉱泉)から小朝日をトラバース(ピークを横切って近道)して大朝日岳をピストン、昨日は蔵王。下山すると晴れで、山はこのところどこもこんな天気で」とのこと。

山に精通するひとにとっては、天気は一喜一憂ではないらしく、ただ淡々と受け入れているよう。
この前お会いした熊本からのパーティーもそんなことを言ってたなあ。
「雨なら雨で仕方ない。(風で)リフトが止まれば歩けばいいだけで」と。

西吾妻(避難)小屋。

小屋から約40分の西大巓。ピークはもうすぐ。

西大巓(にしだいてん)山頂(1,982メートル)にて。
西大巓の魅力は何といっても眺望です。本来なら、安達太良に磐梯山、秋元湖や小野川湖、檜原湖、それに雄国沼の裏磐梯が一望のはずですが、実に残念なガスの中。何も見えないです。
ここにたった一人。

で、ここで筆者が何で(COVID-19感染への気遣いでもあるまいに)マスクをしているのかと言えば、ブヨ(ブユ)と目される小さな虫がワンワンブンブンで、口から鼻の穴から、耳にさえ容赦なく入ってくるゆえです。大変だったのです。
で、筆者は事前の準備ヨロシク蚊取り線香(モスキートコイル、虫除けコイル)を身体の前に点しています。それだからまだましなほうで、この虫除けコイルがなければきっと悲惨だったろうと思います。
事実、山頂手前で都会からと思しき25人くらいの中高年のツアーパーティーとすれ違ったのですが、もうかわいそうなぐらい格闘していました。
塗り薬や防虫スプレーの準備はしているのだろうけれど、誰ひとり、虫除けコイル持参のひとはいなかった模様。

今年の西吾妻の虫(ブヨ/ブユ?)の発生は確かに異常なほどだと思います。
山登りには、虫除けコイルは必携ということをあらためて思った次第。

そして、モスキートコイルは何も虫除けのためだけではなく、クマへの重要な伝達ツールでもある。
クマの嗅覚は人間の1億倍なのだそうで(数キロ先からハチミツの匂いが分かるらしい)、ならば人間由来のタバコや虫除けのにおいも同様。それは人間由来の熊鈴の金属音やラジオの音声がクマ除けに有効なのと同じことです。
以上は、親しくしている猟友会の方に聴いた話です。

西大巓までの道々。

イワカガミ(岩鏡/イワウメ科イワカガミ属)のピンク(韓紅)の花の美しさ。
この時期のお花畑というのは白系の花が多く、その中にあってピンクはひときわあざやかです。

小屋を過ぎてすぐの道脇のチングルマ。実に美しい群落です。

小屋から西大巓までの凹地に咲いたヒナザクラ。
雪解け水が流れるその傍らでたいそうな群落をつくっていました。
西吾妻登山って、この花を見るだけでも価値があるのでは。

アオノツガザクラ(青栂桜/ツツジ科ツガザクラ属)は常緑小低木。
小さな青白い鐘のようなたくさんな花が下向きに咲きます。

ウラジロナナカマド(裏白七竈/バラ科ナナカマド属)。
下の写真を見てから、あれ、いつも見ているナナカマドの葉の印象と違うなあ、いつものは葉っぱがもっと細く、尖っているはず、と思ったのです。
調べると、これは近縁のウラジロナナカマド。
ナナカマドの葉は全縁が鋸歯なのに対し、こちらの葉は周囲の3分の2ほどに鋸歯がはっきりしています。まあ、葉が俵みたいな形ということですぐ区別できそうです。

それにしても西吾妻は高山植物の宝庫であることを改めて認識しました。

今回の山行は、ここからが真新しいところです。
実はここから、西大巓からピストンで登山口に戻るか(普通はこれしか考えない)、それともはじめてのコース、西吾妻スカイバレー上の白布峠(しらぶとうげ)まで行くかでずいぶんと迷ったのです。
というのは、それはもちろん足に関わることだから。
クルマはロープウェイ駅の駐車場に置いてあるし、もしも白布峠まで行くなら、そこからロープウェイ駅(または白布温泉)までは約9キロ、これを歩くというのはねえ(-_-;)。
クルマを拾ってヒッチハイクさせてもらえたらなあ(笑い)。

西吾妻スカイバレーは峠越えのクルマが多く通っているはず、何とかなるだろう、何ともならないなら最後は歩けばいいことだし…、その時は歩く、大丈夫!ということをもって、白布峠をめざしたわけで(笑い)。
本当なら、家人とか友人にクルマの手配をしてからコース取りをするところだけれど、こういう一か八かというのは(山登りではないにしても)二十歳前後にはよくあったこと、ということで(笑い)。

西吾妻・西大巓へのルートというのは、米沢(山形県)側は、ロープウェイとリフトがある天元台コースと若女平コース(けっこうな長丁場)、そして今回の白布峠コースの3つ。福島側は檜原湖北岸からの早稲沢コースとゴンドラで中腹まで運んでくれるグランデコスキー場からのデコ平コースの2つ。
このうち、早稲沢コースと白布峠コースは筆者は未踏で、どのような植生なのかどんな風景なのか、そして登山道自体はどんな様子なのか、その未踏に興味があったのです。

白布峠コースは鬱蒼としたオオシラビソ(大白檜曽/マツ科モミ属)の樹林帯。

途中にわずかに開けた展望。
小さな島が確認でき、あたりは檜原湖の北岸のようです。

ミズバショウ(サトイモ科ミズバショウ属)が現れたので湿地帯(馬場谷地)に着いたことが分かりました。
ここまではかなりの急坂で、しかも石が苔むしていて滑りやすく、決して歩きやすい道ではなかったことは事実。
下りだからいいものの、逆にここからの西大巓への登りは思いきり汗を絞られそうです。

