製作の時間

額をつくる

本日は(2024年)9月10です。時が過ぎ去るのが、早い速い!
前回のsignalは「奥会津の湯宿」で、それをアップしたのは6月15日のこと、それ以来のご無沙汰です。
この間、アップしたい題材はあったにせよ、あわただしさと忙しさに紛れて記事としてまとめるには至らずにここまで来てしまいました。無念です。
さて久しぶりの今回は、題して「額をつくる」です。その製作過程をまとめてみたいと思います。

筆者がまだ木工の本格的な用具や機械を持たない頃から額縁というものには興味があって、それをいつか自分の手でつくってみたいものだというあこがれがあったのは事実です。
筆者は自分で絵筆を握るし、気に入ったポスターならお金を払ってでも手に入れたいもの、それから自分で撮った写真のうちでも気に入ったものもあり。そういった写真やポスターや絵を単に画鋲留めしては味気ないもの、作品に対して申し訳なく思うもの、けれどもそれを入れる額を専門の店で調達したいとは決して思いませんでした。売られているものはデザインが洗練されすぎ、装飾や細工が凝りすぎていて、ちっともこちらの感性に響かないのです。
だったら見よう見まねで自分でつくった方がいいと思ったのは自然なことでした。それを強く意識しはじめたのは町場からこのルーザの森に引っ越してきてから、約30年前のことだと思います。

下は、岩波文庫のH・D・ソロー著、飯田実訳出の『森の生活』に差しはさまれていた、ソローゆかりの、アメリカはボストン郊外のコンコード村の風景写真(拡大して極厚のトレーシングペーパーに複写)を飾りたくて。

いただきものの「賢治百年祭」のポスターを飾りたくて。1996年の作。
いずれも十分な工具がないままにつくった稚拙なものながら今も愛着はあります。

下は、黒澤明がソヴィエト映画「デルス・ウザーラ」(1975年。この黒澤映画は映画史における金字塔だと思う)のために描いた絵コンテ。この主人公デルスの生き方と人がら、風貌がたまらなく愛おしいのです。
映画雑誌に掲載された絵コンテを版画紙に複写して額装し、我がヒュッテに飾ったものです。2013年頃。
筆者がヒゲを生やしはじめたのはこの絵コンテのせい?(笑い)

同じくヒュッテに飾ってある、家族の山登りの記録。思い出の写真群。

茨木のり子の詩「六月」を友人に揮毫(きごう)してもらったもの。
気仙沼の山内松吾君の作 。

佐藤忠良のブロンズ「北の少女」を額装したもの。
美術にくわしい友人に尋ねたことがあったのです、「これ(値段は)どれぐらいしたと思う?」と。
それに対して「35万くらいかな」とはある彼女、ある彼は「160万だろうね」とのこと。やはり佐藤忠良という彫刻家をよく知っているだけあって、お目が高い。
35万円に160万円、いいセンいってますよね。でもこれは、正直を言えば5,000円です(笑い)。オークションで落札したものです。
実はこれは何を隠そう“ペーパーウエイト・文鎮”で、北海道のとある建設会社が株主への記念の品として忠良に型を依頼、それを鋳造して大量につくって配ったというしろもの(代物)なのです。
でもこれは、どこから見てもCHURYO、まったくすばらしい。

山形と新潟、福島、宮城のごく一部のみにしか生育していない希少種、ヒメサユリ(姫小百合)がルーザの森にも咲くのですが、この花をめあてに友人のヨシダさんが訪ねてきたのはこの5月末のことでした。
花を愛でたあとに自宅に戻ってお茶を飲んでいると、彼女が言うのです。
「ホンマさんって、今年は展示会をするんでしたよね。そのときに、ワタシの絵を飾ってもらいたいのだけれど、いいかしら?」と。
ドキッとしました(笑い)。

