森の生活

イエロー インベーダー

よくテレビを見ていた頃、楽しませてもらったひとつがドラマ「北の国から」のシリーズ。
北海道を舞台にした黒板家の家族の肖像にはずいぶん笑いもし、ワクワクししんみりともしたものです。今にして思っても、すばらしいエンターテイメントでした。
ドラマに誘われるように、舞台である北海道は富良野の方々をめぐったし、歴代の黒板家の家屋が保存されている麓郷の森にも行きました。
まあ、都会からきて麓郷の地で開拓風情であたらしい暮らしをはじめた五郎さん一家に、筆者も少しだけ憧れを重ねていたことはあったかもしれない(笑い)。今、森暮らしをしているけれども、「北の国から」は直接ではないにしても遠因ではあるかもしれない。

下は、まだ健在だった父親と母親を連れて北海道をめぐった一コマ。1988年の麓郷の森、五郎さんの2代目の家屋。
現在の筆者はちょうどこの頃の母親の年齢になりました。時代はめぐるものです。

下は、家族でめぐった北海道キャンプ旅行の一コマ。1991年の麓郷の森、初代の家。
もう、朽ちている?と思ったけど、(ずいぶんと補修をしたんだろう)今もしっかり保存されているよう。

で、何で「北の国から」かというと、具体的には「北の国から’98時代」がこの記事の起こりです。
蛍が不倫の恋愛の末に(あの清楚な蛍がなんとまあ! もう別れた相手の)子どもを身籠っていたのだけれど、かねてより恋心を抱いていた幼なじみの正吉が(草太兄ちゃんのプッシュもあって)猛烈にアタック。そのバックに流れたのが加藤登紀子歌う「百万本のバラ」でした。
100万本ものバラを買えば数億円、ならばと野にいくらでも生えているオオハンゴンソウを刈っては届け、届けては刈ったのです(笑い)。これが功を奏してふたりは結ばれるという、オオハンゴンソウは立派な役目を果たしたというわけです(笑い)。

本題は、このオオハンゴンソウから。
このへんでオオハンゴンソウ(大反魂草/キク科オオハンゴンソウ属)は、7月の下旬から8月に入って花をつけます。
オオハンゴンソウという妙な名で(3つ4つ説があるようだけど)筆者がいちばんすっきりくるのは、特徴的な葉、これが幽霊の手に似ていることからという説です。反魂は、“死者の魂を呼び戻すこと”とあります。魂は幽霊の形をもってこの世に現れ出てくるという意からと理解するのです。
下の花は、米沢市郊外の山上地区の温泉場近くのもの。特徴的な葉は、宮城の栗原・一迫郊外のもの。

似た名の植物にハンゴンソウ(反魂草/キク科キオン属)がありますが、花は全く違えど、葉の形はよく似てます。
これからしても、名は、葉からきていますね。
下の写真は秋田駒ケ岳での撮影のもの。

このオオハンゴンソウは、実は環境省によって、“特定外来生物”(対象は生物全般。植物は16種)に指定されている草本なのです。
特定外来生物とは、「外来生物(海外起源の外来種)であって、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、又は及ぼすおそれがあるもの(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律=外来生物法)」を指します。植物の場合、その栽培や販売・配布は法律で厳しく規制され、罰則や罰金が設けられているものです。
これに該当する植物は、「全草を根元から引き抜き、丈が30センチを超えるものは30センチほどに裁断し、枯死させてから、ごみとして出すこと」(石川県加賀市等)と徹底した処理が促されているのです。

先の正吉クンがオオハンゴンソウを刈りに刈ったというのは褒められてしかるべき善行(笑い)、それをプロポーズに利用した行為も稀にみるグッジョブ good job!(笑い)だったことが裏づけられます。何せ、放送は1998年のこと、外来生物法の施行は2005年のことですからね。
先見の明!さすがは(脚本の)倉本聰センセイです(笑い)。

このオオハンゴンソウ、ここ米沢に限って(確かに市街地でも一部目にしますが)猛威を振るっているというほどではありません。筆者は時に福島、宮城、秋田などにも出かけたりしますが、東北各地でもさほどではないように思います。

ここ米沢および県南の置賜地方ではっきりと猛威と思われるのは、指定16種のひとつ、オオキンケイギク(大金鶏菊/キク科ハルシャギク属)です。
恐ろしいのは、オオキンケイギクは生態系に良からぬ影響を及ぼす植物なのに、市民が“特定外来生物”として認識していないことが挙げられます。その証拠は顕著、庭に大切に植えている家庭もあれば、中には株がしっかりと立つように紐でくくって大切にするほどの愛着ぶりなのです。したがって、花壇にも、街路樹の下にも、空き地にも、そして墓場にもと平然と勢力を伸ばしています。
しっかりしてください、米沢市民! 注意を喚起してください、米沢市!

