今回のsignal「泥湯三山の秋」は、前回の「泥湯の秋 栗駒の秋」の続篇に当たります。
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この(10月)16日に方々に立ち寄ってから泥湯に至ったのはすでにお知らせの通り。
この秋の泥湯行きの大きな目的は、泥湯三山と称される山々、小安岳(おやすだけ、1,292メートル)、高松岳(1,384メートル)、山伏岳(1,315メートル)をつないで周回するコースを歩くことでした。
はじめての山の場合、筆者はよくYAMAPのwebサイトを参照します。
そこに投稿しているひとの(できれば直近の)途中途中の写真を見てコメントを読んで、特徴的な場所の様子を含めてコースを頭に入れ、地図と照らし合わせながらシミュレーションをしていくのです。そうするといろんな気づきをするものです。
今回の「泥湯三山」または「高松岳」の事前の印象としては…、
まずこのコースを歩くひとがきわめて少ない(アップ数が少ない)ということ、
1,300メートル程度と標高は低いながら、三山いずれも森林限界を超えており気候はきびしい、標高差は640メートル。
そして意外にロングトレイル。地図で確認すると、休憩時間を入れない標準コースタイムで6時間35分、休憩を入れれば約7時間なのです。
「泥湯三山」は、決して安易な山じゃないありません。これはきつそうです。
準備は怠りなく行います。何かあっても、山では誰も助けてはくれません。
登山の場合、食料とレインスーツは必携、さらにはこの時期として防寒対策も必要、それでダウンのベストをリュックにつめ、ズボンの下にはヒートテック、もう出発からしてゴアテックスのレインスーツを上下、身につけようと思います。
はじめての山のこと、クマとの遭遇にも気を遣いました。
よく響く熊鈴を2ケ、糞とか食べ跡などの行動の気配がする場合のために銃の音に似せたロケット花火の用意もしました。
泥湯に着いた16日の夜に考えました。登山は17日がよいか18日の方がよいか、です。
事前の1週間の天気予報および直前のラジオの情報でも、どちらかといえば18日の方がよいことは分かっていました。けれども18日なら休養することなく翌19日に長時間の運転での帰路となります。それよりは18日をゆったりと過ごす方はよい、17日は天気が崩れる時間帯はあるけれども対応できないほどではない、こんな判断が働いての17日でした。
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早起きし、早々に朝食を済ませました。
体調も良し、準備は万端です。宿から200メートルも歩けば登山口です。
登りはじめは朝の6時30分でした。入山届を書いてポストに入れて、と。
歩いてほどなく目にしたのは歪曲するブナの樹形、これからしてこの山域がどれほど過酷な自然環境にあるのかが分かろうというものです。
これは山菜のミズ(ウワバミソウ/蟒蛇草/イラクサ科ウワバミソウ属)の実。
ミズの実は途中立ち寄った雄勝の物産館にたくさん売られていたものです。
実(みずこぶ、みずのこ)というのはむかごです。これが落ちてそこから根を張り芽を出して増えていきます。
筆者はミズがむかごをつけるのは知ってはいましたが、それが商品になっているのははじめて見ました。
秋田ではこの時期、ミズの実はかなりポピュラーな食材のようです。
ちょっとネットをのぞくと、さっと茹でて、希釈しためんつゆに浸してひと晩置けば、“ミズの実の醤油一夜漬け”の出来上がりなのだとか。今度やってみようと思います。
あっ、ウダイカンバ(鵜松明樺/カバノキ科カバノキ属)の葉。
シラカンバ(白樺)に似た灰色の樹皮は多少濡れてもよく燃えるので松明(たいまつ)に用いられ、それが鵜飼いにも用いられたことからの命名ということです。
我がルーザの森にも家のすぐ近くに1本だけ確認しています。アイヌにとっても重要な樹木だったよう。
あっ、ホオノキ(朴木/モクレン科モクレン属)の葉。日本に自生する樹木のなかで最大の葉ですね。
飛騨高山に有名な朴葉味噌はおいしそうです。
山を歩く楽しみはいろんな食材にありつけることにもあります。
下は、ブナカノコ(ブナハリタケ)。
筆者の森にはブナ(山毛欅)はないのでこのきのこにありつくことはできません。少々、ゲットです。
そして、なんとアイシメジ(ハエトリシメジ。近縁としてシモフリシメジ)ではないですか。
これは優秀な食菌です。これはもう即決、きのこ汁ですね(笑い)。
これについては前回のsignalで書いていますのでご参照のこと。
いやあ、みずみずしくていかにもおいしそうなきのこ、と素人は思うのです。ところがどっこいです。猛毒菌として有名なツキヨタケがこれです。
きのこ採りをはじめようとする者がまず最初に覚えなければならないきのこです。
ツキヨタケは、食菌であるムキタケやヒラタケに非常によく似ているけれども、ひとつ採ってみて石づきの部分を見れば分かります。ここが黒くなっているのがツキヨタケの特徴です。ただし、ムキタケやヒラタケと混生している場合があって、こういう時には特に注意が必要です。
筆者がこのきのこに遭遇したのはもう30年も前のことだけど、おいしそうなきのこに出会ったということで大量に採ってきたことがあったのです。でも、ツキヨタケは暗闇で光るものと何かで読んだことを思い出して暗室に入ってびっくり、本当にヒカリゴケのように青緑の蛍光色に光るのです(-_-;)。早まらなくてよかった!
