口笛に足も音符になりたがる 北村純一(神奈川) 朝日川柳25.3.6
こんな歌が新聞に載る、そういう3月となりました。
本日は3月10日です。
今回のsignalは、雪に遊んだ時間などを記してみようと思います。題して「雪の、林や野原やら」です。
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大雪だった今冬、筆者は12月半ばから2月20日までというものほぼ毎日5時半(天気予報によっては5時)に目覚ましをかけて除雪のために動き出すという日々でした。
この2月20日頃が冬の厳しさの境い目というのは理にかなっていると思います。
太陽の高度が最も低く、日の出から日没までの時間が最も短い日が冬至なら、冬の厳しさのピークは1カ月過ぎあたり、そしてその境い目はさらに1か月後です。夏の暑さの厳しさの境い目も夏至からやはり2か月後の8月20日頃ですし。
今年も実際そうで(今年は21日が境い目)、それからの目覚ましは6時にセットすることにしました。
ようやく雪への警戒を解くことができ、うれしいです。
暗くて長いトンネルの中にいるような冬の日々、除雪や工房での作業や雑事(町内会関連など)から離れて雪の上を歩きたいものだとつくづく思っていました。
そして今年はじめて飛び出したのは晴れ間が出た2月16日のことでした。
まだ新雪が降り積もる頃、たとえスノーシューをつけてさえもけっこうな沈み込みがあったものです。
でも、とても気持ちよかったです。
ひさしぶりに仰ぎ見る太陽、晴れた日の解放感でいっぱいでした。
と、このしょっぱな、雪の重い抵抗もあって、愛用のTSLのスノーシューのバインディング(靴との結束部)が壊れてしまいました。高価なものだっただけに残念(-_-;)。もう25年以上も使っていることだし、まあしょうがないことではあります。
バインディングでもプラスチック部の断裂では修理という訳にもいかず、ここはあきらめて、新たなものを購入することにしました。
下は、2月26日のこと。
あたらしいスノーシューが来たので、今度は林の中を歩いてみることに。
カメラの目の高さが分かるでしょうか。電話線と電線がこんな風に見えています。
除雪機で飛ばした雪が積み重なっているところとはいえ、この高さ!
家のすぐ南は、太古の河岸段丘。その一段高いところからの我が家のアングル。
南の林の広場から見た我が家。
新たなスノーシュー。
ノーブランドものですが、つま先のバインディングがベルトではなくラチェット式(つまみの上下の単純な動作で締まってゆく)で、着脱が楽なのが何よりです。ネット通販で9,000円弱でした。
筆者のより少し寸が短いものも相棒用にと購入しました。
林を抜けて進めば沢の淵。
ここは5月ともなればゼンマイ(薇)、それから11月の声を聴けばナメコ(滑子)やクリタケ(栗茸)、ムキタケ(剥茸)やヒラタケ(平茸)などのキノコ類の採り場となるところです。
霧氷が朝日を浴びて溶けだしていました。
淵に映る朝日。
太陽のひかりというものは実にありがたいものです。
マキネッタ(直火式エスプレッソメーカー)で淹れたコーヒーを保温瓶に入れて携え…、
文字どおり、コーヒーブレイク。
雪の中で飲むコーヒーって、格別なものです。
今年は大雪だったけど、気温は決して低いものではありませんでした。
1月下旬から2月上旬にかけてはいつもならマイナス14℃くらいも記録するのに、今年は最も冷えた日でせいぜい10℃ほどだったと思います。
でも、近くの笊籬沼(ざるぬま)はしっかりと凍っていました。
下は、3月1日の沼渡り。
沼の周囲はアシ(葦)の原です。今はこんもりとした雪に覆われています。
ブルーシャドー、ブルーシルエット!