東北(特に日本海側3県)の人びとが置かれている自然環境というのは、冬は辺り一面の白い世界に天井はどんよりとした鉛のような重々しい日々、それが5か月ほども続くわけです。そのために春の息吹は心の底からうれしく、彩りは解放へのシンボルとなって好まれるよう。南国でよく目にしそうなビビットな色をすき好み、オオキンケイギクの黄色が排除されないのはそれゆえなのかもしれない、とも思うのです。でも、はっきり言って、それは無知というものです。
下の写真のように、確かに街路樹の下の、園芸種のスイセンノウ(酔仙翁=フランネルソウ/ナデシコ科マンテマ属)のピンクとオオキンケイギクの黄色は取り合わせよろしく、一見美しく見えまたりします。

けれども、生態系に影響があるとすれば、そうは言ってもいられないでしょう。

八重咲きのオオキンケイギク。

もうひとつ、外来生物法に指定されているわけではないけれども、筆者が気になるのはコゴメバオトギリ(小米葉弟切/オトギリソウ科オトギリソウ属)という植物です。
コゴメバオトギリはオトギリと名がつくよう、日本のオトギリソウ(弟切草)の仲間、別名にセイヨウオトギリとも呼ばれています。
この草本の繁殖力もスゴイです。
下は、郊外の国道13号沿い、白布天元台、市街地のものです。ところを選ばずに増えています。

このコゴメバオトギリ、“セントジョーンズワート St. John’s wort”として、ヨーロッパでは有名な抗うつ薬・抗精神病薬の原料であり広く処方されてきた歴史があるのだとか。ただし、重篤な副作用があるとか、薬効いかにという議論もある植物とのこと(厚生労働省)。
一方、ハーブティーの材料に市販もされている植物でもあるようです。
日本のオトギリソウは、鷹の傷の妙薬として秘密にしていたものを弟が他人に漏らしたとして激怒した兄が弟を切り殺したことからの命名、いかにも薬効著しい名の植物ですが(実際に筆者もオトギリソウの焼酎漬けで傷薬を作って利用しています)、コゴメバオトギリもまた様々な人体に影響を持つ植物のよう。
知識として、覚えていた方がいいかもしれない。

もうひとつ、最初見た時に趣のある花だなと思ったのがコウリンタンポポ(紅輪蒲公英/キク科ヤナギタンポポ属)です。筆に赤橙の絵の具をつけたようで絵筆草の異名もあります。
ところが、芝生の全面を覆いつくすとしてどうでしょう。他の植物は生えること敵わず、徹底して駆逐されるほどの独占力と繁殖力、これも気になります。
コウリンタンポポは外来生物法での規制はないものの、北海道における環境保護のためのブルーリスト(侵略的外来種を程度で分けたリスト)に、“A2(第2区分)”として「本道の生態系等へ大きな影響を及ぼしており、防除対策の必要性について検討する外来種に指定」しているとのことです。やはり要観察です。
下は、市街地の市役所近くの北村公園での図。

そして、筆者が最近特に気になっているのが、ブタナ(豚菜/キク科エゾコウゾリナ属)です。
ブタナはタンポポに似た花をつけます。
名前は、フランスでの俗名“Salade de porc” が“豚のサラダ”を意味し、そこからの翻訳のようです。この名前、ブタナ本人は気に入っているのかどうか、豚クンにとってはどうなのかは気になるところではあります。
この繁殖力は尋常ではありません。先の北海道ブルーリストでも、A2指定を受けています。

下は近隣の川西町のある会社の庭を覆ったブタナ。

下は、白布高湯までの途中の道端。郊外にまで進出しています。
さらにそれは、標高が1,300メートルもの天元台高原にまで到達しています。環境、ところかまわずの感です。

そして下は、筆者の家からわずか約1キロ地点の道端のブタナ。
もうどんどんと勢力を拡げているのが一目瞭然なのです。我が家に到達するのも時間の問題かも。

筆者は、外来の植物が在来のものを駆逐して勢力を拡げるのを、やはりこころよくは思いません。そこに美しさは見いだせないのです。まずはみんなが、こうした植物を認識する必要があるように思います。

でも、こうして見てくると(セイヨウタンポポ/西洋蒲公英もそうですが)、侵略的要素を持つ植物はいずれも黄色の花をつけたもの(コウリンタンポポには赤味が入るけど)であるのは偶然の一致なのでしょうか。
筆者はこれを侵略者と見て、イエローインベーダーと呼ぶようになりました。いかにも外からの侵略者風でしょう(笑い)。
イエローインベーダーは我が麗しのみちのくの風景への挑戦だけでなしに、大切なアイデンティティへも手を伸ばしているようにも思われ。

全国、それぞれの場所では、以上のような花々はどうなんだろう。

それにしても、梅雨時らしい鬱陶しい日々だね。
庭には、ヘリアンサス(コヒマワリ/小向日葵/キク科ヒマワリ属)が花をつけはじめました。あっ、これも黄色だ、ヤバイ!(笑い)

では、バイバイ。