ルーザの森クラフトの、工房の増築日誌3。基礎と土台据え。
スプリング・エフェメラル、春の妖精ともいうべきカタクリ(片栗)がフクジュソウ(福寿草)を追って咲いて4月のはじめ。
そんな時期に、掘り出したレンガ(かつてここには陶芸家が住んでおり、引き上げる際に登り窯をつぶして地中に埋めていったもの)を一か所に集めました。
掘り出しレンガはもう、車庫の基礎や記念のサークル花壇(母が亡くなった時にこしらえたもの。中央に、父と母のわずかな骨を納めてある。花のある中に眠ってほしいという思いだった)、それからヒュッテと工房本体の基礎にとさんざんに使ってきたので、よいものはほとんど残っていないのを承知で。さらに使えるものはないかと思って。
レンガにこびりつく“糊”(接着用モルタル)をストリッパーでこそげ落とし、ひとつひとつをタワシでていねいに磨いて。
この作業をやっていると、タワシはどんどんとすり減っていくんだよね(笑い)。
下が、糊を取り、汚れを落としてきれいにしたレンガ。
実はレンガには大きく分けて、用途によって2種類があります。それは、建築などに使う“普通レンガ”と窯業の窯(かま)などに使う“耐火レンガ”です。
意外でしょうが、普通レンガの方が堅牢で、耐火レンガの方がもろい感じです。糊にしても、普通レンガに付いているものはまず取れず、耐火レンガの方はサクサクとこそげ落とすことができます。大きさも若干違って耐火レンガの方が大きいです。掘り出しレンガにはそれが混在しています。
最上川上流の川の水がほとばしって、春たけなわに。
レンガの材料にめどがついた頃、いよいよ石の加工にかかりました。
何のことはない、基礎を作るのにレンガが不十分なのは一目瞭然、それをどうやって補うかを考えた時に思い浮かんだのが石でした。石を刻んでパーツにすれば、レンガ同様の基礎の構成材にできると思ったのです。
こう考えたのは、ヒュッテの薪ストーブの台座を石を切って組み合わせた経験があったから。
現代の墓に使われるような堅牢なものではなく火山灰が堆積して作られた軟石、凝灰岩の一種・高畠石(隣町の高畠町で産出されるゆえの呼称)なら、加工は比較的容易です。手持ちのディスクグラインダーにダイヤモンドカッターを装着すれば切り出しすことはむずかしいことではありません。
この石は、知り合いの工務店からの無償提供。
工務店が家屋の解体を請け負った際に、ついでに家の基礎または敷地の囲いに使われた一部と思われる石も(仕方なく)引き取ったもののようです。実にありがたいことだけど、工務店にしても不要・無用の品、お互いがウインウインなわけです。こういう関係は本当に気持ちがよい。
さらに、懇意にしている近くの栗園のAさんに、かつて自動販売機をおいていたその下敷きにしていた髙畠石ももらってきました。
Aさんにすれば前庭に意味もなく置かれた重量のある石は邪魔なもの、筆者は必要なもの。それを撤去し、感謝されながらもらい受けるという気持ちよさ。
髙畠石はもうこれで十分過ぎるほどの量です。これから建物の基礎だけでなしに、さまざまに活用できると思うとうれしくなってしまいます。
ところで、ここルーザの森はかなり広範囲にわたって、基本的な地盤全体が一枚の凝灰岩でおおわれています。太古の造山活動を思わせる地層なのです。その証拠に、川底は石がゴロゴロしているのではなく、ずーっと平らな一枚岩の連なりです。これはこれですごい風景です。
下は、ダイヤモンドカッターを装着したディスクグラインダーで切っているところ。ものすごい粉塵が舞うので、水をかけかけしながらの作業です。それでも粉塵は舞います。
ディスクグラインダーに装着できるダイヤモンドカッターのディスクの径(Ø)は105ミリ、ということは切るとはいってもせいぜい30ミリ程度の切込みを入れるしかできません。したがってそれ以後は、下のように、レンガ用の“チゼル”(タガネ)をハンマーでたたいて割っていきます。
上手くいってきれいに割れる時もあれば、失敗してパーツにならない時もあります。凝灰岩には節理(一方向の性質、規則性のある割れ目)というものがないのです。チゼル使いに技術が若干のぞきます。
パーツは、レンガ2個分を基本として作りました。
これらの一連の作業は同じ姿勢を保つこと多く、石はそれなりの重量もあって移動にも力が要り、腰痛持ちには少々堪える作業ではありました(イテテテテ)(笑い)。
でも、石を切ってたたいて、基礎のパーツができたのはとてもうれしかった。ちょっとした石工になれたのもうれしかった。
あたりにはキタコブシ(北辛夷)の白い花が咲きだしました。キタコブシはいい匂いがします。
レンガは用意され、石のパーツも十分となり、いよいよ“モルタル”作りに入りました。
モルタルとは、いわゆるコンクリートの構成材から砂利を抜いたもの、つまりセメントの粉と砂と水で作るもの。石やレンガなどのいわゆる接着剤=糊のことです。
接着するもの(あるいは塗ったりするもの)によっても異なりますが、筆者の場合は容積で砂が3、セメントが1の割合で作ります。
ここで肝心なのは、セメントの白と砂の黒がむらなく完全に交じり合って、単一の色にすること。これを“空練り”といいますが、ここは根気と力を要します。
この作業では、以前は舟(不要になった雪上用のボート)を使っていましたが今はクルマのついた“ネコ車”を使っています。練るためには本当は左官用のスキ(鋤)が必要ですが、筆者は長い柄の草削りで代用しています。
前回は“ネコ土台”が出て、今回は“ネコ車”、建築にどうしてネコ(猫)が出てくるんだろう?
