森の小径

彩りの時間

11月1日前後というのは筆者には特別な時間で、雪が来るという切迫感も何のその、やりかけの仕事もひとまず脇に置いておいて。あたり一面が無彩色になる前のあざやかな彩りを存分に楽しむ(心に吸収する)ことにしているのです。
ときにふらふらとひとりで、ときに相棒と連れだって。

ここルーザは東北の日本海側気候(夏暑くして冬に厳しく豪雪)の典型的な森、落葉広葉樹がおおう森です。

晩秋ともなればあたりが飴色から枯れ色に、やがてその色も褪せるころに雪はやってきて、雪はとめどなく降りつづき、長い長いトンネルを抜けるがごとくの雪解けのころのひかりといったら…。春爛漫、山菜が一斉にふきだす若葉のころ、濃いみどり、湿潤でうっとうしいほどの梅雨が過ぎれば今度はうだるような暑さにうんざり、さわやかな秋の風吹いて、やがてはあたりは赤く黄色く染まるのです。そしてまた飴色の風景に還ってゆきます…。
これがこの森の1年という時間の経巡(へめぐ)りです。

筆者は、この四季折々の、寒暖差激しく、色彩が移り変わるルーザの森が好きです。
生まれ変わって新たな住む場所を得よと言われたら、まちがいなくまたルーザの森を選ぶはずです。

今回のsignalはそんなルーザの森の深まりゆく秋のスケッチ、題して「彩りの時間」。
散歩をしながら目にした愛しい植物たちのこと。

下は、ヒュッテ(私設の山小屋=ルーザ・ヒュッテ)の窓から見えるヤマモミジ(山紅葉/ムクロジ科カエデ属)。
ヤマモミジは黄色に変わるもの、そこからさらに赤に変化していくものもあって様々です。
ヤマモミジはイロハモミジ(伊呂波紅葉)と非常によく似ているのだけれど(種はちがえど自分にはまだ区別ができない)、イロハモミジは福島以南の自生だとか。

ヤマモミジの幼木。
葉をみどりから黄色へ、黄色から赤へ変えようとしています。

家の裏手にあるウワミズザクラ(上溝桜/バラ科ウワミズザクラ属)。
ウワミズザクラは5月の半ばに瓶ブラシのような美しい白い花が咲き、秋に黒熟するまばらなブドウのような実をつけるのですが、これはクマの大好物。
葉は個体によっては美しい赤味もさして、まるでセザンヌばりの色彩を呈する木です。

下は、ヒュッテの南に自生しているカスミザクラ(霞桜/バラ科サクラ属)。
日本の野山に自生するサクラの10種ほどの基本野生種のひとつ。
この黄色も美しいです。

南に隣接する広場への切通しに自生するノギラン(芒蘭/キンコウカ科ノギラン属)の枯れ様。
見ようによって、この枯れ色にわずかにさすオレンジは美しくもあり。

山菜の女王と呼んでいい、ゼンマイ(薇/ゼンマイ科ゼンマイ属)の葉も黄色味をおびて。

ワラビ(蕨/コバノイシカグマ科ワラビ属)の葉は黄土色がかり。

タカトウダイ(高灯台/トウダイグサ科トウダイグサ属)の独特な立ち姿。
これは道端の乾いた場所のものですが、秋の湿原の草紅葉のひとつです。
全草が毒とのこと。

ノブドウ(野葡萄/ブドウ科ノブドウ属)の美しい果実。
この紫から青の様々なグラデーションが目を楽しませてくれます。
筆者は長いことこれを草(草本)と思っていたのだけれど、実際は木(木本)なのですね。

ヤマノイモ(山芋/ヤマノイモ科ヤマノイモ属)。
掘って芋を収穫することはないけど(熱心に掘って収穫したならきっとおいしいだろう)、蔓のところどころ(葉腋)につく子芋ともいうべきムカゴを集めてご飯に炊き込むのは美味。秋の楽しみのひとつです。

薪にするために樹勢の衰えたコナラ(小楢)を伐採し、玉切りにして放っておいたところに発生したムキタケ(剥茸/ガマノホタケ科ムキタケ属)。
もう何度か収穫して、味噌汁の具やバター炒めで食べました。とてもおいしいです。
このへんの産直では店頭に並ぶことはありませんが(ここ米沢・置賜地方ではムキタケを下等なキノコとして見下している風潮がある)、秋田は雄勝の道の駅ではたくさん並んでいたことを思い出します。
山形県でも庄内では立派な食材としてその調理法も含めて紹介されています。

ヤマウルシ(山漆/ウルシ科ウルシ属)。
ヤマウルシの紅葉はとにかく美しいです。しぼったばかりの絵の具の赤から黄色から、めずらしくは紫味もおびて。

下はヤマウルシのようで、でもどこか違うなあ、葉に鋸歯(文字通りノコギリの刃のようなギザギザ)があるしとしばらく思っていましたが、こういうのは幼木によくあらわれる特徴なのだとか。

