春先もそうだけど、この晩秋には、どうしても山に入りたくなる(と言っても、歩いて5分だけどね。笑い)。それは単純に、森の恵みというのは当然あるのだけれど、秋には秋の、晩秋初冬にはその独特の季節の匂いが待っているからかも。
雪を待つ森というのは、紅葉もピークを過ぎて落葉しはじめどこか寂しげでどこか物憂くもあるのだけれど、それもまたいいのです。
そういえば、山菜の頃というのはけっこうご婦人方も見かけるけど、キノコの季節に会うということはまずないなあ。相棒もキノコ採りに興味を示さないし。これは、男女の美意識の違い?と、入ってすぐに迎えてくれたのはムラサキシキブ(紫式部/シソ科ムラサキシキブ属)。
実の付きぐあいはまばらだけれど、飴色の空間にあって、この紫は美しい。
そうして、出ています。約束したようにムキタケ(剥茸/ガマノホタケ科ムキタケ属)が。表皮が簡単に剥けるのでこの名がついています。
ムキタケは画像のように、色としては3種としてよく、まずはベージュ色のものが出、たまに紫色のものも混じり、雪が近くなると追って黒系のものが出るようになります。
実はこのムキタケ(またはヒラタケ・平茸/ヒラタケ科ヒラタケ属)食べたさに、猛毒ツキヨタケ(月夜茸/ホウライタケ科ツキヨタケ属)を採ってしまうことがあるようです。
筆者もまだキノコの知識が乏しい頃にこのツキヨタケを飯豊山の麓の山中で見つけ大量に採ってきたことがありました。でも待てよ、という冷静さがその時にあった。暗室に入れば、もしツキヨタケなら光るはずと思い入ってみると、ピッカピカ、ピカリです(笑い)。危ういところでした。今なら、その区別がはっきり分かりますがね。時期も違うし。
菌類全般がそうだけどキノコは、動物や植物の遺体などの有機物を無機質に変える分解者であり、最終的に土に戻してゆく還元者、言わば偉大な森の掃除屋なのです。このムキタケもそう。
ムキタケは競争に負けて日光が届かずに立ち枯れした木に取りついて育ちます。倒れた木に這って取りつき、養分を吸い取っていきます。
このムキタケ、市場価値はあまりなく、見つければ大量に採取できるからか珍重されることはほとんどないです。でも筆者たちはありがたくいただきます。まず大根おろし、みそ汁の具(ずいぶんとコクと旨味が出ます)、鍋物にバター炒め、そばにうどんに。わさび醤油を用意すれば刺身風に。乾燥物を、戻し汁も含めての炊き込みご飯にするのもよいもの。それから食感がゼラチン質ゆえシチューには最適です。そして塩蔵した後に取り出して具とする真冬の納豆汁、これが最高ですかね。
ムキタケのない冬なんて考えられない。 ムキタケを頂戴する場所には、静謐な淵があります。
早春に、春に、夏に、秋に、初冬にと筆者はこの淵に会いに来ては安心しています。そう、安心するのです。