分からないきのこは持ち帰る、持ち帰って信用できる図鑑とにらめっこをする、これがきのこを覚えていく基本です。近くにくわしい方がいればいいですが、筆者はそういう方には恵まれなかったので図鑑を頼りました。
なお、筆者が参考としている図鑑は『きのこ 見分け方 食べ方』清水大典著、家の光協会(1988)、『山溪カラー名鑑 日本のきのこ』今関六也・他著、山と溪谷社(1988)の2冊。
清水大典さんは米沢にお住まいだったということもあり、とても親しみがあります。当地方のきのこにとても明るいです。
スギ(杉)ではない(カラマツ/落葉松だろうか)枝に出ていたスギワカエ(スギヒラタケ)。これもゲットです。
長いきのこの食の歴史で優秀な食菌とされていたスギワカエが突如、2004年以降、毒菌に指定されたのにはびっくりしたものです。このスギワカエが老人の急性脳症の原因というのです。
でも、我が家では今も普通に食べていますよ(笑い)。
泥湯三山はまさしく紅葉の季節。道々がうつくしく紅葉に彩られています。
ヤマウルシ(山漆/ウルシ科ウルシ属)の紅葉は見事。ヤマウルシは真っ赤になるものもあるし。
この世に漆のなかりせば、と切に思います。きっと潤いはないだろうな、と。
蔓性の、ツタウルシ(蔦漆/ウルシ科ウルシ属)。この赤もきれいなものです。
オオバクロモジ(大葉黒文字/クスノキ科クロモジ属)。クロモジの北方性変種。黄葉がうつくしいです。
筆者はこの春に、家のまわりにいくらでもあるオオバクロモジの葉を摘み、小枝を切って、それぞれをしっかり乾燥させてクロモジ茶をつくりました。それを日常的に飲用しています。
茶を淹れるたびに森の香りがして気分爽快です。
ナナカマド(七竈/バラ科ナナカマド属)。
ナナカマドの紅葉って、場所によってもその年によってもずいぶんちがうものだと感じています。
これまで一番感動したナナカマドの紅葉は磐梯朝日国立公園の浄土平や鎌沼周辺のものです。臙脂(えんじ)がかるほどに赤が際立っていたものです。
オオカメノキ(大亀木/ガマズミ科ガマズミ属)の紅葉。
オオカメノキの紅葉は多種多彩の色を発出して楽しませてくれます。紅葉の代表選手のひとりです。これも、見事!
オオバスノキ(大葉酢木/ツツジ科スノキ属)の紅葉。
ツツジ科の紅葉ってどれもあざやかなようで。
オオバスノキはハックルベリー(スノキ属の総称)の一種、和製ブルーベリーのひとつで、熟した実はとてもおいしいです。
ハウチワカエデ(羽団扇楓/ムクロジ科カエデ属)の紅葉。きれいな赤をつくり出します。
ミネカエデ(峰楓/ムクロジ科カエデ属)の黄葉。
黄色のミネカエデと赤くなるコミネカエデ(小峰楓)、それから炎のような色となるナンゴクミネカエデ(南国峰楓)は山々の紅葉に欠かせぬ主役です。
こうして紅葉を愛でつつの順調な足取りではあったのですが、登山中、落とし穴がありました。
この山の最も危ないのは、急斜面に道が切られていること、しかもその道幅が10センチとかのきわめて狭いところもあるのです。
特に、最初のピークである小安岳に至るまではこういった道が多く、ガレ場も数か所あって危険、注意を要します。
下は、岩場の急斜面。
ここは片方の足がひっかかる程度のくぼみしかなく(かつて登山道を切り開いたときに、鏨/たがねで少しずつ岩を削り取ったものだろう)、したがって吊り下げてあるロープをつたってしか進むことができません。
万が一ここで足を踏み外したら谷に向かって転げ落ちるわけです。遭難というのは、こういうところでも起きます。
慎重にわたって、セーフ!
