森の小径

彩り。雪が来るまえの

彩り、雪が来るまえの。

今年の紅葉は少し遅い気がするけれども、ここらルーザの森の彩りのピークはだいたいが11月1日。それ以降はどんどんと色あせて飴色や枯色に変わり、葉を降らせては雪を待つばかりとなります。

下は11月1日よりほぼ2週間にわたる笊籬溪(ざるだに)の風景の移り変わり。

この時期、ひんやりとした空気の中に森を歩けば、どうしてだろう、ゾクッとして得も言われぬ感動に包まれてしまうのは。凛とした幸福感に包まれると言ったらいいか。こういう感動があるがために、筆者の暮らしはもう森を離れては考えられないほどです。

下は、11月に入っての、今日(15日現在)までの紅葉(黄葉)の数々。

この世に漆のなかりせば……、とさえ思わせるヤマウルシ(山漆。ウルシ科ウルシ属)の極彩色。
筆者はいつかウルシにかぶれて顔がデコボコになったことがあるけれど(笑い)、この極彩色は貴重です。秋にウルシの赤がなければこの世はどんなに寂しいことでしょう。
このウルシ、ピークは10月の末のことで、11月に入れば一気に落葉していきます。

下はウルシによく似ているヌルデ(白膠木。ウルシ科ヌルデ属)。葉の中軸に翼(よく)があることで区別できます。
この植物はこれまで人間の生活にずいぶんと役立ってきたようで、実にタンニンを含んでインキの材料としたり、やはり熟した実から木蝋の原料としたり、生薬として、腫物や歯痛に用いられたとのこと。
これはウルシと違ってさわってもかぶれたりしません。ここから5キロほど先の八幡原(はちまんぱら)という工業団地近くにある公園のトチノキ(橡木、栃木。ムクロジ科トチノキ属)の実と黄葉。
実はクリのようでいて形がひとつひとつに個性があり、ながめているだけでも楽しくなるもの。我が家ではこの時期、とっておきの器に盛ってテーブルに飾っています。
朝日山麓の庄内地方ではこの実を用いてたいへんな手間ひまをかけて渋を抜いて加工して、とち餅をこさえているよう。とち餅って、何とも言えない風味がありますよね。

コマユミ(小檀、小真弓。ニシキギ科ニシキギ属)。
コマユミは、雪が来ても吊り下げた赤い実が落ちずにいます。真冬にあって、この赤と白はよいコントラストを作ります。この葉は淡紅色だけど、深紅になるものもあります。
賢治の名作「なめとこ山の熊」では主人公の小十郎が異界に入り込んでいくときに「まゆみの実」が登場します。“まゆみ”が物語の重要な位置を占めるのです。筆者はこれをコマユミに置き換えてもよいように思っています。マユミはコマユミと同科同属で、葉も実もよく似ていますがともにコマユミよりは大型です。ルーザの森にも少しだけあります。
なお、コマユミはニシキギという枝にコルク質の翼があるものと同じ扱いにするようだけれど、このあたりには翼のあるものは見当たりません。

下は、鑑山の取りつきに生えている木。葉が照り映え独特の紅葉をするのでいつも気にしているのですが、なかなか同定できないでいます。残念。

ヤマモミジ(山紅葉。ムクロジ科カエデ属)の淡い紅葉。
ヤマモミジは全体があざやかな黄色になるものも真っ赤になるものもあります。似たものにイロハモミジというのがありますが、この種は福島以西の分布ということです。

イタヤカエデ(板屋楓。ムクロジ科カエデ属)。
オレンジ色に色づいたものもたまに見かけるけれどもほとんどは写真のようなあざやかな黄色です。
この黄色が美しく魅力的で、我が庭にシンボルツリーのひとつとして植えています。
この木、カナダに有名なメープル(サトウカエデ、砂糖楓。ムクロジ科カエデ属)の代用として、樹液を煮詰めればメープルシュガーになるとのこと。
我が家では子どもたちが小さかったころ毎日曜に家族で読書会(輪読会)をしていたものですが、読んだ一冊にワイルダーの『大草原の小さな家』がありました。そこにメープルシュガー作りの場面があり、よいシーンだったことを思い出します。

リョウブ(令法。リョウブ科リョウブ属)。
若芽は山菜なのだそうだけれど、食したいとも試したいとも思わないなあ。
この名は、飢饉の時の救荒食物として利用されたことからという説あり。御触れを出して奨励したんだろう。天に向けてツンと立つ白い花穂が竜尾(りゅうび)からという説もあるそうな。

笊籬(ざる)橋のたもとのウリハダカエデ(瓜膚楓。ムクロジ科カエデ属)。
真っ赤になるものもこの写真のように美しいオレンジ色になるものもあります。標高が500メートル前後の山地の紅葉の代表選手のひとり。

サルトリイバラ(猿捕茨。サルトリイバラ科シオデ属)。
すごい棘があってサルも引っかかってたいへんなことになることからの命名でしょう。けれどもひとも同じで、藪漕ぎのときなどこの棘に引っかかるとちょっとつらいです。ナイロンの作業用のズボンなどすぐに裂きが入るので要注意です。
秋になるとノイバラのような赤い実をつけるのですが、この実は貴重です。この実をかき集めて一度、果実酒を作ったことがあったけど、出来上がりはとても美しいガーネット色、味も野性味あふれて絶品だったことを覚えています。