展示会…、
勤めを辞めて木工の道に入って2年、その発表の場を2018年に持ったのですが、その後は製品の研究や開発に1年という時間を充てることとし、展示会は1年おきにやっていきたいという構想を描いていたのです。
ところがその計画が狂ってしまったのは例にもれず、感染症COVID-19の大流行のせいでした。移動が制限される中で展示会も何もあったものじゃない、2020年はやむなく中止しました。
そして昨年2023年6月、感染の度合いも軽微となり満を持して取り組もうとした矢先のこと、今度は主宰していた読書会サークルが(宮沢賢治学会イーハトーブセンターから)表彰されるといううれしい知らせが飛び込んできました。これはまったく予期せぬ出来事、ハプニングというものです。
それは単に表彰式に出ればいいというのではなく、式場においてこれまでの活動を20分程度で紹介せよ、プレゼンテーションをせよとのお達しなのでした。正直、これには参りました。決していい加減な準備ではいけない。
すでに展示会開催の告知は済んでいるし、9月半ば過ぎの表彰式直後に展示会、これはどう考えても無理なことでした。それで早々にも開催の中止という判断をしたのでした。

ということもあって意識が途切れ、正直、モチベーションは下がっていました。(ものをつくってそれを発表する者は同じだと思うけど)展示会や展覧会に注ぐエネルギーは並大抵のものではなく、そのたいへんさが想像できるだけに展示会開催自体がどうも気が進まないものになってしまっていたのです。「絵を飾っていいかしら?」は、そんな時の唐突な、意外な提案だったのです。
ところがその申し出に、「いいね。会場が華やかになるね、ぜひお願いします」と、筆者の口から不意に無意識に、その言葉が出てしまったのでした(-_-;)。ヨシダさんの、キラキラの瞳に、つい、つい(笑い)。

絵の展示をきっかけとしてモチベーションは高まって、アドレナリンは充ち満ちて!(笑い)
飾る壁面を想定し、じゃあ20枚ほどをとお願いしたのは8月の末のこと。そのときに、「額は100円ショップでいいかしら?」とヨシダさんが言うので、ダメダメ、それはイカンと遮ったのです(笑い)。「自分がつくります」と。
心をこめて描いた絵を、つまらないもので汚してはいけない、殺してはいけない。

そうして久しぶりの額つくりがはじまったというわけです。
材料の木材を材料棚から物色したら、かつて処分を頼まれていた大きな織機を分解した支えの木材が目に入って、これでやってみようかと思いました。金属を通すための穴が多数、欠きも多い、とんでもない材料です。
ただそれでも処分せずにいたのは、この材質が広葉樹であったこと、古材ゆえに十分な乾燥がなされていること、カトラリーなどの小物の製作にはこれで十分で、乾燥したもので広葉樹はうってつけなのでした。
そして額のパーツ自体は細くて短いもの、こんなものでもできるかもしれない。

額の出来上がりの厚さを15ミリとして、カンナがけで厚みを整える分も見越してまずは18ミリほどの厚さで挽き割ってみました。
そしたら外観からは塗装でわかりづらかったのですが、材はクリ(栗)でした。
クリは、地肌はうっとりするほどうつくしく、広葉樹にしては狂いと歪みが少なく、堅くもなく柔らかくもないのです。作業性は抜群です。
こういう材はそうあるものではありません。しかも機械油がしみこんでいたりして、それが古色の味を出している。
この挽き割った時点で、径が11ミリほどの穴には11ミリ角の角材を作り、先をナイフで丸めて埋め込んで、なるだけ材を生かそうとしました。

下は、以後の作業のしやすさを考えて、額のパーツの幅の2倍分の50ミリとして、片じゃくり(片方だけしゃくる、欠き取る、段欠きする)加工をトリマー作業台でしているところ。
中央の穴から下のトリマーのストレートビットが出ていて、材料を手前から奥に送ると段欠きができる仕掛けです。

かつて自作した作業台にトリマーが取りつけられています。

50ミリ幅の両側に幅5ミリ、深さ5ミリの段差ができています。
この段の中に額を構成する保護面としての塩ビ板、台紙、絵などの作品、押さえの板(ベニヤ)が納まるようになっていきます。

50ミリ幅の部材を半分に挽き割ったところ。それにしても穴や欠きだらけの、ヒドイ材料!

