森の小径森の生活

山笑ふ日々

本日は(2025年)5月19日。
新緑のうつくしい季節になりました。
山や森や林や野原にふりそそぐ日光、このひかりの春を知っているからこその冬の辛抱だったのです。
雪国のニンゲンはこんな春を夢見てもう少しあと少しと励ましてきたのです。
だからもう、どう口にしていいか分からないくらいこの季節がうれしいのです。

今回のsignalは、5月に入ってから約2週間の、(なんともせわしない雑事を縫っての)狂おしい日々の記録です。題して「山笑ふ日々」。日々刻々、時々刻々、山はとどまることなく笑い続けていますゆえ。
なお、「山笑ふ」は俳句の春の季語です。

山笑ふ日々…。
萌えだした木々の芽、萌黄色、若いきみどりにまじってほのかにだいだいに染まるのはクヌギ(櫟)だったりミズナラ(水楢)だったり…、うすいももいろはカスミザクラ(霞桜)、雪のようにしろいのはコブシ(辛夷)やタムシバ(田虫葉)…、山のこういう彩りを春紅葉(はるもみじ)というようだけど、筆者なら春百彩(はるひゃくさい)ですね。このひかりに満ちた彩りは秋の二番煎じではないですから。

下は、5月8日の、家からすぐ近くの山の様子。

山笑ふ日々…。
ちょっと遠出して、ダム湖の近くで。
だいだいに染まるのはアカイタヤ(赤板屋)の群落のようです。

なぜダム湖かというと、そこにはアケビが群生していて、その萌えが食べたくて年に1、2度行くのです。
ダム湖わきの道の際(きわ)には急斜面の(土留めのための)擁壁が続いていて、それを伝うようにアケビの蔓が伸びています。
アケビがこんなに集中して繁殖している場所はまたとありません。

斜面をおおうアケビ。
筆者はこの擁壁をよじ登って摘んでいきます。
擁壁をよじ登るとはいってもところどころで段になっており、段に出れば決して危険な場所ではありません。

ちょうど伸びはじめたアケビの若い芽。
このぐらい群生していると、摘むのもそうむずかしいものではありません。

アケビはアケビでもこれはミツバアケビ(三葉木通/アケビ科アケビ属)、その独特な花。
ミツバアケビは雌雄同株で異花、雌花が先に開き、雄花が後から開いて花粉を飛ばします。
雌花は径1.5センチほどで紫色の咢片が3、4枚あり、めしべの柱頭がぬれてひかっています。雄花は直径4ミリほどで咢片とおしべを持っています。 

摘み採って集めたミツバアケビの萌え。1時間ほどもして。
通販などでは100グラムで800円くらいが相場のようで、このくらいの量だと1万円くらい?(笑い)
自家消費では多すぎるので、遠方の知人に送って食べていただきました。

ミツバアケビは家の周りにも生えているのですが、萌えを食べるくらいに集めるのはたいへん。よって、いきおいダム湖行きになるのです。

下は、萌えをさっと塩で茹でたもの。
萌えを盛った皿は沖縄のやちむんです。よい器です。

卵を溶いて、生醤油をさして、萌えをひたして。
萌えを卵にからめてご飯でいただくのは、もうほっぺが落ちるほどにおいしいです。はじめての時のうまさは衝撃的でした(笑い)。
アケビの萌えはワラビやゼンマイとはちがう、コシアブラやハリギリなどのウコギ科の木の芽ともちがう、フキやアザミなどともちがう、一種独特の苦みと食感が身上です。

月山でご一緒した新潟は田上(たがみ)のHさんに教えてもらったところによれば、新潟では木の芽といえばアケビの萌えを指すのだそうで(特に十日町、魚沼地方)。それだけ消費量が多く、山菜として多くの人に愛されているということでもありましょう。
またこの時期、居酒屋などでは萌えを器に円くあしらって、中心にうずらの卵を落とした「鶴の巣籠(つるのすごもり)」という逸品が出されるとか。想像するだけで日本酒が進みそうです(笑い)。

山笑ふ日々…。
ダム湖からさらに山の奥に進んで、ねらった山菜がグッドタイミングで出ていました。
そこはちょうど最上川源流のひとつ、清流・綱木川のわきで、芽吹きを迎えたヤマハンノキ(山榛木/カバノキ科ハンノキ属)がすっくと伸びるその下に…、

トリアシとイワダラ。
トリアシとイワダラはよく同じ場所に生えていることが多いためか、一緒にされて「トリアシ・イワダラ」などと呼ばれたりします。けれどもふたつは実際は別種(しかも別科別属)です。
このトリアシ・イワダラ採りを知り、その味の違いが分かると、山菜の通と言われるかも(笑い)。
トリアシ(鳥の足からの呼び名)はともかくイワダラの謂われは分からないし、こう呼ばれるのは山形でも一部(米沢置賜地方、新庄最上地方)であるような。秋田の雄勝にもこの呼び名があるようだけど、いずれにしても局所的です。

