森の小径森の生活

山菜/春の野に出でて

本日は、晴天の5月5日です。
日中はここ米沢で32℃、いやあ異様なほどの暑さです。
前回のsignal「春はこうして」は足早に過ぎゆく春をスケッチしましたが今回は雪国の春のめぐみ、山菜をテーマに綴ろうと思います。題して「山菜/春の野に出でて」。

春の野に出でて。

雪があたりに見当たらなくなった頃から、生活のリズムを整えると同時に体力づくりも兼ねて筆者の散歩がはじまります。だいたい5時過ぎに出て、6時前に帰るというパターンです。
戻って、自作の野草茶(茶外茶。クロモジ茶、ビワ茶、メグスリノキ茶など)をその日の気分でチョイスして淹れ、それから日記に前日の出来事と本日の行動の課題を記します。そして部屋の気温と湿度を記し、体温と血圧を測って、7時に朝食…、これが筆者の朝のはじまりのルーティンです。
で、その散歩は徐々に山からの恵みの収穫も兼ねるようになります。

春の野に出でて。
春の野に出でて、タラの芽
まず最初に野山に現れるのはタラの芽です。タラの芽はタラノキ(楤木/ウコギ科タラノキ属)の若い芽。
昨年、ここらではじめてタラの芽を採ったのは4月23日のこと、それが今年は何とも早い4月16日でした。
今年は春が例年にも増して早く訪れているけれどもタラの芽とて例外ではありませんでした。ということは、他の山菜も推して知るべし。

ふっくらとしたボリューム感、春を胚胎するとでも言ってよさそうなこの形、天ぷらにした時の食感と口に広がるほの甘さ…、タラの芽はやはり山菜の女王だと思います。

タラの芽は何といっても天ぷらですね。揚げたてに塩をパラパラとふって。
時に天ぷらそばとして、時に天丼として。

 

でも女王にも欠点はあるもので、タラの芽は使いで(利用)の幅があまりないのです。かつては煮ものにしたりおひたしにしたこともあったけど、モソモソして食感が悪く、おいしいとは思いませんでした。
それで今回はいろいろと思案して、相棒の提案はアヒージョ、筆者はグラタンを思いつき、これはどちらもバッチグーでした。これはよい発見をしたものです。

春の野に出でて。
春の野に出でて、コシアブラ(漉油/ウコギ科コシアブラ属)。
山菜の出る時期としては、タラの芽につづくのがコシアブラです。
コシアブラの普通の出は4月末のことなのに、今年の初物ははやりグンと早く、4月20日でした。

筆者たちが野に出るとはいっても、コシアブラの場合は徒歩30秒の敷地内ですがね(笑い)。
木の枝をひっかける棒があればとても重宝、とてもしなる枝をたぐり寄せてはコシアブラの若い葉を摘んでいきます。
相棒のヨーコさんが枝をたぐって左手に持っているコシアブラの束、これがこの木1本で優に採れる量です。ものの1分や2分でのことでしょう。

角棒を握りやすく削り、打ち込み式の引っかけフックを取りつけてつくった、タラの芽やコシアブラを採るための用具。

 

コシアブラと聞くとすぐに天ぷらを連想しがちですが、さにあらず、まずはおひたしです。
さっと湯がいて冷水にとって、しぼって、かつ節をかけて醤油で、またはそこにマヨネーズを添えていただく…、これがコシアブラへの礼儀、口にする時の王道です(笑い)。

コシアブラは今ではずいぶんとポピュラーになったもので、収穫の頃ともなれば道の駅などにも大量に並ぶようになります。
画像は(昨年の今頃の)道の駅たかはたにて。許可を得て撮影・掲載しています。

コシアブラの展開は一気です。
収穫可能な時期とすれば、せいぜい1週間。これを逃せば口にすることかないません。

コシアブラが終わりごろになると、山菜採りの多くは「上を向いて歩こう」から「下を向いて歩こう」に切り替わっていきます。ワラビ(蕨)やゼンマイ(薇)が出はじめるからです。でも、さにあらず(笑い)。
通としてはまだ、「上を向いて歩こう」を続けます。コシアブラに取って代わる木の芽(若葉)としてタカノツメ(鷹爪/ウコギ科タカノツメ属)があるからです。
木の幹が細いままに天を指して伸びるタカノツメの樹形はコシアブラにそっくり、葉が出てこなければちょっとやそっとでは区別がつかないほどです。
タカノツメはコシアブラよりもキドさ(苦み、えぐみ)があり、おひたしには当然しますが、刻んで味醤油に漬けて即席の混ぜご飯もよし、アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノのパセリの代わりにもよし、です。

なぜに鷹の爪などという唐辛子のような名があるのかというと、冬芽の形が、鷹の鋭い爪に似ているからです。
またタカノツメは晩秋の紅葉が見事、独特なクリームイエローでその身を飾ります。 

春の野に出でて、ハリギリ(針桐/ウコギ科ハリギリ属)。
ハリギリの幼木には鋭いトゲがあって、それはタラノキの比ではありません。刺さろうものなら強烈な痛さが襲います。
この木は大木になり成長するにつれてトゲがなくなっていくのですが、幼木のトゲは動物から若い身を防御する意味があるのでしょうか。

ハリギリの収穫時期としてはだいたいコシアブラとかぶっています。
キドさはコシアブラよりあってタカノツメより少ないというところでしょうか。
利用はやはり、おひたしに天ぷらです。