つくり方にもよりますが、標準的な額をつくるとして、額つくりにおいて45度の斜め切りは必須の工程です。
ここは専用の工具や機械がなければできません。たとえ45度を取ったとしてそれをノコギリで垂直に下ろす必要があり、それを正確にこなすのがむずかしいのです。木工の中でも額つくりのハードルが高いのは、この部分の作業があるからです。
筆者の場合は専用の角度切りノコギリ(マイターソー)を使っていますが、これは2万円ほどはするもの。でも今は同じ機能のもので5,000円ほどの安価なものも出ているようです。さらにはマイターボックスというノコ挽きガイドだけなら1,000円ほどでも市販されています。
これらをひとつでも持つと、額つくりの楽しさにのめり込んでいくと思います。

角度切りして作ったタテとヨコの2種のパーツ。

コーナークランプを使って、接着剤をつけたパーツの面を合わせて締めつけているところ。45度と45度の面を合わせて正確に90度になるか、ここが額つくりの肝です。
コーナークランプは30年くらい前の入手当時でひとつ1,500円くらいはしたと思いますが、今ネット上を見ると、4つセットで1,200円というのが出ていてビックリ。こんなに安価なのに、型は以前から持っていたものと同じものです。
今回は一気に20ケの数の製作ということで、手持ちのクランプの数ではとても足らず、それを買い足しました。

1カ所を固定して十分に乾燥させたら、今度は対の2カ所を一度に固定します。
乾燥は通常は3時間ほどでよいようですが、今回は念には念を入れて24時間は放置しました。

乾燥を待つ間、2.5ミリ厚のベニヤを切っていきます。
近年木材は急激な値上げにさらされていますが、このベニヤも例外ではありません。三六判(サブロクバン。畳1枚分)でちょっと前なら500円程度で買えたものが今はその倍額です。

この手のべニヤはノコギリで切るよりもカッターナイフ(大)を使うのが簡単でしかも正確です。
定規を当てて3度ぐらい切り跡をつけてやると、パリンときれいに割れてくれます。

絵などの表面の保護材はガラスではなく1ミリ厚の塩ビ板を使用することにしました。
かつては本格的でカッコイイという理由で、ガラスをダイヤモンドカッターで切って使っていたものでした。これはこれで楽しい作業ながら、ここは作業の簡易さ、値段との兼ね合いで塩ビ板にしました。

塩ビ板も高くなりました。三六判で2,800円、ひところの1.5倍です。ただ、半サイズで2,000円を超えていましたので、ここは三六判にしました。
何でもそうですよね、量が半分なら値段も半分なんてどこにもありません。塗料がいい例です。塗料は大量に買うとベラボーに安い。そうそう、チャンソーオイルもそうでした。1斗缶で買ったら安いの何の。

塩ビ板を切るのには専用のカッターが便利です。オルファとかNTカッターなどのメーカー品でも500円から1,000円ほどで手に入ります。ダイソーにもあるらし。

保護紙でおおわれた塩ビ板を専用カッターで(切るというよりは)表面に傷をつけていきます。徐々に力を入れて、(1ミリ厚なら)3度目くらいで折り目がつくようになります。

折り目がつくくらいになったら、筆者は折って立てて、カッターナイフ(普通サイズ)で垂直に切り下ろすことにしています。こうすることで作業台に傷がつかず、正確に切り離すことができます。
ベニヤにしても塩ビ板にしても思いのサイズに切ったあとはエッジを紙やすりで整えます。

額の四隅(角)を接着剤でくっつけただけでは強度は不十分。それで筆者の額つくりの初期には、隅に釘を打ったり、木ネジを入れたり、コーナー金具を取りつけたりしたものです。
ちなみに、先に紹介した思い出の山登り写真の額(跳び箱の解体材の利用)はネジ留め、デルスの絵コンテの額はコーナー金具で処理しています。
けれどもコーナー処理でカッコいいのは何といってもカンザシ留め(正式には、「挽込み留め接ぎ」)です。カンザシは髪留めの簪、部材(チキリ。三角に入る形)が銀杏型の簪に似ていることからの名称でしょうか。それとも、額の隅を頭と髪、四角のチキリを簪に見立てたものでしょうか。

