紅葉は山から少しずつ下りてきて、ここら(標高で350メートル)ではちょうど今頃がピークを迎えています。
このあたりを境に森の主木たるコナラ(小楢)が色づきはじめて風景全体が飴色に変わっていきます。そして徐々に色が褪せて枯れ色になるとあとはいつ雪が来てもおかしくない時期となります。それももうすぐです。
さあ、冬支度、冬支度!
本日(10月31日)は、(ここ1週間ほどの)散歩がてらに目にしたルーザの森の紅葉図鑑といきましょうか。
まずはヤマブドウ(山葡萄/ブドウ科ブドウ属)。
ここらにはわずかにしかないものですが、いずれ実がつくようになるといいなと期待しています。
ユリノキ(百合木/モクレン科ユリノキ属)。
これだけは約6キロ先の公園樹。あまり知られていないけど、春にチューリップのような黄色な花をつけるのでこの名があります。
この高木が強風で倒れ、それが朽ちていく過程を見ていたことがあるのだけれど、雪の降る時期になるとエノキダケ(榎茸/タマバリタケ科エノキダケ属)が発生してきたものです。
天然のエノキダケは市販されているものと大ちがい。別名にクロナメコという名が示すように、全体がヌルヌルしちょうどナメコを少し黒くしたような褐色になります。
生はもちろんのこと、5年も前の乾燥品が今もあって、時々戻して料理に使っています。とてもおいしいです。
コマユミ(小檀/ニシキギ科ニシキギ属)。
ニシキギで枝に翼(よく)のないものを区別して“コマユミ”といいますが、ここらで翼のあるものは見当たりません。
葉の全体がチェリーレッド(さえた紫味の赤)になり、朱色の実が出てきます。
ヘクソカズラ(屁糞葛/アカネ科ヘクソカズラ属)。
屁だなんて糞だなんてよくもこんな品のない名をつけたものだと思いますが、茎などを踏んだりすると悪臭を放つゆえの命名のようです。牧野富太郎クンったら!(笑い)
まあ、名誉挽回と思ったものか、白くかわいらしい花をつけるがゆえに、“サオトメバナ(早乙女花)”の別名もあるよう。
ワラビ(蕨/コバノイシカグマ科ワラビ属)。
賢い山菜採りになると、秋のこの時期にあたりを散策して翌春のワラビの自生地や出方を確認します。採り場の開拓にはもってこいです。この枯れた状態の“ホダ(成長株)”の様子を見れば、だいたいの出の様子は見当がつくというもの。
ゼンマイ(薇/ゼンマイ科ゼンマイ属)。
この地方ではゼンマイは特別な食糧。盆や暮れ、正月およびハレの日には欠かせない食材なのです。採集文化への脈々たる愛着が今日までも伝わっているためなのかどうか。
煮物もいいけど、ビビンバには欠かせませんし。
ヤマノイモ(山芋/ヤマノイモ科ヤマノイモ属)。
葉は美しい黄色に染まります。
この根元をていねいに掘り起こせばきっとおいしい長い芋が収穫できると思うのですが……。味や食感は市販の栽培ものとは比べ物にならないくらいおいしいことは分かっているのですが……(笑い)。
トチノキ(栃、橡/ムクロジ科トチノキ属)。
こんなふうにきれいなパンプキン(強い黄味のオレンジ)になります。
キタコブシ(北辛夷/モクレン科モクレン属)。
コブシの場合は葉がヨコに対してタテがもう少し短寸で丸みがあります。
ここらに自生するマグノリア(モクレン属のこと)はほとんどがこのキタコブシのよう。
ナナカマド(七竈/バラ科ナナカマド属)。
ナナカマドは本来葉が美しい茜色に色づくのですが、(標高の関係なのか)ここらあたりではきれいな紅葉を見たためしがありません。この間出かけてきた磐梯吾妻スカイライン周辺は見事なまでの発色でした。
ガマズミ(莢蒾/ガマズミ科ガマズミ属)。
赤い実は鳥たちの大好物にしてひとにとっても有用。
我が家では今年、1.8リットル瓶で3つの果実酒を漬けました。熟成が楽しみです。
紅葉もこんなにきれい。
アオハダ(青膚/モチノキ科モチノキ属)。
葉は美しい黄色になります。
わかりづらいと思うけど、圧倒的な黄色の葉の中に赤い実がたくさんなっていて、すっかり落葉すればまるで赤い木のように赤が目立ってきます。
若葉は山菜としておひたしにできることは知っているけど、まだ試してはいません。来春に食べてみようと思います。
我が笊籬溪(ざるだに)を彩る大切な樹木のひとつ。
ウワミズザクラ(上溝桜/バラ科ウワミズザクラ属)。
セザンヌを彷彿とさせるような美しい色彩です。