この後でした、危険な目にあったのは。
今回筆者はコース中にぬかるみもあるということでトレッキングポール(杖)を1本携えて行ったのです。ポールは手の延長ですから3点の確保が容易です。特に、ぬかるみを通過するときには便利です。
今回、上のような岩の急斜面ではないにしても、やはり結構な斜面でそこに切られていた狭い道を通ったときのこと、進行方向に対して左から右へ下る傾斜面、筆者は右手にポールを持って地面を突きながら歩いていました。
ところがポールを突いたその場所は空間だったのです。落ち葉や草で隠れていて地面と間違えてしまったのでした。そしてその瞬間、一気に態勢を崩して身体ごと転がりました。1回転、2回転、3回転…、そして止まりました。小さな沢筋を8メートルほど転がって、幸いにも止まったのでした。セーフ!(-_-;)(-_-;)
泥だらけにはなりましたが、ともかくもセーフでした。もし、落ちたところがさらに急な場所だったらと思うとぞっとしました。
そういえば、10人ほどの(たぶん)ガイド付きの女性の団体の泥湯三山・高松岳のYAMAPの行動記録を見ていて、誰もポールを持っていなかったことが不思議ではあったのです。それはコースをよく知っている登山ガイドの、適切な指導があったということだったのですね。
今回の教訓は、急斜面の狭い道ではポール使いは厳禁、足で歩くというよりも、ふたつの手を十分に使い、這うように進んで切り抜けるべし、ということです。2度と失敗はしません!
そうして、小安岳に着いたのです。小安岳からは稜線歩き、あとは安心です。
眺望も出てきました。時おり、日も差してきました。
何とうつくしい紅葉だろう。
なんてすばらしい紅葉なんだろう。
英語圏の紅葉の訳を知っています? changing colors または leaves change ぐらいなようで、この味気無さ。
紅葉という日本語の奥ゆかしさ、そして情緒のうるわしさ。
道々、エゾオヤマリンドウ(蝦夷御山竜胆/リンドウ科リンドウ属)が咲いていました。
開花のピークは過ぎていましたが、エゾオヤマリンドウの山と言ってもよい西吾妻ではもうほとんど見られないのに泥湯三山はまだまだ、ということはエゾオヤマリンドウというのは、緯度が上がるほどに遅くまで咲くということでしょうか。
サラサドウダン(更紗灯台/ツツジ科ドウダンツツジ属)。
この紅葉もみごと、これから真っ赤になっていくのかもしれない。
ハナヒリノキ(嚏木/ツツジ科イワナンテン属)の紅葉。
ハナヒリとはくしゃみの古語、葉の粉が鼻に入ると激しいくしゃみに襲われるとのこと。
かつてはこの葉や枝を乾燥させて、汲み取り式便所の蛆殺しとして利用してきたのだそうで。
我がルーザの森のような400メートルくらいにも自生があるし、吾妻の2,000メートルくらいにも見られる垂直植生の幅の広い植物のひとつです。
ツルリンドウ(蔓竜胆/リンドウ科リンドウ属)の花と実と。
実の赤紫はルビーのようだし、花は清楚な感じがします。花はこれからどんどんと実に置き換わっていくのでしょう。
同じ時間にふたつを見たのは初めてかもしれない。
マルバマンサク(丸葉万作/マンサク科マンサク属)の紅葉。
あの雪解けのころの黄色な、小さなひも状の花をつけるマンサクがこんな紅葉をします。赤味を差すことなくまっ黄色のものも、ピュアレッドのものもあります。
ミヤマナラ(深山楢/ブナ科コナラ属)の紅葉。ミズナラの変種とされるナラです。
貧栄養の稜線上のルーザの森にもあるし、焼石岳や月山の高山でも目にした落葉低木です。雪国に適応しているそうです。
この標識の荒れようはクマの仕業です。
たぶんですが、この木柱には防腐効果の塗料をしみこませていたのでは。クマは臭いに反応します。でもこの噛み跡はもう何年も前のものですね。
クマで言えば、それらしき足跡がひとつあったのは確か、でも稜線上に食べ物はまったくと言ってよいほどにないし、気配というのはほとんど感じることはなかったです。この山域にクマはあまりいないと思います。
ちなみにですが、泥湯の老女将は未だかつてクマを見たことがないとのこと、泥湯の谷は硫化水素の匂いがして嫌なのかもしれないと言っていました。
下は、カモシカと思しき足跡。
と、小安岳を通過し、主峰の高松岳に近づく頃に天候は急変、冷たい雨が降り出し、それは一気に暴風雨に変わってきました。山というのはこうなのです。
ゴアテックスのレインスーツが急変する天候から身を守ってくれます。
