新年、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
今は、年あけて2025年1月6日、非常に冷え込んだ朝です。そのキンキンの朝の森に、アオゲラ(緑啄木鳥)がドラミングを響かせています。
早朝の暗い空には北極星の真上にカシオペア、真下におおぐま、東に大きなオリオンがさんざめいていました。この冴えざえの星の輝きからすると、外気はマイナス10℃近くまで下がったのではないでしょうか。
こんな時ですねえ、宮澤賢治の「なめとこ山の熊」の主人公・小十郎を思うのは。星の界(よ)の下、殺した小十郎を中心にすえて、熊たちが車座になって弔っているあの雪の上の、崇高ともいうべき場面。
筆者にとって小十郎は物語上のキャラクターから離れ、感情移入して共感すべく実にリアルな存在なのです。
上は、我が家の半永久ものの鏡餅。
半永久もの?
そう、この鏡餅は筆者が一昨年の暮れから正月にかけて木でつくったもの(笑い)。餅もみかんも木材、みかんにつく小さな葉はビールの缶のみどり部分をハサミで切ってつけたものです(笑い)。
餅の白さを出すために市販のツーバイフォー材=SPF材を使ったのですが、木目と、木目と木目のあいだのやわらかい部分との硬さのちがいが大きく、削ったり磨いたりするのには難儀しました。材料はサクラの方がよかったと思いますが、まあそれはともかく。
餅を敷く赤布は端切れを相棒が縫ってくれたもの、下の台座は端材ともらいものの“今治タオル”が入っていた桐の箱を切ってこしらえたもの(笑い)。
この台座は収納の箱も兼ねており、寿(ことほ)ぎの時期が過ぎれば鏡餅はすっぽりと納めてしまっておくことができます。
昨年は喪中であったために飾らず、この新年がデビューとなりました。
さて、今回の久しぶりのsignalは我が家の花梨(カリン)がテーマ。題もそのままの「花梨」です。展開はおいおい追ってのこととします。
*
暮れの12月12日未明から大雪になりました。
ここルーザの森は郊外でも山間(やまあい)にあり、雪は市中のアメダス値の約1.5倍、24日のクリスマスイヴには100センチを超えたものでした。
12月中の積雪100センチ超えというのは、ここに住まって30余年、1度2度あったかどうかの雪でした。参りました。
10センチの積雪が見込まれれば市の土木課から指令を受けた(委託業者の)除雪車が出動することになっていますが、それから数日は除雪車が早朝に来て昼に来て、夕方にも来るという目まぐるしさでした。雪はそれほどに断続的に降り続いたのです。ということはそれに合わせるようにこちらも除雪に勤しむことになります。
雪から暮らしを守るというのは、なにも玄関から公の道路までをはけばよいということにとどまりません。
積もればやがて落ちる屋根からの大量の雪を取り除くのもひとつ、そのためのアプローチの確保もそのひとつです。
一定以上に降り積もった場合は家庭用除雪機の前進ままならず、そうすると何もかもがお手上げとなってしまいます。よって住民は、雪の降り具合を見ながらいつでも待機ということになります。気を張っています。
昨年は拍子抜けするほどに雪が少なかったので今年の雪はその反動でしょう、雪が降ったときの身体の反応を思い出すのにひと苦労でした(笑い)。
楽することをいったん覚えてからのたいへんさ、です。
これはナイスショット、外気がゆるんで屋根の雪が滑り落ちた瞬間、空中に浮いているところをパチリ(笑い)。
屋根の下にいて、こんなものが覆いかぶさったらきっとお陀仏でしょう。
前庭に植栽したモミ(樅)は、「どんな雪でも来い!」と言わんばかり姿勢です。枝を張って恰好を保つのではなく、すっかり腕を下げてまるで槍のようにして雪から身を守っています。
マツ(松。アカマツ)はこういうふうにはならず、枝を折ってしか生き延びる方法を持ちません。雪が一気に来ると幹の途中から折れてしまいます。
日本特産のモミ、モミは賢いです。
モミの一番下の枝をもらって、玄関ドアのクリスマス飾りにしました。写真は、吹雪のあとで。
降雪のたびに我が家の除雪機の出番です。
ルーザの森で除雪機なくして冬を越すことはまず不可能、除雪機はありがたいマシンです。移住して30年余、これで3台目となります。
この機種(HONDA 1380JR=13馬力、除雪幅80センチ)は4年前で80万円ほど、今は100万円近くにまで値上がりしている模様。重量は250キロもあります。