この時期、まばらなブドウ状の黒熟した実をつけるのですが、昨年ここにクマが現れたのはこの実を狙ってのことでした。けれども今年はこのウワミズザクラでも乏しい実つきです。
野生の桜でヤマザクラという種名のものはここらへんにはありませんが(西日本の温暖帯に多いという)、野生の桜の総称としてヤマザクラとすることもあるそう。ここらのヤマザクラの種としてはカスミザクラ(霞山桜/バラ科サクラ属)が多いのでしょうか。
植栽されたソメイヨシノもそうだけど、桜の紅葉もとても美しいです。
アオダモ(青梻/モクセイ科トネリコ属)。
スキー板やテニスのラケット、野球のバットの材料として有名。
春にはポシャポシャとした円錐花序の小さな白い花をつけてきれいです。
クマヤナギ(熊柳/クロウメモドキ科クマヤナギ属)。
茎は強靭な繊維を束ねたようで、その昔、輪樏(わかんじき=雪輪、わかん)を作るための材料にもしたとか。
6月頃に黒熟した実をつけますが、少々の渋みとともにとても甘いもの。口にできますし、果実酒の材料にも。果実酒は野趣あふれた味です。
コシアブラ(漉油/ウコギ科ウコギ属)。
山菜としてもうすっかり定着しているものですが、意外なことに山菜王国のひとつ秋田では山菜として知られるようになったのはここ数年のことらしいです。土地土地に伝わる食文化のちがいはそのまま、地方の特色でもありますね。アイコ(ミヤマイラクサ)を秋田では山菜の女王としてあがめているけれども、山形ではそれほどではない。
下はコシアブラの群落。白化したコシアブラが集まると、こんな風景にも。
タカノツメ(鷹爪/ウコギ科ウコギ属)。
あまり知られていないようだけど、タカノツメは優秀な山菜です。コシアブラの採取時期に少し遅れて食べごろがやってきます。おひたしにてんぷらに、炊きこみご飯の具としてもいけます。
今はこんなに美しいカナリア色(明るい黄色)になっています。
クロモジ(黒文字/クスノキ科クロモジ属)。
クロモジの葉のこの黄色はたんぽぽ色(さえた黄色)というのだそうです。
枝を折るとさわやかな香りがします。この枝葉から抽出したものが香料のクロモジ油だそうで、かつてはヨーロッパに輸出もしていたのだとか。和菓子に添えられる高級な楊枝はこのクロモジです。
宮澤賢治の童話の白眉「なめとこ山の熊」でも重要な場面でこのクロモジが登場します。
ミツバアケビ(三葉木通/アケビ科アケビ属)。
来年も実がたくさん採れるといいな。
アケビの姿焼き(アケビの皮の中に肉味噌をつめて焼いたもの)は絶品だもの。日本酒が進むんだよな(笑い)。
ヤマグワ(山桑/クワ科クワ属)。
シトロンイエロー(つよい緑味の黄色)になってきたヤマグワの葉。
雪で覆われた中にサルが集団でやってきて、桑の木に群がることがあります。幹をかじってこそげて皮を食糧にしているのです。桑は、根も幹の皮も、葉も果実もいずれも生薬に利用されるほどの有用植物。サルもそれを知っているということですね。内皮は甘いのかも。
若い葉はてんぷらにもよいとあるので、来春にも食べてみたいな。
オカトラノオ(丘虎尾/サクラソウ科オカトラノオ属)。
白い尾を一方向になびかせる姿は群落は圧巻ですが、秋になってこんな色に紅葉するなんて新たな発見でした。あざやかな赤です。
ノブドウ(野葡萄/ブドウ科ノブドウ属)。
紫系の美しい実をつけるも不食です。ただ、果実酒として実をつけこんで肝臓病や白血病の特効薬と信じるひとがいるのだとか。事実、町内のご老人がそんなことを教えてくれたことがありました。これが本当なら、ノーベル賞ものですよね(笑い)。
リョウブ(令法/リョウブ科リョウブ属)。
リョウブの葉がこんな色に発色するなんて意外でした。すばらしい紅葉の主です。
マルバマンサク(丸葉万作/マンサク科マンサク属)。
マルバマンサクは春を告げる花ですが、紅葉もどうしてどうして。黄色から赤まで様々なバリエーションがありますが、とても美しく発色します。
ヤマモミジ(山紅葉/ムクロジ科カエデ属)。
ちょうど庭のヤマモミジが緑から赤に色を変えつつありました。
我が家では秋のしつらえとして、大きな陶の器に水を張って、そこに紅葉したモミジを浮かべたりします。
ハウチワカエデ(羽団扇楓/ムクロジ科カエデ属)。
これも敷地にあるものだけど、毎年きれいな赤に発色します。