ネコ車に関していえば、建築現場の狭いところにも猫のようにヒョイヒョイと入っていけるからという説あり。そうかもしれませんね。
通路のない共同墓地で、筆者の場合、墓作りにずいぶん活躍してもらいましたからね(エッ、何それ?とお思いの向きもあろうかと思いますが、墓は基本を業者にお願いし、まわりの装飾や上がり場などは筆者が作ったのです。2004年のこと)。
練りに練って、ようやくむらなく混ざり合いました。
余談だけど、今は縁を結んで山形市に住んでいる娘が小学生の頃、この練りを手伝ってもらったことがありました。大きくなって彼女曰く、「キノコの菌打ちぐらいなら近所の子もやったことがあったと思うけど、さすがモルタル練りは私ぐらいだろうね(笑い)」と。呆れた顔で思い出していた(笑い)。
よくないパパです、こんなことまでさせるなんて(笑い)。
セメントと砂をしっかりと混ぜたら、あとは適量の水を入れて練りの硬さやわらかさを調整していきます。実は、これがむずかしい作業です。水の適量がむずかしいのです。何べんも失敗しました。失敗して徐々に加減を覚えました。
ここで学んだことは、不十分な量の水を入れて、徹底して練る、さらに水をつけ足して練る、さらに水をつけ足して練る、そうしてちょうどよい耳たぶのやわらかさぐらいのものを作っていくことです。決して1回、2回では決めないということです。
モルタルができたら、緊張します。モルタルは急な硬化はしないけれども、時間との勝負であることには変わりありません。
ほどよいやわらかさを保っているうちに作業を終えねばなりません。腹が減ろうが、暑かろうが、腰が痛かろうが、人間の都合をモルタルは決して待ってはくれません(笑い)。
よって、モルタルの作業が終えた時というのは、ほんとうにほっとします。ぐたっとします。ビールがおいしいです(笑い)。
下は、積むイメージのもとに石とレンガを並べて、モルタルを使った作業をすばやくスムーズにできるようにしたところ。
一段目の石をコンクリート土間の上にモルタルで接着したところ。
下は、自作の“コテ台”(ベニヤとわずかな木材で簡単に作れます)に載せたモルタルを“レンガコテ”ですくって、レンガの上に置いているところ。
この場面、プロ級になってくると美しい2条の太い線になります。
載せたモルタルの上に、石のパーツを慎重に置いているところ。
タテのすき間の目地を手と指を使って埋めているところ。
本来ここは“目地コテ”を使う場面ですが、石の切断面がまちまちなので、指の感覚の方が自由がきいてよかったのです。仕上がりがきれいにとはいきませんがね。
基礎は以上の連続によって完成します。
基礎を作ると、大きなステップを越えた感慨を持ちます。よくアスリートが表彰台に上がって、“ちがった風景が見えた”とかいうけど、あの感覚にも近いかもしれない。
そのうち、近くにも(敷地内にも)ニリンソウ(二輪草)が咲いてきました。
完成した基礎。
土台を据えつけるためのアンカーボルトを差して、モルタルで固めているところ。硬化させるため、3日くらい放置しました。
土台を回したところ。
まあ、アンカーボルトをいかに上手く土台に通すか、そのために穴をいかに正確に開けるか、ここは技術を要します。
土台が基礎の上にしっかりと取りつけられました。我ながら、goodです、合格点です。
板をかませて、通気を配慮したことがわかる基礎とネコ土台の様子です。
社会生活でよく、“基礎”とか“基本”とかいわれるけれども、これは本当に建築から来ている言葉であると実感します。手を抜いた基礎にはそれなりのものしか立ち上がらない。基礎がしっかりしていれば、うわ物がそう上等でなくても大丈夫ともいえるかもしれない。
生活も、大げさに言ってひとも同じことですよね。基礎がしっかりしたひとって、基礎がしっかりしたひとから見たら、一目瞭然? しっかりしていないひとからはそれは見えない?
そういうお前はどうなんだっていう話になりますがね(笑い)。
これで、工房の増築日誌3の「基礎と土台据え」はおしまいです。
日誌4、「棟上げと骨組み」に続きます。
ではまた、日をあらためて。
じゃあね、バイバイ!