翌24日日曜、気温はぐっと下がって氷点下7度ほど、空はさらに青くきれいに晴れあがりました。で、前日に引き続いて相棒のヨーコさんとふたりで出かけてみました。
前日が笊籬溪の左岸沿い(左岸は、上流から下流に向かって左側を指します)を西に進んだので、この日は右岸を(やはり拓けている西に)進んでみることにしました。
笊籬橋を少し過ぎたあたりからの右岸沿い一帯は、実は15年ほど前は鬱蒼としたアカマツ(赤松)の林だったのです。それが一斉に伐採されてできたのが現在の雑木林です。
いったい誰が言っていたことだったろう、「松林を伐採すると楢林が形成され、楢林を伐採すると松林になる。そうした遷移を経て森林環境は安定していく」(“伐採”ではなく“焼失”だったかもしれない)と。筆者が長いスパンを経て見てきて、記憶にあるこの言葉通りになったことを思い知るのはやはり感動的です。
現在そこにはアカマツはほんのわずかでコナラ(小楢)が主木として君臨しつつあり、その他としてホウ(朴)、ヤマザクラ(山桜)、リョウブ(令法)、クリ(栗)、ミズキ(水木)など様々な広葉樹が生えています。が、あと10年もすれば特別に大きく育つコナラが上空を覆い、その下にはわずかな灌木が残る程度でしょう。
林は高く伸びる者が日光を浴びて成長することができ、日光を遮られる者は成長を止められ消えるしかないのです。林相はそうやって変遷していきます。
下は、団子木飾りにも用いた、赤い枝が印象的なミズキ。そうそう、コバルトの空の下、雪の林にはアオゲラ(緑啄木鳥)だろうか、軽やかなドラミングが一帯に響いています。ヤマガラ(山雀)やシジュウカラ(四十雀)は美しくリズミックな高音で歌い、キジバト(雉鳩)やカケス(懸巣)も特徴的な声で鳴いています。
春がもうそこまで来ているんだもの、みんながみんなともにうれしそうです。うん、いいなあ。
冬の餌さがしのたいへんさは誰も同じことなんだけど、そのアオゲラ君は、何とあのくさい臭いを放つカメムシ(標準和名ではクサギカメムシ=臭木亀虫)を食べてしのいでもいるのです。
我が家の薪小屋にずいぶん出入りしているなあと思って見ると、そこらにアオゲラ君の糞がたくさんな訳で。
カメムシは寒さから身を守るために家の中にアルミサッシをも乗り越えて入り込み、さらに鏡の裏とか引き出しとかカレンダーのわずかの隙間へととにかく狭い場所狭い場所へと入ってゆきます。
薪小屋も同じこと、薪と薪のわずかの隙間に入り込んでいる、そのカメムシを狙うのです。カメムシは決して美味いとも思われないけど、アオゲラ君にして、背に腹は代えられぬということなんだろう。
またカケス君は別名カシドリ。カシはいわゆるどんぐりのことで、カケス君にとってそれは大好物にして生命線なのです。雪が消えてゆくということは、昨秋に落ちたどんぐりが見つかるということ、それはそれは興奮ものでしょう。
と、ほどなく石碑です。
造林の記念碑だと思いますが、文字は「造林報恩碑」と読めます。裏には「大正十年」(1921年)の刻みがあり、この事業に尽力した個人の名が“造林主唱者”として(故人となった人も含めて)記されていました。
立派に育った林の木を伐採させてもらったことに感謝し、植樹を行ったという意味が込められているのでしょう。昨日もたくさん目にしたタヌキの足跡ですが、妙に陰影がはっきりしているなあと思ってみると、何と、足跡には鳥の産毛がびっしりとくっついているではありませんか。あたりにも羽根の散らばりが見られます。
どういう状況下であったかは不明としても、ということはタヌキが鳥を襲って食したということです。
その羽根は灰色のものや黒からうっすらと鶸色(ひわいろ)に変わるものがあり、それからすると思いつくのはシジュウカラぐらいですが、ともかくもそういう格闘の末に野鳥が命を落としたことは確か。
鳥は命を落とし、タヌキは餌にありつき。森はまさに生命の横溢の現場です。と、大きな美しいホウの木です。この冬芽って、槍のようにすっくとした枝先から刃(やいば)のように尖ったものなんだよね。そのフォルムの美しさ。
ホウは春まだ浅い時期にあって、とても印象的な木です。
ちょっと待てよ。何、ムム、この傷跡?! 何と、ツキノワグマ(月の輪熊)、キムンカムイ(山の神=熊)ではありませんか。
もちろん冬眠を決めこんでいる今ではなく夏場でのことでしょうが、クマがホウの木に抱き着き、一歩一歩とよじ登ったのです。足跡が上へ上へと続いています。
ホウの木は白い花のあとの黒い細長のキリタンポ状の中に赤い実が潜んでいるのだけれど、それを狙ったものなのかどうか、単に木登りを楽しんだようにも見えます。
とにかくここにはツキノワグマも我々と一緒に住まっているのは確かなことです。
(“熊出没注意”という看板がありますよね。あれは何気にそこに立てかけているのではなく、そこに目撃情報があったという印なのです。で、この付近で相棒も含め4人ほどが実際に見ています)。
もちろんご対面したいとは思わないけれど、しかれど正直、怖いとも思いません。
ツキノワグマについては今後も書くと思うけど、筆者にとってはフクロウ(梟)とともにこの森に住む誇らしい聖者であることは確か。
笊籬溪は今、こんな感じ。轟々(ごうごう)という雪解けの水音が響いています。
笊籬溪の傍らの笊籬沼は、もう水面が明けています。
昨年の写真も併せて比較すると分かるけど、昨年は3月上旬にして分厚い氷に覆われていたというのに、今年はこの様子ですからね。きっと、ポカポカの春は早いね。