これも同定がむずかしかったのですが、クマヤナギ(熊柳。クロウメモドキ科クマヤナギ属)ですね。なぜ戸惑ったかと言えば、クマヤナギは蔓性でどうにもそのようには見えなかったから。でもこの葉は間違いないです。

下は、初夏のクマヤナギの実。赤い実はやがて黒熟します。この黒熟した実を口に含めば少々の渋みもありますがとても甘いものです。これもおいしい果実酒ができます。

我が家の車庫の後ろに自生するハウチワカエデ(羽団扇楓。ムクロジ科カエデ属)。
この画像では薄いみどりからだいだい、それから深紅と様々なものが混在していて、これはこれでよい。これも山地の紅葉の代表選手のひとり。

標高にして350メートルくらいのここルーザの森は垂直植生ではナラ帯に属していますが、その代表格がコナラ(小楢。ブナ科コナラ属)です。ここはいたるところコナラに覆われています。50メートルほど標高が下がればクヌギ(椚。ブナ科コナラ属)が自生しており、ここらより少し標高が上がればブナ帯の代表格のミズナラ(水楢。ブナ科コナラ属)が出てきます。
そのコナラの黄葉。

コナラは普通黄色系に色変わりするものですが、中にはこんなふうに赤系になるものもあります。クロモジ(黒文字。クスノキ科クロモジ属)。
クロモジの葉の黄色もあざやかです。クロモジは高級な楊枝にされますが、その香りよい樹液の黒文字油が最近また脚光を浴びだしたようです。

ホツツジ(穂躑躅。ツツジ科ホツツジ属)の紅葉。

山菜として利用できるタカノツメ(鷹爪。ウコギ科ウコギ属)。冬芽が鷹の爪のように鋭いところからの命名です。若芽の山菜としての味を知っている人は、かなりの通だと思います。利用できることがあまり知られていないのです。
これは少々褪めていますが、本来ははっとするような美しい黄色です。

早春の花として愛でられるマルバマンサク(丸葉万作。マンサク科マンサク属)の黄葉。

ガマズミ(莢蒾。レンプクソウ科ガマズミ属)の紫がかった紅葉。
秋の赤い実といえば、たいていはこのガマズミを指すのではないでしょうか。ひとが食べても甘酸っぱくておいしいので、野鳥(ヒヨドリ、ツグミ、キジバト、ムクドリなど)は当然大好き。ツキノワグマも好んでいるかもしれない。

クリーム色からどんどんと色素が抜けていくコシアブラ(漉油。ウコギ科ウコギ属)。
雪が降る直前ころには、落葉して葉肉が分解され葉脈だけになったものも目にすることができます。

晩秋の紅葉が光彩を放ったのちは急速に彩りがあせていきます。そして雪が来て、何もかもが無彩色になってひとびとの暮らしを押しつぶしながら長い長い時間が横たわるようになります。これが(特に奥羽山脈西側の)東北です。
この時間の流れにあらがうことはできません。よって東北には東北の、独特の人生観や気質が備わるのも自明なのです。そして筆者は、何もかもをひっくるめて東北が好きです。

久方ぶりに鑑山に登ってきました。晩秋のルーザの森を俯瞰したかったがためです。
ちょっとした暗がりになっているのが我が家、まわりをコナラが取り囲んでいるのが分かります。胸のすくような美しい彩りです。

鑑山のふもとの笊籬沼も晩秋。

さて、晩秋はきのこ採り。
木の葉が風吹くことなくはらはらと舞い落ちる中を歩けば、そこはすぐにもムキタケ(剝茸。ガマノホタケ科ムキタケ属)の森。もう樹勢の衰えかけた木に目ざとく取りついては我が世なのです。
そしてここ5年ほどのことだけれど、何とここに、ムキタケと混在してナメコ(滑子。モエギタケ科スギタケ属)が出てきたのです。この上なくうれしいです。

で、ムキタケもナメコも樹上高くまで生えていること多く、とても採り切れるものではありません。そこでいくらかでも高いところのものをと工夫したのが下の特製採り棒です。竹竿の先に木をへら状にしたものを取りつけて石づき部をこそげ、こそげば網に入るという仕掛けです。これなら地上より5メートルくらいのものなら採ることができます。これ、特許ものじゃないかしら(笑い)。
これまではナメコの菌駒を買ってきて打って栽培していたのですが、天然ものが出てきたのでそれはもうやめました。

音と言えば野鳥の声ぐらいの、うら寂しげな晩秋の森を歩くと心落ち着くのは何でだろう。世俗を排して静謐な時間が横たわっているからだろうか。そうしていつもの美しい淵にしばし佇んでから家路につくのです。

そうして家に帰りつくと、車庫の裏の春になればエイザンスミレが咲く場所に、何とムラサキシメジ(紫湿地。キシメジ科ムラサキシメジ属)が出ているではありませんか。
ムラサキシメジは見つければ1本ということはないのです。胞子が放射状に散らばるためなのか大きな円環を作るからです。今回の円環は半径にして約3メートルほどのもので、そのカーブを追っていくとありました、ありました、そこで10本近くも採ったでしょうか。
このきのこの味と香りと歯ざわりと言ったらないのです。この日はさっそくにもきのこ汁でいただきました。

雪が来るまえの最後の仕事のひとつ、春から道々に立てておいた看板を外してまわって、筆者の晩秋もいよいよ終わりです。今年もずいぶんとゴミを拾いました。
明日には雪という予報。いよいよ雪が来ます。