今冬でこれまでにガソリン40リットルを消費、あたりを雪がおおう3月半ばまでにいったいどれぐらいのガソリンを食ってしまうのだろう。
冬を越すには金がかかります。
除雪を終え、格納庫=リス小屋に収まる除雪機。
でも、筆者は雪を悪者扱いしたことはないです。雪がいやだと思ったこともないのですよ。
では雪が好きなのかと問われれば答えに窮するところもありますが、雪はひとが思い上がらないための戒めでもあるという自覚は忘れたくないのです。自然は決してひとにおもねたりしないのです。
そう、ひとはひとに都合いいようにばかリ解釈し行動する。もっと便利に、もっと快適にと、もっともっとの欲が止まらないのは事実でしょう。
気候変動にせよ、国と国との争いごとにせよ結局は思い上がりの積み重ねに起因している、とも思うから。
ただ今、積雪100センチ。計測棒の真ん中に雪がついている箇所が200センチラインです。
計測棒はひとつの目盛りが20センチにつくってあります。
冬季、裏日本、日本海側というのは太平洋側に住むひとからは想像できないほどに鉛色の空が続きます。この色がどんなにか気持ちを塞がせ、身体を縮こませるか。
冬というのは長い長いトンネルなのです。だから青空が出たときのよろこび。
12月30日、久しぶりに青空というものを見ました。
雪が厳しければきびしいほどに、そのあとの青空はうつくしいものです。
町に買い物に出たついでに、郊外にそびえるサイカチ(皁莢)の老木に会ってきました。
特徴的にねじ曲がるサイカチの豆果(莢果)、かつてはこの豆果を石鹸代わりに使っていたのだとか。
サイカチの豆果はサポニンを含んで汚れを落とす効果があるということです。
サイカチは宮澤賢治の童話「風の又三郎」でも重要な役割を果たす樹木でもあります。
そうして、一気の雪は我が家の大切なカリン(花梨)の木を地面に着くくらいまで倒れさせ、放置すれば折れてしまうところでした。
下は、竹棒の先端に引っかけの金具をつけたもので、これで木を揺らして雪を落として少し立ち直った場面。
これでひとまずセーフ。
*
そうしてようやく、花梨(花櫚。カリン)。
カリンは中国原産でバラ科カリン属の落葉高木。
1995年頃、この土地に家族で移住した記念にとホームセンターから買ってきたカリンの苗を植栽したのです。記念樹は食用に利用できる木がよかろうと。
けれども周りをおおっているコナラ(小楢)の木がズンズンと背丈をのばし、カリンにはあまり日が当たらなくなってきた上に施肥もしないので細い幹のままにひょろひょろになりました。だからちょっとした雪にも弱く、ほどなく傾いてしまいます。
果実をつけるようになったのはここ10年ほどでしょうか。
実はついても3つか4つほどがせいぜい、でも一昨年は9個までに増えたのでした。
昨冬、落果したものを拾いあげて、いとおしくベランダの手すりに並べていました。それはとてもいい光景をつくっていたものでした。
そして昨秋はどうしたわけか一気に増えて、53個もの実をつけたのです。ビックリです。
落ちては拾い落ちては拾いしてベランダのビールケースの上に並べていたのですが、数は日に日に増えていきました。
カリンがこんなに収穫できるなんて感激、いやあ幸せ、とてもうれしかったです。
カリンの花を見たことがあるひとは限られると思うけど、うつくしいものです。筆者がはじめてその花を目にしたときの興奮を今も覚えています。
下は、5月半ばのカリンの花。初々しい新緑に映える花の、清楚にしてやわらかな色、この色を韓紅(からくれない)というのだと思います。
さて、収穫したカリンをどうしよう。
まずはゴシゴシと洗って表面の汚れを落とし、乾かせば表面がうっすらとした油膜におおわれてきます。
追熟させると徐々に黄色味が増してきました。色味が変わるにつれて、芳香も強くなっている感じです。
カリンの香りってすばらしく高貴、カリンは抜群の芳香剤です。う~ん、いい香り。
一昨年に収穫したものはしばらく飾って香りを楽しんだのちは、ざく切りにして35度の焼酎に漬けました。それは今、熟成中で、もう少ししたら飲むことができるでしょう。
果実酒の中でもカリン酒はウメ酒とともに格別なもの、カリンは風邪予防や咳止めの薬効にすぐれているよう、酸っぱみと甘さが調和し芳香をともなった飲み口は抜群です。
で、まずは今回もカリン酒を仕込みました。2リットル瓶を3つ、5リットル瓶ひとつ、都合11リットル!
