1月7日~9日の、今季(2020-21年)3度目の(北陸、新潟、秋田を襲った)寒波はここルーザの森をも覆って猛吹雪でした。
吹雪というのは、こちらはただぼーっと見ているだけで何の手出しもできません。普段は大手を振って歩くヒトもこんな時には実に小さなものです。
まあここは雪国、これからが冬本番でこれは序の口、こんなので嘆いていてははじまらないことですけどね。
下は、ヒュッテの玄関ドアの窓から。
ヒュッテの呼び鈴も凍りついて。
谷川の水も冷たかろうて。
吹雪はようやく収まったようで。
無彩色。
無彩色。
「春遠からじ」、なんてまだまだ。
あたりはどこを見ても寒々しい無彩色。
荒涼とした白い風景が広がるばかり(「絶望の風景」…気力・体力の落ちた高齢者にすれば、たいがいがこう表現するんじゃないのか)。
この風景をどう見るかは、気力充実もしくは衰えのバロメーターかもしれない。
現時点では春というものは望むべくもないのだけれど、せめてこころには春を、と思うのです。
雪国の人間にとって、春という言葉は特別な響きがあり、それは特別な光、特別な希望なのです。
*
友人からいただいたユズ(柚子)の黄色は、ひとつの春のシグナル。
黄色を目にし、黄色を手に取り、黄色を剥いて、黄色を刻んで、黄色で器をいっぱいにして……。
吹雪がやんで、ユズが、ひさしぶりのおひさまの光を浴びています。
何とあたたかくも美しい景色なのだろう。
ユズを目にし、ユズを手に取り、ユズの皮を剥いて…、せめてこころには春を。
部屋中にユズのさわやかな香りがただよいます。
ユズの皮を刻んで…。
ん~ん、いい香り。身体を芯から清浄にしていくというか。
ユズの皮のみじん切りを器にいっぱいにして…。
ユズ皮のみじん切りをミキサーでさらに細かく切り刻んで…。
細かくなったユズ皮をすり鉢に移して…。
トウガラシ(唐辛子)を用意して…。
このトウガラシもいただきもので、半年から1年間じっくりと乾燥させたものです。
ユズにトウガラシと塩を加えて、和えて。
そうして、“柚子胡椒”の出来上がりです。
ここに使われているスプーンはあまり見慣れないものだと思うけど、お隣り韓国の李朝ものです。“スッカラ”というみたい。
李朝時代のものかは定かではないですが(たぶんちがうと思う。民藝で有名な仙台光原社では「李朝時代のもの」として売っていたと思いますが)、真鍮(しんちゅう/黄銅、ブラス)を叩いて作った鍛金製です。
掬(すく)う部分が平べったいのが特徴で、口に運ぶというよりは取り分けに重宝しています。今回は混ぜ合わせの道具として。
柚子胡椒はこれで3度目の取り組み、今回はトウガラシの種をあまり気にせずに入れたのだけれど、これが強烈で、今までとは比べ物にならないくらいの辛いものになったのでした。そしてトウガラシは、規定分量ではなく(説明書きは“生”の重量であったらし。こちらは完全な乾燥状態のものをその重さで入れたのは判断ちがいというもの。失敗、失敗)少しずつ、少しずつ加えるのが鉄則だということを学びました。
で、これではとても辛くて普段使いになりそうもなく、八百屋から大きめの5個を購入して新たに皮を刻んで加え、辛味を抑えたものを作ったのでした(全部というわけにはいかなかったので、あとは辛ければ辛いなりの使い方をします)。
柚子胡椒というのは万能調味料と言ってもいいですね。
我が家ではうどんやそばに、湯豆腐などの鍋のつけ汁に使います。それから筆者がよく作る“アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ”(オイルパスタ)にも使うけれども、これがとてもよく合うのです。そしてマヨネーズベースのキャベツのサラダに。これも素晴らしい。
でも、コショウなど使っていないのに、なんで“柚子胡椒”と言うんだろう。
こちらの感覚からすれば、“柚子唐辛子”だと思うのだけれど。
*
小正月(1月14~16日あたり)は団子木、小正月は何といっても団子木飾りがなければはじまりません。
ここ米沢ではこの時期、マーケットに(長さ150センチほどの)ミズキ(水木/ミズキ科ミズキ属)のひと枝が250~300円ぐらいで売っているほどですから団子木飾りはかなり一般的です(この古風な小正月の風習が近年見直されてきて、一般家庭にも少しずつ広がっているのかもしれない)。