トリアシの標準和名はトシアシショウマ(鳥足升麻/ユキノシタ科チダケサシ属)。まさに、鳥の足が逆さになったよう。 

一方、イワダラの標準和名はヤマブキショウマ(山吹升麻/バラ科ヤマブキショウマ属)です。
この日は8日のことでしたが、普通ならこの時期はもう伸びきっていてもおかしくなく、自分がここに来る頃にはこの山菜を知る者が一度二度と入っているところなのです。
けれども今年は雪が多かったために時期が1週間から10日はずれたよう、ちょうどよいものがたくさん出ていました。ラッキーでした。


近くには、ひかりの春を彩るカタクリ(片栗/ユリ科カタクリ属)やエゾエンゴサク(蝦夷延胡索/ケシ科キケマン属)が咲いていました。

キクザキイチゲ(菊咲一華/キンポウゲ科イチリンソウ属)や、

ニリンソウ(二輪草/キンポウゲ科イチリンソウ属)も咲いていました。
嗚呼、何とも春です。

山笑ふ日々…。
サンゴクダチ。
(筆者の出身は山形県南陽市だけど)就職先の仙台から赴任先が変わって米沢に移り住んだのですが、米沢では職場のひとが春になるとさかんにサンゴクダチ、サンゴクダチと言うのです。それはいったい何を指すものやら、言葉だけでは一向に分かりませんでした。
そこで筆者は職場のひとに願って、実物を2、3本持ってきてもらって図鑑とにらめっこ。そこでそれはゴマナであることが分かったのです。もう30年も前のことです。

ゴマナ(胡麻菜/キク科シオン属)。山菜としてのゴマナの茎、サンゴクダチ。

サンゴクダチのダチは「茎立ち」から来ていると想像できるけど、サンゴクとは何だろう。越後、羽前、羽後の雪国の三国だろうか? 山国だろうか?

サンゴクダチをさっと(2分ほど)塩で茹でて、しぼって刻んで、味噌と白ゴマと黒ゴマを混ぜ合わせれば、切り合い(切り和え)の出来上がり。これをご飯の上にのせていただきます。
サンゴクダチのさわやかな香りがプーンと漂います。

しかしこの、簡単にして秀逸なレシピは米沢を含む置賜地方に伝統はあるものの、全国的にはほとんど知られていないもののようです。
3年ほど前だったかこの時期に吾妻山を越えて裏磐梯に遊んだことがあったのですが、山菜採りがあたりを歩いているのにサンゴクダチにまったく気がつかないのです。つまりは山菜としてのサンゴクダチを知らないし、その生かし方も伝わってはいないということです。
もったいないことです。

タカノツメ(鷹爪/ウコギ科タカノツメ属)。
これは地元でもまだあまり知られていない山菜のひとつ。
タカノツメという名は、冬芽がツンととがっていて鷹の爪のように鋭いということからの名です。トウガラシの鷹の爪も同じ意味ですよね。

タカノツメの若葉。

(1分半くらい)塩茹でして刻んで、ご飯に混ぜ込んで、塩を少し振ればできあがりの超簡単レシピ。
タカノツメのキドさ(苦さ)は春の味、食卓にプーンとした香りが広がります。実にうまいです。おひたしも美味です。

コシアブラ(漉油/ウコギ科コシアブラ属)。
タカノツメ同様の、混ぜご飯によし、おひたしによし、天ぷらによし、です。

ハリギリ(針桐/ウコギ科ハリギリ属)。
これもタカノツメ同様の、混ぜご飯によし、おひたしによし、天ぷらによし、です。

以上の山菜はともにキドさが身上、茹でて、粗く刻んで醤油につけておくのもよし、この醤油漬けもご飯のおともにうってつけです。

タカノツメ、コシアブラ、ハリギリはウコギ科三兄弟です。
ちなみにタラノキ(楤木)もやはり同じウコギ科(タラノキ属)だけれど、山菜としての姿や大きさ、利用法は三兄弟とはちがうので、ウコギ科のオヤジまたは親分という感じですかね(笑い)。

トリアシ。
おひたし、山菜汁の具によし。コリコリした食感がよいです。

イワダラ。
トリアシ同様、おひたし、山菜汁の具によし。これも独特の歯ごたえがあります。
天ぷらにするひともいるようだけど、自分としては淡泊(白)過ぎるので向かないと思うけど。

山菜と言えばワラビ(蕨/コバノイシカグマ科ワラビ属)。
ワラビは何と言ってもおひたしに。我が家の場合は味醤油と生醤油をまぜ、ショウガをちらし、トウガラシを載せるのが定番ですが、家によってそれぞれでしょう。
ワラビはアク抜きが必要ですが、我が家は薪ストーブから出る灰を使っています。重曹でやる家庭の方が多いと思うけど、本来のワラビの味を引き出すのは灰だと思います。
ワラビはまた、汁の実に、(昆布つゆなどでの)一本漬けに、煮物にと利用範囲がひろい山菜です。

