森の生活

ラ・フランス小咄

「たった今、ものすごい贈り物が届きました! 梱包を解くまでもなくかぐわしい香りが部屋に広がってきました」「本当にいただいてしまっていいのかしらん?! と家族中でうろたえています。と言いながら開けてみると、“食べ頃は11月26日です”?! ひゃああ~!食べなきゃあ~~!!」。
後日にはさらに、
「職場の仲間におすそ分けしたところ、“こんなにおいしいのは初めて食べた!”、 “話に聞いたことしかなかったものを初めて食べた!”とみなさん大喜び。私は鼻高々でした(笑い)」。

と、こんなメールが届いたのです。まるで、遠い遠い地球の裏側からでもあるかのような興奮の度合いの(笑い)、ビックリマークたくさんの(笑い)。これにはこちらがビックリしてしまって、うろたえてしまいました(笑い)。展示会でお世話になったささやかなお礼のつもりで送ったわずかなラ・フランスだったのに。

メールの主は九州は佐賀のミナコさん。一度きりしかお会いしたことがない人、でもとても身近なひと。
2012年か13年だったと思う、彼女は現職の教員にして大学院に進んだのでしたが(社会人入学)、その時の修士論文のテーマが「未就学者の就学」でした。このことをちゃんと説明するととてつもなく長くなるのでざっくりいきます。障害のために義務教育を“免除”という名の切り捨てにあってきた人が過去に大勢いたのです。1979年の養護学校義務制実施以前の人たちです。言わば、教育の負の遺産です。それが近年、自治体単位で就学が認められ出した、そのことを追求したテーマでした。当時は筆者も特別支援学校の教員であり、そのことを追いかけて全国の集会にも顔を出し、運動を主導する方たちとも関係を持っていました。ということでだったろうか、彼女はこの問題に関心を寄せる全国の人たちにアンケート調査を行ったのですが、それに対して応えていたら、是非あなたのところの現場を直接取材させてほしいという申し出(その熱意!)となり、わざわざ佐賀より当方の米沢においでになって一日を共に過ごしたのでした。それをきっかけにして情報交換をしながら今日まできたというわけです。

話変わって、妻のヨーコさん。
ミナコさんのラ・フランスへの興奮について語ったところ、彼女は話を接いできて、思い出話をはじめたのです。
結婚前のこと、当時は福島にいた彼女が筆者の住んでいた仙台に遊びにきていて、駅前あたりをふたりでブラブラしていたそうな。その時、露店で売っていたラ・フランスを小生が見つけ、「これは山形の名産なんだ」となつかしんで買って帰ったのだという。彼女はその時、ラ・フランスという果物をはじめて知り、はじめて食べたとのこと。そして曰く、“世の中にこんなにおいしいものがあるのかと驚いた”、さらに言うには、“その時に結婚を決めたのかもしれない(笑い)”という落ちまでをつけて(ホントかな?笑い)。
と、(このことは小生にすればすっかり忘れていたことなんだけど)考えてみると、その時、路上でラ・フランスに目を留めず、買って帰らなければ、この人は傍らにいなかったということになったのかもしれず(笑い)。
恐るべしは、ラ・フランス!(笑い) 偉大なるかな、ラ・フランス!(笑い)ここでちょっと、ラ・フランスについて触れますね。
山形県は東置賜郡宮内町(現南陽市)生まれの筆者にとって、この果物は幼少の頃からまわりに普通にあったものです。けれども当時はまだ、デコボコして形がよくないという理由ともぎたては固くて食べづらいということで市場が受けつけなかったのです。むしろパートレット(バートレット)などの少し経てば黄色に変わるスキッとした形の西洋梨がもてはやされていました。しかし、地元の人間は知っていました。収穫後に時間をおいて少しやわらかめになったラ・フランスは素晴らしいと。そういう追熟後の食べ方とその味が認められ出したのは、自分の感覚で言っておよそ40年ぐらい前1970年代の半ば頃からだと思います。
全国の約8割を占める主産地の山形県では今、ブランド化のために毎年販売開始時期を規制していて、今年は10月22日とのこと。これは最もふさわしい食べ頃を出荷の時期で調整し、できるだけおいしく食べてほしいという願いでもあるようです。
ラ・フランスは今、遠い地方では確かに高級果物のイメージなのかも知れませんが、産地のこの辺では八百屋にスーパーマーケットに道の駅にと普通然として並んでいます。値段も手ごろで、中ぐらいの玉のものが6~7個の袋づめで400~600円程度です。まあ、産地の幸いというものですかね。

下は、20数年前に作ったカービング(彫刻)のラ・フランス。燭台の両側に置いて、窓辺の飾りにしています。これは先のsignalの「リンゴのことなど」と同様、薪にしようとして割っていたハン(榛)の木を彫り上げて彩色したもの。
一番上の写真、笊に入った6個の中のひとつはこれが混じったニセモノです(笑い)。

下は、ガラスのナシ。窓辺飾り。冬に向かうこの時期、リンゴとラ・フランス、それにミカンがあれば、幸せですね。
なんでだろう、その色が冬の無彩色に対して見事なほどのあざやかさだからだろうか? 季節ごとに身体に染みついている味覚を満たすからだろうか?