オオシラビソからブナ(山毛欅/ブナ科ブナ属)の林にと、標高によって林相が変わってきました。
明るさが広がってきました。

ブナの実はこのあたりは豊作になるようです。
クマにとってブナの実は冬眠前の主食ともいえる大切な食糧、この秋は安心というところでしょうか。

ブナのこんな太い枝まで折れて、今年の雪のすごさを物語っていたものです。

白布峠コースは、オオシラビソの同じ樹林帯の天元台コースの歩きはじめの道とも違い、花々に出会うというのは本当に少ないのでした。
そんな中から、

ユキザサ(雪笹/ユリ科マイヅルソウ属)。
雪解け後の葉のみどりが初々しく、花も独特で、我が家にも野原から移植したものがあります。
これは山菜のひとつです。

シダ植物のヤマソテツ(山蘇鉄/キジノオシダ科キジノオシダ属)。
一見、我が家に自生するシシガシラ(獅子頭)に似ています。
栄養葉はロゼットに開き、胞子葉は独特な形で直立します。
ずいぶんとたくさん見かけました。

 

下は、不明です。分かる方がいたら教えてください。
カニコウモリ(蟹蝙蝠)のような、山菜のドホナ(標準和名はイヌドウナ/犬唐菜)のような。

ギンリョウソウ(銀竜草/ツツジ科ギンリョウソウ属)。
腐生植物としてもっとも有名なもののひとつとのこと。
この腐生植物とは、直接的には菌類に寄生し、間接的には菌類と共生する樹木が光合成により作り出す有機物を菌経由で得て生活するという特殊な植物のようです。
この生活のシステムってすごいこと、まさに自然の神秘です。

あるひとがギンリョウソウを指して「薄気味悪い」と言っていたのを思い出すのだけれど、別名にユウレイタケ(幽霊茸)とあります。
栗駒の湯浜コースでもずいぶん見たっけ。

ツクバネソウ(衝羽根草/シュロソウ科ツクバネソウ属)。
輪生する4枚の葉が特徴的です。
今回、花というものをはじめて見ました。

ルートも終わり近くなって、峠のアスファルトの道路が見える頃に出会ったのが、オオバミゾホオズキ(大葉溝酸漿/ハエドクソウ科ミゾホオズキ属)。
月山で見たきり、久しぶりでした。

そして、ヤッター!(笑い)と心躍ったのは、ベニバナイチヤクソウ(紅花一薬草/ツツジ科イチヤクソウ属)に出会ったこと。
我がルーザの森には白花のイチヤクソウ(一薬草)は確認済みなのだけれど、このベニバナイチヤクソウは初めてのことです。
ずいぶんな数の株がありました。

下が、西吾妻スカイバレー上の、ルートの終点の白布峠。
先が檜原湖・裏磐梯方面、手前側が米沢方面です。

歩きはじめが午前9時半、白布峠到着が午後2時半ですから、わずかの休憩を含めて5時間の行程だったことになります。

さて、ヒッチハイク。

こちらからの合図で、クルマは止まってくれるものなのか。
筆者が知っているヒッチハイクの風景はおよそ45年も前のこと、今では社会の在りようも運転者の意識も違っているのは当然のこと。
ヒッチハイクって、運転者にすれば今はどんなふうに映るのだろう。ヒッチハイクをするひとって、このところ自分でも見たことがないし。

でも試しにと、1台目が来たので、大きく手を振りました。
軽く、無視です(笑い)。

次のクルマも奇妙な目を向けただけで行ってしまいました。
ただよく見ると、クルマの後ろにも荷物がたくさん! こういう、クルマ自体の事情もあるわな。

もっと合図の工夫が必要と思い、次は手を振ってから2度3度と大きくお辞儀をしました。
でも、これも無視(-_-;)。

これはダメだな、歩くしかないかと覚悟を決めたところでもう1台が来たので、同じように手を振ってお辞儀をすれば、何と、停まってくれたではないですか。
ラッキー!(笑い)

「下の温泉場までお願いできますでしょうか」と頼めば、「どうぞ、どうぞ。我々、時間を気にするものでもないし」とのありがたいふたつ返事でした。
“捨てる神あらば拾う神あり”というのはこの時のために用意された言葉だろうか(笑い)。

乗せていただいたのはいかにもひとがよさそうな70代前半と思しきご夫婦。
もうすでにどちらも現役を退いており、クルマで方々に出かけて観光をしたり、名産品を買ったりということを日々の楽しみにしていらっしゃるふうでした。
本日は、いわきから郡山、猪苗代湖を抜けて裏磐梯、そしてサクランボ目当てに白布の峠を越えるとのこと。

結局はわがままを言って、ロープウェイ駅の駐車場まで送っていただきました。
御礼は乗せてもらう前から、白布温泉の、筆者お気に入りの素敵な酒屋“かもしかや”の隠れ銘酒の地酒をと思っていて、それを口にすると、「オレは酒は飲まない。礼なんて何もいらない。誰か困っているひとがいたら何かしてくらんしょ(してください)」ということでした。なんとも潔い!

いわきナンバーの日産リーフさん、どうも、ありがとうございます。
よい時間と楽チン(笑い)をいただきました。感謝です。ああ、助かった(笑い)。

ということで、まずさしあたって、ヒッチハイク希望の(特に下山後の足に困っている)老若男女問わず誰でも、筆者のクルマに気軽に声をかけてください。拾って差し上げます。
ただし、カップルや親子連れなど複数はお断りです。なにせ筆者の愛車は軽トラ、スズキキャリーですから(笑い)。もうひとりは荷台に、というわけにはいかないですから(笑い)。

それじゃあ、本日はこれで。
バイバイ!

 

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