ウリハダカエデ(瓜膚楓/ムクロジ科カエデ属)。
筆者がこのルーザの森に引っ越してきて、目を奪われたひとつがこのウリハダカエデの紅葉でした。秋はこれがあるがゆえに美しいんだと思いました。
フランス語のルージュにイメージされる赤(冴えた赤)からゴールデンオレンジ(冴えた黄味のオレンジ)までさまざまなバリエーションがあって、とても美しいです。
ヤマウルシ(山漆/ウルシ科ウルシ属)。
ヤマウルシの紅葉って、ほんとうに心奪われるほどのあざやかさです。
このsignalにおいて、「この世に漆のなかりせば」などという語句を使ったりするけれども、この色合いは琴線にふれるもの。
漆によく似ているけれども、こちらはヌルデ(白膠木/ウルシ科ヌルデ属)。
漆と違ってこちらはさわってもかぶれません。
葉は9-13枚の小葉からなる複葉で、葉の軸に翼(よく)があります。
ヌルデの紅葉も絶品です。
ホツツジ(穂躑躅/ツツジ科ホツツジ属)。
夏にまわりの花々がとぼしくなったころに穂状の白い花をつけるホツツジ、それが淡い紅葉をしはじめました。
庭に自生する株です。
コナラ(小楢/ブナ科コナラ属)。
一部、黄色に変わっていました。コナラにしたら早い方の黄葉です。やがて森全体をこの色が覆う頃がやってきます。そしたら、もう、本当にいつ雪がきてもおかしくない時期になります。
我が家に自生するコナラも他にたがわず、ドングリの実つきはほんのわずか。こんな年は経験がないほどです。これではクマは腹を満たすことは不可能。やおら、里に町にさまよわなければ生きていけない、そういう切迫感があるのでしょう。
全国各地、今年はクマ出没の報道がやけに多いけど、クマが町に入ればたぶんパニック状態だと思います。パニックになったクマの行動は予測がつきません。行動のルールを身につけている(と思われる)ここらのクマとはちがいます。
老婆心ながら、夕方、朝方は特に注意が必要ですね。生ごみの放置はいけません。コンポストは撤去にかぎります。実のなる木は要注意、すぐにも収穫が必要でしょう。音のよいクマ鈴の携行もいいと思います。考えられることを積極的に行って出没に備えてほしいもの。とにかく雪が本格化するまでは警戒が必要と思います。
ノイバラ(野茨/バラ科バラ属)。
ちょっとした晴れ間に野に出て、ノイバラの実を収穫しました。目的は果実酒です。今年は楽しみにしていたナツハゼ(夏櫨)の実つきもまばらでまとまった量の収穫ができませんでした。では、ノイバラ酒を久しぶりに作ろうと。
ノイバラ酒は、黄水晶のような美しくさえた色調に結晶。ほのかな渋みもあります。新陳代謝をうながし、食欲増進、美容のほか緩下剤によいと効能にはあります。ホントかな?(笑い)。
洗って、これから乾燥した部屋で水分を飛ばしてから35度のリカーに漬け込んでいきます。
(阿羅こんしんさんは、平和な世界を願って自作の書画を携えて全国を行脚されている方。一夜、我が家の森の広場で焚火に当たりながらふたりきりで語りあった思い出があります)。
*
室礼(しつらい)ははじめて知った言葉ですが、その意味は「儀式の場を作ること、整えること」とあります。
そうなのです。この、冬に向かう前の赤や黄色の織りなす錦繡(きんしゅう)は、(神の)(天の)采配ごとなのです。
だからこそ、紅葉は人々のこころを打ってやまないのだと思います。
……
下は、おまけ。
前に、銅沼(あかぬま)を目的として果たせなかった記事(signal「鎌沼の秋」)を載せたのですが、そのリベンジ。
磐梯山の爆裂火口の銅沼に、この27日に登ってきました。
裏磐梯の景勝地に五色沼がありますが様々な色を見せるその源流がこの銅沼にあるとのこと。
銅沼の水は強酸性、鉄やアルミニウム、マンガン等が溶け込んでおり、湖底の泥には水酸化鉄が含まれているのだそうです。
いやあ、素晴らしい景色でした。感動しました。
こういう景色を目に収めるために健康は用意されている、そんなことも思ったものでした。
それじゃあ、バイバイ!
さあ、冬支度、冬支度。
※色の名前については、『色名小辞典』(日本色彩研究所1981)を参考としている。
※本文に割り込んでいる写真はサムネイル判で表示されています。これは本来のタテヨコの比から左右または上下が切られている状態です。写真はクリックすると拡大し、本来の比の画像が得られます。