沼の縁は氷が溶けだしているところもありました。
アシは太陽をあびて、もうすぐ角ぐむことでしょう。
*
3月2日は快晴、絶好のスノーハイキング日和で、西の野原(牛尾菜平/しおでだいら)に出かけてみました。
雪がずんずんと消えて切れ切れのまだら(斑)模様ともなればここは一面の黄色い絨毯、フクジュソウ(福寿草)の群落地です。そして5月にはワラビの宝庫となる場所です。
雪野原に寝転ぶ相棒のヨーコさん。
「気持ちイイイ!!」(笑い)。
広々とした野原と林の中とでは、野原の方が雪が引き締まっています。
野原の雪が堅いのは、遮蔽物がないために日中の太陽の熱によって表面が溶けて次の朝には凍るためでしょう。
いわゆる雪渡りができる堅雪(かたゆき)はこのくりかえしで徐々にできていきます。
野原の先の、榛(はん)の木林。
ハンノキ(榛木/カバノキ科ハンノキ属)は谷地(湿地)に育つ木です。逆に言って、ハンノキが生えているところは谷地ということになります。ここはかつての水田跡です。
やがて少し赤みが混じる緑の新芽が出てきますが、これは春のシンボルのひとつ。
ハンノキの実。
ハンノキの雄花序(ゆうかじょ)。雄花序は雄花の集まりです。
ハンノキの実と雄花序は春へのいざないです。
若いウメ(梅)の枝先は鋭く太い針状になるものだけれど、この雪の中に似たような枝を見つけました。はて、何だろう。
筆者はすぐにズミ(酸実/バラ科リンゴ属。別名コリンゴ)と思ったけど、確証がなくて敬愛する植物のエキスパートに電話で聴きました。
そしたらやはり彼女の見立てもズミで、アキグミ(秋茱萸)の可能性もある、グミなら枝に白い粉が噴いているはずとのことでした。
とすれば、やはりズミでしょうか。
春の、ズミの白い花。
秋の、ズミの実。
宮澤賢治の有名な一作に「やまなし」というものがあります。谷川に繰り広げられる蟹の父子のうるわしい物語です。
このやまなし、近年まで賢治研究者がズミ(『宮沢賢治童話全集』岩崎書店1964年で編集者の掘尾青史が)あるいはオオズミ(『宮澤賢治語彙辞典』東京書籍1989年で編著者の原子朗が)としていたのです。ズミはまるで論外にしても、原が指したオオズミ(大酸実)はオオウラジロノキ(大裏白木)の別名で、賢治のやまなしとは別物です。これには当の賢治も草葉の陰で苦笑いしていたでしょうね。
やまなしは今は、「イワテヤマナシ(ミチノクナシ)」という野山に自生する種というのが通説になっています。
ちなみにですが、漫画家のますむらひろしの出版物(『宮沢賢治童話集 やまなし/光の素足』ミキハウス2015)でもイワテヤマナシの形質(果実の頂部=尻に萼片が残る)を誤って描いていますが、実は米沢出身のますむらは地元の友人(筆者もよく知っている陶芸家)に連れられて、米沢の郊外の山梨沢にあるナシの古木に取材してのものと聞いています。米沢にイワテヤマナシはありません。
イワガラミ(岩絡/アジサイ科アジサイ属)のドライフラワー。
イワガラミは白い萼片(装飾花)のうつくしいアジサイの一種。
この装飾花はシルキーホワイトとも言えべきうつくしい白です。
イワガラミの5月の若葉は山菜として利用できるよう、筆者もこの春には近くのイワガラミの葉を摘もうと思います。
6月のイワガラミ。
何の足跡だろう。タヌキ? アナグマ? イタチ?
これは、サル(猿)の足跡。
クワ(桑)の甘い皮でも探しているものやら、指の跡でサルだとしっかり判別できます。
この細い足跡はリス(栗鼠)?
