終生の仕事としてドアリラを製作すると決めて、より上質な製品をつくることに努力を惜しまないのは当然にしても、ただ作るだけではどうしようもないこと。それを人々に魅力的、美的と思ってもらい、望んで購入してもらう……、そこにつなげてこそドアリラ製作が暮らしの中心となろうというもの。当たり前ながら、これが構想当初からの大きな課題でした。
でも、マーケティングなどどうすればよいのか、筆者にはまったくの未知の領域、けれどもそれゆえに俄然興味がわきました。その知恵が試される、それは何と魅力的なことか。
そこでまず思ったのは、自分の作る製品はどこか近くの(あるいは近隣の)販売所(例えば物産館や道の駅など)や工芸や雑貨を扱う店に置いてもらうということは二の次にする、それは基本的には考えないということでした。
それは、この製品の出自にかかわります。というのは、そもそもヨーロッパ(ドイツ、北欧)にルーツを持つとされるドアリラ(ドアハープ)なるものは日本の社会に認知されてはいないし、そういう(人々にしてみれば訳の分からない)ものを店頭に並べたとて認知や周知に役立つかどうかははなはだ疑問だったのです。
そこで立てた柱は2本、ひとつは自宅で展示会を開くということでした。
たよりなどでお知らせし、興味を持っていただいた方に現場に直接に来ていただき、実際に実物を見て触れていただくことが第一。これならドアリラというものがどんな場所で作られ、どんなふうに生かされているか(そこに込められている思いや文化も含めて)トータルにとらえてもらうことができます。こうして直に触れていただいたひとは、ともすれば他のひとへのメッセンジャーになっていただけるかもしれませんし。
そして当然ながら我が家では、ドアというドアにドアリラがついているしね(笑い)。説明の材料に事欠きません。
この展示会については、このsignal(ブログ)で既報の通り。
展示会は昨年2018年の10月6日(土)~14(日)の8日間にわたって開催したわけですが、これに付随して、山形新聞が展示会案内の記事を掲載してくださり、展示会の後は山形放送(テレビ)が取材に入り、ドアリラの製作の様子も含めて(11月13日に「ピヨ玉ワイド」の枠で)放送していただきました。この放送はお隣り宮城県のミヤギテレビとのコラボの枠であったため、宮城県下にも同時に流れ、それがためにその後、わざわざ遠くよりお訪ねいただいた方もありました。
山形新聞と山形放送にはたいへんお世話になりました。古典的なメディアの力を思い知らされました。
もうひとつの柱が、ホームページ(HP)を作るということでした。
筆者がドアリラを製作するようになった経緯、それがどういう文化によって支えられているのか、具体的な製品の紹介などをネット上で紹介できたら、それは夢のように素晴らしいことと思っていました。それでなんとか実現すべくHPを立ち上げるべく、アドバイザーの助けを得ながら悪戦苦闘しました。そのかいあって、展示会直前でしたが、まがりなりにも開設することができたのはこの上なくうれしいものでした。
そしてこれは同時に、ネットショップの開店も意味していました。大きなエポックでした。
これに関連して、“ドアリラ”(“doorlira”、“door-lira”。リラはイタリア語で小型のハープを意味する)という語の創出(造語)もネット環境を意識してのものでした。ドアリラの本来の一般名詞はドアハープです。でも、“ドアリラ”と検索すれば(この単語は当クラフトのオリジナル。世界中でただひとつしかないものなので)、検索エンジンは必ずやピンポイントで筆者のHPを示すのです。これは正解だったと思います。
ソーシャルネットワークにあって、“単独”、“モノ=mono”、“オリジン”は武器ですよね。
そしてもうひとつの柱を加えるならば、YouTubeへの投稿です。
HPを作ったとはいえ、そこにはまだ、ドアリラの“音”を掲載出来てはいなかったのです。ドアリラの世界は音の要素なくして成り立ちません。それを解決するひとつの手段がYouTubeでした。(もちろん、HPに音を入れればいいのだけれど、自分ひとりではできないこと、いきおいYouTubeでの公開となり、そのアドレスをHPに貼り付けるということになったのです)。