この技術を習得するまでには時間を要しました。つまり、それなりの治具を工夫してつくる必要があったからです。
下は丸ノコ盤にて、治具に額を抱かせてセットして、挽込み欠きを施しているところ。

これなら大きな額をつくるにしても簡単に挽込み欠きができます。先の例でいえば、茨木のり子の詩「六月」の大額もこの治具を用いてつくっています。
なぜ丸ノコ盤がいいかというと、丸ノコの刃厚が2.5ミリ、欠きに挿入するカンザシの部材(チキリ)のべニヤも2.5ミリだからです。ぴったりなのです。

額に挽込み欠きを施したもの。

欠きに接着剤を施してチキリを差し込んだもの。
この接着剤の塗布は赤城乳業の“ガリガリ君”を食べたあとの棒(笑い)を使っています。棒板の厚みが2.0ミリで、欠いた2.5ミリのすき間にちょうどよく入り込み、欠きの上面にも下面にも接着剤がほどよく載るのです。
これは大発見!(笑い)

そして今回パーツ同士の接着にもチキリの接着にも使ったのがフランクリン社(アメリカ)の“タイトボンドⅢ”というベージュ色の接着剤でした。従来のエルマジョン系の白いボンドとは違って材料への載り具合がよく、とても気に入りました。よい出会いでした。
評判が評判を呼んでいるのか、最近はホームセンターでも見かけるようになりました。

下はカンザシ留めを施して出来上がってからの微妙な厚さ調整、一般の木工作業ではあまりお目にかからないだろう、ドラムサンダーという機械を通しているところです。
上部にサンダーが巻きついているドラムがあってそれが高速で回転し、床が流れるように移動していくのです。この機械を通すことで、一律の厚みが得られます。
ドラムサンダーは自動カンナと違って木材の木口や節なども関係なく、しかも3ミリくらいの薄さまで対応するので繊細で抜群の仕事をしてくれます。我が工房の、自慢のマシンのひとつです。
これは、当クラフトの主製品のドアリラの盤面の薄さを出すために導入したものです。

ドラムサンダーは、バキュームもセットした大がかりな装置です。

実はこのあとがたいへん、木の表面を滑らかにするために、紙ヤスリの番目で粗目の#100、中目の#120、細目の#240の3種を使ってていねいにサンディングしました。これだけで2日を要したと思います。身体は粉まみれ、右腕が腱鞘炎です(笑い)。

できあがりは生地そのものでも味はあるなあとは思ったのですが、筆者の最後の仕上げへのまごころとして、ステン系(染みこみ)塗料で塗布しました。いわゆるオイルフィニッシュです。
今回使ったのは“ロハスオイル”というもので、食品衛生法にもクリアしている安全な塗料です。主成分は亜麻仁油と紅花油という表示があります。
布で摺り込んで、時間をおいてからからぶきをしました。さらに1日おいて、からぶきを重ねました。

裏の板押さえのための鉄トンボをつけ、吊り下げのための三角カンを取りつければ額の出来上がりです。

そうして額装が完成し、この(9月)7日に作者のヨシダさんと一緒に飾りつけを行ったというわけです。
ルーザの森クラフト展の会場の、我が家の廊下が様変わり、いい雰囲気の展示空間と相なったのです。

それにしてもヨシダさんの絵は心にしっかりと語りかけてきます。
けっして熟(こな)れているのではなく、達者というのではなく、常に心を無にして植物と向き合っていることが伝わってくるのです。
静謐な絵です。

こういう絵を飾らせてもらえる額の、幸せそうなこと。

そうして、大きなひと区切りがつきホッと一息。
展示会の開催日までの残された時間に、追い込みのプレッシャーを自らにかけている、今はそんなところです。

それじゃあ、また。次回はきっとそのうちです。
バイバイ!

 

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