沢筋に横たわった枝を橋にして移動していました。
これはきっと、アオゲラ(緑啄木鳥)のつつき跡。
樹勢が衰えて腐敗が進む立木にはテントウムシだとかカメムシだとかの成虫、それから様々な虫の幼生が棲みついていて、キツツキ科の鳥たちにとってこれはこの上ないごちそうなのです。
ルーザの森にはいたるところに自生するカラコギカエデ(唐子木楓/ムクロジ科カエデ属)の冬姿。
羽状の実は飛ばずに落ちずに冬でもついていて、ちょっと見はまるで花のようです。
カラコギカエデは紅葉がきれいなカエデです。
フジ(藤/マメ科フジ属)に絡まれてしまった樹木。
やがてこの木は身動きが取れなくなって倒れるばかりとなります。
フジは5月にうつくしい花房をつけてひとびとの眼を楽しませますが、樹木にとってフジは招かざる客、ギャング同様なのです。
家のすぐ近くの掘り返し跡。
これはイノシシ(猪)の仕業、土中に潜むミミズやヤスデなどの生物を必死に探しています。
枯れた葉のついたウワミズザクラ(上溝桜/バラ科ウワミズザクラ属)。
実はこれ、ツキノワグマ(月輪熊)の採食跡です。
昨年の秋はウワミズザクラが異様なほどの実つきで、クマは大いに喜んだことでしょう。この実はクマの大好物なのです。手あたり次第に枝をたぐり寄せては折って、房となった実をこそげて食べたのです。
ルーザの森ではウワミズザクラの食べ跡はけっこう見られたので、クマはこれだけでも腹を満たしたはずです。
今ごろクマは、雪の洞(うろ)の中でうつらうつら春の夢でも見ているだろうか。
ちなみにですが…、
下が、ウワミズザクラの、瓶ブラシのような花、
ウワミズザクラの、黒熟した果実、
ウワミズザクラの、あでやかな紅葉。
ウワミズザクラは目にする者を一年中楽しませてくれます。
ホオノキ(朴木/モクレン科ホオノキ属)に登ったツキノワグマの爪痕。
ホオノキの樹皮はとてもやわらかく、クマの爪がしっかりと食い込んで木登りするのに好都合、得意になってズンズンと高く高く登ったのだと思います。
ただしこの爪痕は、3年くらい前のもののようです。
笊籬溪(ざるだに)は雪解けの水をあつめて、ゴウゴウと鳴って…。
溪筋には今、ギャーギャーというあの汚な声のカケス(懸巣)の飛翔がひんぱんです。
カケスの別名はカシドリで、カシはどんぐりを指しますが、カケスはどんぐりが大好物なのです。
雪が消えかける溪の崖にどんぐりが残っているということでしょうか。
下は、もう12年のものだけど、雪の中にどんぐりを探すカケスの画像です。
夏場に撮影したカケス。
溪沿いの林にも太陽はいっぱい。
あっ、ヤマドリ(山鳥)だ。あっ、キジ(雉)も飛んだ。
ヤマドリ。
笊籬溪の対岸に立つ我が家。
屋根が春の日に反射しています。
屋根の雪は溶けて水となって、ジョウジョウと音立てて…。
積もった雪は日差しを受けて海綿状となり、やがて組織がくずれて水となっていく…、
これが春が近い何よりのしるしなのです。
ツピツピツピ、ジジジ…、ツピツピツピツピツピ、ジジジ…。
そうそう、今、森は、シジュウカラ(四十雀)のさえずりが日に日に大きくなっています。
これはまちがいなく春の伝令です。

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我が家は薪ストーブを主暖房にしているのだけれど、ということは灰がたくさん出るということです。
灰がたまってきたのでここらで処分をと思ったとき、頭に浮かんだのは奥会津の柳津町の山あいの温泉、西山温泉の老沢旅館のことでした。
老沢旅館は奥会津での筆者の定宿です。その大女将タミコおばあちゃんが灰を欲しがっていたことを思い出して電話すると、ふたつ返事の「取っておいて!」でした。
灰はワラビ(蕨)のアク抜きに最適、重曹とは比べられないほどに優秀なのだそうで。
それからタミコさんは日本でたったひとり、伝承在来作物の五畳敷芋(里芋の一品種)を守り続けている貴重な存在です。その畑の肥料にもするという。
ということで、防塵マスクをつけて篩(ふるい)の作業をはじめました。
また、何よりの土産として持っていきますよ、タミコさん!
*
最後に、笊籬溪の1月からの今日までの移りかわり。
(2025年)1月9日。
2月10日。
3月4日。
そして本日、3月10日。
春の足音がヒタヒタの3月です。
それじゃあ、また。
バイバイ!
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