また、YouTubeは動画サイトですから、映像と音とでドアリラのイメージフィルムを作ってアップロードすれば、HPへいざなうこともできると考えました。それで6月以降準備を進め、アドバイザーの協力を得ながら7月1日にようやくテスト版のアップロードを行ったのです。あこがれのYouTubeデビュー、達成感でいっぱいでした。
そして7月中に、6本を立て続けに作成して投稿し、公開しました。
各篇は「さいわいの音色…、ドアリラ」というタイトルで統一されています。
画像はすべて静止画を用いて並べ、音声トラックを重ねています。この、イメージを大きく主導する音楽が重要だったわけですが、いずれもフリーの音楽素材の中に感覚に合うものがあって、ありがたいことに自由に使わせてもらっています。提供者への敬意を表して、各篇にクレジットとURLを記しました。
フィルムの後半部分にドアの開閉でドアリラの実際の音をかぶせ、ドアリラの4作をピックアップして紹介し、そのあとは無音にして次のキャッチコピーを入れました。
ドアを通って
しあわせが ひとつ
しあわせが また ひとつ
やさしい音色…、ドアリラ
そして最後に、無音の工房看板“ルーザの森クラフト”が映るという構成です。このパターンを作り上げるまでには、ずいぶんと試行錯誤をくりかえしました。
なお、ドアリラと風景写真などがどうかかわるのかといった疑問はあるでしょうが、これはあくまでもドアリラのイメージを作り上げるもの、かつて資生堂のコマーシャルにあった ♪春なのにコスモスみたい♪(1974年、口紅プロモーションコピー)的なものです。筆者は、製品へのイメージの力を信じるのです。
上のコピーは、YouTubeのイメージフィルムのために作ったものですが、実はHPを作る際には、下のものを用意したのです。
あなたの
ひと日の幸をいのる しずかな朝
ひと日の業をつつむ やすらう夕べ …ドアリラ
あなたに寄りそう やさしい音色 …ドアリラ
A silent morning to pray for your happiness
A peaceful evening to soothe your life in a day
A beautiful tone of your door-lira lingers near you forever
※英対訳は山内松吾氏による/2018.10.19
これはこれで気に入っていますが、これだと、朝と夕方がテーマになってしまいがちで、イメージフィルムのコンセプトとしてはふさわしくないなと思ったわけで。
でも、こういうコピーの作成というものも実に充実した時間です。「あなたの…」のコピーを固めるまでには約2年という時間が経過しています。
なお以下に、これまで作成したイメージフィルムのリンクコピーを貼り付けましたのでクリックの上ごらんいただければと思います。
夏篇(7月8日)
ハウス篇(7月16日)
秋篇(7月16日)
アトリエ篇(7月16日)
笊籬溪(ざるだに)の四季篇(7月22日)
ヒュッテ篇(7月24日)
各作品は約3分程度のものです。このたった3分に、(筆者はまだ作成に慣れていないということもあり)約3時間を費やします。単なるスライドショーのようにも見えましょうが、実は入り組んだ編集をしています。少々、タネ明しを。
使用している動画編集ソフトはフリーの“Shotcut”というものです。このソフトでは(?)1秒という時間は、24コマに分割されています。1枚の写真は5秒の設定としました。1枚の写真と次の写真は1秒と12コマ(1.5秒)
こんなことをコツコツとやるわけで、作業は、本当に絵を描いているよう、詩を作っているよう、
より多くの人々にドアリラを知ってもらえるよう、あせらずにじっくりとやっていきます。
今後のルーザの森クラフトの挑戦とイベントは次の通りです。
2.ふるさと会津工人まつりへの出店。福島県三島町。2020年6月。
3.第2回ドアリラ展(ルーザの森クラフトにて)の開催。2020年10月。