 

山菜オールスターズ!(笑い)
てっぺんがトリアシ、時計回りに隣からコゴミ、コシアブラ、イワダラ、アブラコゴミの盛り合わせです。

山笑ふ日々…。
筆者の植物のお師匠さんのJさんと今年第1回目の植物観察散策をしました。
めざすは米沢の郊外の山ふところ深く、山梨沢という集落です。そこに、自生するという大きなナシ(梨)の木を見たかったのです。

日本に自生するナシ属は3つ。
ひとつがミチノクナシ(陸奥梨、イワテヤマナシ/岩手山梨)…これにはアオナシ/青梨も含まれるという…、ひとつがマメナシ(豆梨)、もうひとつがヤマナシ(山梨)です。
宮澤賢治の作品に「やまなし」というものがあって、そのナシとは実際どんなものなのかが気になって野生のナシを3箇所、4箇所と探し歩いたものです。そしてその結論は芳香うるわしいミチノクナシ(イワテヤマナシ)だったのですが、残念なことに山形県南の置賜地方にその分布はないようでした。

今回見た山梨沢のナシは何に該当するのかがわかりません。
晩夏から秋にかけて果実をつけたときにそれははっきりすると思いますが、先端部(軸に対しては尻)の窪み(萼窪/がくあ)に萼がはっきり残るのがミチノクナシ、はっきりしないのがヤマナシです。ただし、樹木図鑑(『原色日本樹木図鑑』北村四郎(補校)岡本省吾(著)保育社1970)によってもwikipediaによってもヤマナシの分布は中部地方以南とあります。
ではいったいこのナシは何でしょう。

山梨沢のナシの花は、今がちょうど満開でした。

雄花序(ゆうかじょ)垂れ下がる、ウリハダカエデ(瓜膚楓/ムクロジ科カエデ属)。
雄花序は雄花の集まりです。

雄花序垂れ下がる、コナラ(小楢/ブナ科コナラ属)。
今我が家では、花粉を放出して役目を終えた雄花序が風に舞っています。そして、ゼンマイ干しの上に降りかかってきています。これが春から初夏への風物詩のひとつです。

山梨沢をさらに奥に進み、林道・芝倉―湯ノ花線のクネクネとした峠道を通って国道121号に出ました。はじめての道はいずれもワクワクするもの、この林道もあたらしい発見のある楽しい道でした。
この林道の別の名は唐戸屋(からとや)林道、唐戸屋とはかつての鉱山の名です。ここに鉱山があったのです。
唐戸屋鉱山は1906(明治39)年に操業を開始し、銀、銅、亜鉛を採掘した鉱山で、1972(昭和47)年に閉山したとのこと。現在は、廃坑跡や廃石や製錬かすのズリが多く残っているそう、でも今回は鉱山跡への行き方は分からずじまい、いずれは入念に調べて行ってみたいと思います。
今回のルートはJさんの、この鉱山への興味からのリクエストでした。

ヒトツバカエデ(一葉楓/ムクロジ科カエデ属)の若い葉。
今回の観察会で教わった植物のひとつ。
筆者にとっては初めての出会い、若葉はほのかに薄桃色をおびたうつくしいものでした。

オオバボダイジュ(大葉菩提樹/アオイ科シナノキ属)の初々しい若葉。ビロードに包まれていました。

タヌキラン(狸蘭/カヤツリグサ科スゲ属)。
これも教わって知った初めての植物。

花穂はまったくのタヌキの尾っぽ!

林道の溪谷にて。
自分ひとりで歩くのと、植物にくわしい方といっしょに歩くのではその面白さがまったくちがいます。くわしいひととご一緒すれば、ひとつの植物を通して世界がどんどんと広がっていきます。
今回もたくさんのことを教わりました。いつもながら、とても楽しい一日でした。

山笑ふ日々…。
笊籬溪の春の移ろい。

5月4日。

5月8日。

5月16日。

新緑のうつくしい季節になりました。

世の中は今、戦争だ、虐殺だ、殺傷だ自死だ、物価高だ生活苦だと重苦しいことばかり、世界中のみんなが死と不安に包囲されているかのようです。これひとえに政治の体たらく、何たる無能ぶり!
時には聴こえてくる音を少し遮断し、見えてしまう景色に少し目をおおい、世の中の動きからちょっと離れて自然の織りなす世界に身をひたすのもいいことだと思います。まともに向き合うことだけが善ではないです。
自然はまたちがったところから幸いを教えてくれるような気がするのです。
自然こそが希望だとワタクシは思っています。

それじゃあ、また。
バイバイ!

 

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