できあがったら自家消費するにしても我が家はふたりきり、余分なものは親しいひとに差し上げようと思いますが、仕込みの量はいくら何でもこれが限度というものです。
下は、身の厚い片刃の出刃包丁。
カリンの果実はとても堅く、平らなところで丸いカリンを半分に切るには相当の力とコツがいります。あまり包丁使いをしないひとはとても危険、注意を要します。
ちなみにですが、カリンは青果物店の店頭にもならんでいることがありますが、“カリン”と表記して実はマルメロ(榲桲/バラ科マルメロ属)だったりもします。この辺のひと(米沢市民)はカリンとマルメロを混同しているようです。
カリンとマルメロは色も形も似ていますが、カリンの表面は油膜におおわれていてツヤツヤ、一方のマルメロにはビロードのような毛が生えているので区別は容易です。
マルメロもカリン同様に果実酒として利用できますが、マルメロに薬効の記述はあまり見当たりません。
そうして、残りのものでジャムに挑戦です(できあがったものはジャムというよりはちょうどメープルシロップの粘度ぐらい、よって今回は以下、“カリンシロップ”ということにします)。
カリンの中央には種がびっしり。この種がペクチンを多く含んで強い粘り気を出しますので煮つめていく作業には種もいっしょに投入します。
我が家の暖房の主力は薪ストーブだけれど、吹き抜けのリビングの大空間をそれだけであたためるのは不十分すぎます。よって寒さが厳しくなれば補助暖房として対流式のストーブを出してきますが、そのトップにカリンのざく切りの鍋を置いて。
情報には果肉を生かしてコンポートにしたりジャムをこしらたりするレシピも散見できますが、カリンの果実は石細胞が多くてジャリジャリ、口にしておいしいとはとても言えません。よって、実はすべて取り去ることにしました。
果肉を除いたものはべっ甲飴のような飴色の液。ここに砂糖を投入します。
カリンは2キロ使いましたのでレシピにしたがって砂糖は1,600グラムとします。さらに味の引き締めのため、レモン果汁を1個分加えました。
徐々に煮つめていくとやがてはワインレッドともいうべき色に、さらには臙脂色(クリムソン)まで変化していきました。表現としてはガーネットが一番近いかもしれない。
下は、粘度を確かめるため、熱々のものを外の雪で冷やしているところ。粘度をもうちょっと上げるべし。
瓶詰めの準備。
使いまわしの瓶を煮沸して殺菌しています。
加熱は、もういいでしょう。
う~ん、いい感じ、いい粘り具合。これが冷えたらペクチンの作用で粘度はグッとアップしていましょう。
相棒が熱いうちに瓶詰めしています。
計15個の小さな瓶を脱気のために煮沸。
この瓶つかみはすぐれモノ、瓶のサイズに関わらずガッチリとつかみます。ドイツ製で結構な値段がしたと記憶しています。
脱気することによって、保存は常温で1年とのこと。冷蔵庫保存なら2年くらいはゆうにもつのではないでしょうか。
この保存法を生み出したひとはすばらしいです。敬意を表します。
脱気を終えてできあがってきたカリンシロップ。まず、透かすひかりがうつくしいです。
しまいに、お遊びでラベルをつくってみました。
写真には我が家に咲いた花をあしらって。
karin /花梨
カリンシロップ
ルーザの森クラフト謹製
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名称/カリンシロップ
原材料名/カリン(自家製)、砂糖、レモン果汁 内容量/ g
賞味期限/製造日より1年(常温)2年(冷蔵)
製造日/2025.1.5
・・・
製造者/ルーザの森クラフト
山形県米沢市万世町梓山笊籬5519-1
〒992-112 tel0238・28・3982 lusa.hutte@gmail.com
ひとつひとつの瓶にラベルを貼ってできあがりです。
来年は道の駅に出品しようかな? これは冗談(笑い)。
でも、自分でいうのも何だけど、この味は絶品です。
瓶にラベルが貼られ、できあがりに感激した相棒がシフォンケーキにできたてのカリンシロップをたらして持ってきました。
カリンシロップはこれから、パンにヨーグルトに、紅茶に、はたまた炭酸で割って冷たい飲み物に、お湯割りでカリン茶にと活躍しそうです。
彩りうすく、雪に閉ざされて楽しみ少ない雪国の冬の、カリンの甘い物語はこれでおしまいです。
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2025年、それぞれにたくさんのよいことが訪れますよう。
それじゃあ、また。
バイバイ!
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