当然ながら我が家ではミズキの枝を買うことはありません。まわりの野山にいくらも自生していますし、敷地にも生えています。
今回も敷地のものから約300センチ弱の大ぶりなふたまたの枝を伐ってきてリビングに取りつけ、そこに毎年毎年くりかえし使っている船せんべいなどを下げました。
鯛や恵比寿や、打ち出の小槌や大判小判、それにたくさんの団子様(よう)の縁起物…、桃色に、黄色に、青に緑にと華やぎの色合い…、こうして筆者たちはまずはこころに春をたくわえ、少しずつ少しずつ本当の春を呼びよせるのです。
せめてこころには春を、です。
団子木飾りにミズキの枝を使うのは、ミズキは(水をグイグイと吸って)防火の役目の象徴として、木の芽がすべて上を向いていることによる上昇機運、育ちが早い木ゆえの子どもの健やかな成長への祈りが込められているという。
春よ来い、早く来い、だ。
この団子木飾りは、風習にしたがえば小正月が終われば片づけてしまうところ、我が家では春を呼ぶ縁起物として雛人形をしつらえるまでは飾ることにしています。
*
戻ってまた、ユズの話です。
ユズを送ってくれた友人に聞いたところ、地元の三重ではユズは柚子胡椒のほかにポン酢への利用、それから“柚子味噌”や“柚子麹味噌”を作るとのこと。
ではと今年は柚子胡椒の他に“柚子麹味噌”に挑戦することにしました(柚子味噌には味噌を使い、柚子麹味噌には使わないのですね)。
細かく切り刻んだユズ皮に麹をほぐして入れ、醤油を注ぎます。
そして発酵の力に信頼してそこから1週間冷暗所で寝かせ、日に一度はかき混ぜます。
そうしてかき混ぜていると、日々様子が変わっていくのですね。
1週間で、ずいぶんと滑らかになりました。
発酵の力ってすごいです。
かき混ぜかき混ぜ1週間が経過して、それにキビ砂糖を加えて弱火で煮て完成です(味噌は使わないのに本当に味噌みたい)。
火を入れるというのは、発酵の菌の活動を停止させるということなのでしょうか。
砂糖は少しずつ加えてちょうどよい甘さのところで投入をやめましたが、これはものの情報で紹介されていた量の約半分ほどでした。
情報通りなら、我が家の舌には甘すぎてきっと失敗作になったろうと思います。
で、せっかくの完成品、これは試さない手はないと、もらいもののダイコンで“風呂吹き大根”を作ってみました。
煮崩れせぬよう、面取りも怠らずに。
それを薪ストーブの上でコトコトと。
灯油やガスなどの化石燃料を使うことのない薪ストーブで煮炊きができるのは素敵なことです。
そして、はじめての柚子麹味噌をダイコンの上に載せて。
甘じょっぱさとユズのいい香り、いやあ感激です。ダイコンのほんのりした甘さと柔らかさとこれはベストマッチです。
これはたまらんね。
相棒のヨーコさんが、ではとご飯にのっけて感激しているので自分も試したけれども、これもすごいです。
この柚子麹味噌、絶品です。
下はその日(12日)の夕食。
風呂吹き大根に、(時計回りで)ご飯に“雪菜のふすべ漬け”(雪菜は雪を掘り出して収穫する辛味のあるご当地限定の独特な野菜。ふすべ漬けの「ふすべ」はふすべる=さっと湯通しするの意の方言という)、燻製の生鮭のマリネ(ソースもレモン汁からの手製でこれもgoodでした)、それから正月定番の自家加工のゼンマイの煮つけ、そして天然のなめこの味噌汁。
素朴ながらもこの夕餉は、小さなしあわせというものでした。
吹雪の収まった日に近くの橋まで散歩をしたら、欄干が笑っていました。
この口は、オバケのQ太郎?(笑い)。
(吹雪などの冬の厳しさが収まる2月20日頃まで、)あともう少しの我慢、もう少しの辛抱。
こんなに雪深いところに住んで、雪に苦しめられもするけれども、雪のないあたたかなところに住みたいなんて考えたことがないです。やはり、春の光の特別な美しさを知っているので。
それじゃあ、バイバイ!
※本文に割り込んでいる写真はサムネイル判で表示されています。これは本来のタテヨコの比から左右または上下が切られている状態です。写真はクリックすると拡大し、本来の比の画像が得られます。
*下は2019年に製作してアップした、youtube「団子木飾り篇」です。我が家のここ15年ほどの団子木飾りのスナップを紹介しています。記事の関連として。