ヤマウルシは身近だけど同じようなのにウルシ(漆)があってどう違うのだろうと思っていたら、ヤマウルシは低木(3メートル以下)でウルシは高木なのだそうで。そうすると、この辺りにウルシの自生はないですね。

下は、ヤマウルシによく似ているけれどもヌルデ(白膠木/ウルシ科ヌルデ属)です。
葉軸に翼(よく)があります。
過敏なひとは要注意だけど、ヤマウルシとちがって樹液によるかぶれはないようです。

バイカツツジ(梅花躑躅/ツツジ科ツツジ属)の濃い臙脂の紅葉。
梅雨のころに花を葉の下につけるのだけれどとても目立たないです。
梅花と名がつきますが花が梅の花に似ているとは思わないなあ。
バイカツツジの葉はこれからさらに秋が深まるともっともっと紫味を強めて黒くなっていきます。

山菜コシアブラ(漉油/ウコギ科コシアブラ属)の白葉。
コシアブラは晩秋ともなると葉緑素が徐々に抜けて白化していきます。
落ちた葉は微生物によって分解されて葉脈をとどめるだけになりますが、それもまた美しいものです。

ホツツジ(穂躑躅/ツツジ科ホツツジ属)。
ホツツジの葉はまるでサクラが咲いたときのような淡い桃色になります。
若芽を食べたりするひとはいないでしょうが、有毒と指摘されている植物のひとつ。

オカトラノオ(丘虎尾/サクラソウ科オカトラノオ属)。
こんなに赤くなった個体もありました。

サルトリイバラ(猿捕茨/サルトリイバラ科シオデ属)も白化するようで。
サルトリイバラの棘はすごいです。
秋につける赤い実を集めて果実酒を作ったことがあったけどとても美味でした。けれど、収量を確保するのはとてもたいへん。

ヤマグワ(山桑/クワ科くわ属)は黄味がさして。

庭の、栽培品のミョウガ(茗荷/ショウガ科ミョウガ属)も黄味をおびてきました。
山菜のころに野山を歩いていると野生のミョウガに出会うことがあります。
種としては同じもののような気がします。

ここルーザの森の代表的な紅葉のひとつは、ウリハダカエデ(瓜膚楓/ムクロジ科カエデ属)でしょう。
ウリハダカエデはオレンジから深紅とそのバリエーションもさることながらとにかく色彩があざやかです。
下は、近くの笊籬沼(ざるぬま)のほとりの赤いウリハダカエデ。

笊籬沼のすぐわきの笊籬橋のたもとに生えるウリハダカエデ。

現在の笊籬橋からの風景。10月28日。

笊籬橋からの風景で中央の黄色いものはタカノツメ(鷹爪/ウコギ科タカノツメ属)。
これはコシアブラとともにとてもおいしい山菜だけれど、晩秋の黄葉も見事です。 

標高が350メートルと比較的高いルーザの森には(市中は約220メートル)めずらしく霧が出てきて、筆者はうれしくなって、朝に家を出て辺りを歩きました。
下は、右手が笊籬沼、行く手のすぐ先が笊籬橋という位置関係にあります。
“道に霧”というのはとても幻想的です。

霧の笊籬橋。

霧に包まれる笊籬溪(ざるだに)。11月1日。

笊籬沼の現在。

リョウブ(令法/リョウブ科リョウブ属)。
こんなに美しく紅葉するリョウブを目にしたのははじめて。目が覚めるような発色です。
リョウブは飢饉のときの救荒植物として奨励された(名がそれを表していますね)ということだけどどうだろう。ものの情報では山菜というくくりもあるけど、筆者はあまり食べたいとは思わないなあ。

トチノキ(橡木/ムクロジ科トチノキ属)の紅葉も見事。

我が家の敷地に自生するイタヤカエデ(板屋楓/ムクロジ科カエデ属)の黄葉。
この葉の黄色は本当に美しいです。黄色の中でも筆者が最も好きな黄色かもしれない。
和名でいえば鬱金(うこん)色が最も近いように思います。

幼木のコナラ(小楢/ブナ科コナラ属)が赤味のだいだいに色づいていました。もう少しすると20メートル以上にもなった成木も色味を濃くしていくでしょう。

下が現在の、コナラを背景とした建設中の車庫。
背景のコナラが紅葉し、やがて葉のすべてが風もないのにハラハラと散る姿は壮観です。
そうしてここ東北はつかの間の明るい森が出現するのですが、それは遅くない時期の冬の到来を意味します。 

冬が来るまで雪が来るまでにやらなければならないことの多さよ。
この追い立てられるかの切迫感は、雪国に住まう者たちの宿命です。
筆者は、車庫をなんとか形にと思っています。

今、彩りの時間が身体に染みこんできているのだけれど、この“色彩”というのは、冬を迎える身にしてみればそれは防寒肌着のよう、“ヒートテック”のようなものなのです。蓄熱ならぬ蓄彩?は冬を迎えるにあたっての準備といったところでしょうか。

それじゃ、また。バイバイ!

 

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