上と下で4万円ほどはしたと思いますが、山に登る者は変わる天候にも環境にもすぐに対応できる装備が必要です。今回は、ゴアテックス素材の威力をまざまざと感じたものです。
下は、今回の山行とは違うけど、いつものゴアのレインスーツ。
ぼんやりと栗駒山。
高松岳は近し。山小屋(避難小屋)が見えてきました。
すごい暴風雨となって、壊れているドアを少々無理に開けて、山小屋に退避しました。
小屋の中には、炊事道具や草刈り機があって、登山道の整備を委託されたひとがここを拠点に宿泊しながら作業をしていることが分かります。ありがたいことです。
なお、この山小屋周辺には水場はありません。
小屋ごと持っていかれそうなほどの暴風雨。小屋の温度計は3℃を指していました。
避難小屋というのはありがたいものです。
山小屋の改築の計画があるそうだけれど、改築なったらここに1泊しての周回がよさそうです。
せっかくのこと、小屋から10分の山頂までをピストンで。でも、とても写真を撮る余裕はなかったです。
山小屋から70分ほどの山伏岳、この行程は厳しかったです。
ただ、登山道は灌木(かんぼく。せいぜい2メートルほどの低木)におおわれているため、強風にあおられることはありませんでした。
山伏岳の山頂が近くになって、ようやく天候が回復してきました。
ハウチワカエデの大きな木。
落ち葉が降り積もる登山道。
そしてようやく、山伏岳山頂(1,315メートル)です。
この山頂から見える絶景の屏風岳。険しい山容が錦の衣をつけています。
まったく、うつくしいとしか言いようがありません。
そうして山伏岳を過ぎると西の空が明るくなってきました。あともう少し。
少々悪天候だった登山を祝福するかのような、虹です。
ナンゴクミネカエデ(南国峰楓/ムクロジ科カエデ属)の紅葉、炎のような色。
たいへんです、山火事です!(笑い)
水たまりに青空。
晴れてきました。
この写真の左はブナの大木。
この泥湯三山の歩きはじめの標高710メートルから1,000メートルまでのあたり一帯はブナの森です。
で、いろんなメディアで指摘しているよう、今年のブナの実づきはまったくの不作です。筆者も歩いていて実を見つけることがむずかしいくらいでした。我がルーザの森のコナラ(小楢)のドングリもまったくです。こんな年はかつてないほどです。
ということは、クマにとって主食ともいうべき食糧が山にはないのだから、いきおい里に下りてきて、同じ堅果類のクリをまず狙うでしょうね。それから放置されたカキ、それから栽培ものの果物なども味を覚えてくりかえし来るのでしょうか。
クマはこれから出産を迎えるため、とにかく食べないと冬眠に入ることはできません。
いかに、じかの接触を避けるか、ニンゲン側の心構えと工夫が重要になってきそうです。
そうして下山口に無事、到着しました。
到着は13時30分でした。ということは、休憩を含めると、ちょうど7時間の行程だったことになります。
こんなみごとな紅葉の時期というのに、誰ひとりとも会わなかった7時間でした(笑い)。もったいない!
看板に「遭難多し」とあるけど、納得です。みなさん、注意されたしです。
下山口近くに、川原毛地獄。ここから約30分歩いて泥湯に戻りました。
戻り道の途中、泥湯を見下ろしたところ。
2016年7月に火を出して全焼した奥山旅館が再建されています。
泥湯というのは今は、宿泊客をとる奥山旅館と、日帰り入浴だけの細々とした小椋旅館だけの温泉場です。
30年前は確かもうひとつ旅館があったはず。小椋旅館に隣接のカフェも閉じているし、だんだんと鄙びてきています。
いろいろあったけど、ふりかえればすばらしい山旅でした。
泥湯に戻れば7時間半の行程、やはりこれは堪えました。
登山で疲れた身体に泥湯がジワーっ、でしたね(笑い)。そしてぐっすりでした(笑い)。
最後に記しておきます。
今回の泥湯三山ではYAMAPを事前にチェックしたとしましたが、具体的には秋田市在住の女性chimneyさんのものを読み込みました。軽いタッチでおもしろく、ずいぶん笑わせてもらいました。軽妙ながらポイントをちゃんと押さえていましたので大いに参考になりました。ありがとうございました。
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それでは、本日はこのへんで。
じゃあまた、バイバイ!
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