春の野に出でて。

シドケ(モミジガサ/紅葉傘/キク科コウモリソウ属)。
コゴミもそうだけど、シドケを標準和名のモミジガサと呼ぶひとはあまりいないのでは。ふんわりやわらかで、食するにうまい感覚がモミジガサという語感からは遠い気がします。ここはやはりシドケでしょう。
シドケは、ここルーザの森には数が少なく、筆者も株をしっかり残しつつ遠慮しいしい持ち帰ります。
利用はおひたしです。
トリアシ(トアリアシショウマ/鳥足升麻/ユキノシタ科チダケザシ属)。
全体に毛が生え、若い芽はなるほど鳥の足に似ています。
利用はおひたしですが、食感はコリコリしておいしいです。

イワダラ(ヤマブキショウマ/山吹升麻/バラ科ヤマブキショウマ属)。
ヤマブキショウマのヤマブキは、葉が今が黄色な花を咲かす落葉低木のヤマブキ(山吹)の葉に似ていることからきています。ただ、この地方で言い広く通用しているイワダラの名の謂われはどうも分かりません。岩場の楤ではあまりにもそぐいませんし。
よくトリアシと混生していますし、今回採った場所も同様でした。
トリアシとちがってこちらイワダラの茎には毛がありません。
利用はおひたしですが、トリアシ同様、食感はコリコリしておいしいです。
こうしてよく比較対照するほどにこの両者は同じ場面で登場します。ゆえにでしょう、植物として種(しゅ)がまったくちがうのに「トリアシ・イワダラ」とひと括りにされるのは。

 

アケビの萌え。正確にはミツバアケビ(三葉木通/アケビ科アケビ属)の萌えです。
下の、ツンと伸びたものが萌え。


このアケビの萌えを集めるのはとてもたいへん、筆者はこの萌え採りのためだけに約30キロ先まで遠征します。
こんなダム湖を眼下にしながらの採取、気持ちがいいものです。

このアケビの萌えは、新潟県は特に魚沼地方では「木の芽」と言うのだそうで(木の芽と言えばアケビの萌えを指す)、異様な人気を博する山菜です。
通販では100グラム1,750円という設定もあり、高値で取引きされてもいるようです。
利用はほぼ一択で、卵とき(溶き、ときほぐし)。といた卵に醤油を差し、そこに茹でて粗く刻んだアケビの萌えを入れて混ぜれば出来上がりの超簡単。そのまま食しても、それを白いご飯にのっけてもどちらもOKです。
最初、この情報から筆者がアケビの萌えを採りはじめたのはもう10数年も前のことですが、やはり魚沼びとの舌よろしく、うまい。ウマイのなんのって! はじめて食べたときは衝撃的でしたね(笑い)。
この木の芽の時期、魚沼のスーパーマーケットでは卵が品薄になってしまうとのことです(笑い)。

春の野に出でて。
春の野に出でて、コゴミ(屈。クサソテツ/草蘇鉄/コウヤワラビ科クサソテツ属)。

下はアブラコゴミ(油屈。キヨタキシダ/清滝羊歯/イワデンダ科ノコギリシダ属)。
アブラコゴミはコゴミの名があるとはいえコゴミとはまったく種のちがう植物。アブラと言い慣わされるよう、同じおひたしにしてもこちらの方が甘い感じがします。
この山菜が道の駅などの店頭に並ぶというのは珍しく、それだけ収量が限られるということでしょう。第一、コゴミのように株立ちはせず、1本1本が独立しているのです。ゆえに、イッポンコゴミなどとも言ったりします。
コゴミやアブラコゴミは例年なら4月28日ころに出はじめるもの、それで様子見に22日に足を運んだのですが、もはや遅しという感じでした。もうピークは過ぎていました。判断が甘かったです(-_-;)。

コゴミはご覧の通りの展開、山菜採りにしたら時期を外したという意味でちょっとくやしいですね。

おくてのものをかき集めて、それでも下くらいの収量は確保しました。
こんな量をふたり住まいの我が家で消費できるものではなく、多くは友人、知人、知り合いに分け、一部遠くのお世話になっている方に発送したりします。
塩蔵保存をしたこともあったのですが、どうも食感が極端に落ちるようだし。茹でてからの乾燥品もいまいちです。

 

コゴミのおひたしはおいしいです。パスタに入れてよし、サラダによし、汁物OK、山菜界の万能選手がコゴミです。
都会でスーパーに売っているパックづめのコゴミは5、6本入って300円とか、50グラムで600円とかの値段にはビックリ仰天、こちらはそんなものは1秒でゲットです(笑い)。

下は、さまざまな山菜をおひたしにしたもの。筆者たちは単品ではなく、さまざまなものを合わせていただくことが多くなります。
大きい容器の方の左下から時計回りで(この写真は2:1の比率でトリミングしていますので、クリックして拡大してご覧になることをおすすめします。表示のサムネイル判では大切な部分が消えています)コシアブラ、左上で大きく占めるのはイワダラ、その右の赤味を帯びたものがアブラコゴミ、その右のわずかなものがシドケ、下に行ってハリギリ、下段中央がトリアシです。そして右わきのタッパーにはたくさんのタカノツメが入っています。
こうなると、山菜三昧の景色ですね。まさに山菜スターの勢ぞろい、オールキャストです。
これらはおひたし用ですが、これらを取り混ぜて汁の具ともしますが、こうすれば本格的な山菜汁となります。
山菜汁にはその他として、ウド(独活)やアザミ(薊)を入れるときもあります。

そしてワラビ(蕨/コバノイシカグマ科ワラビ属)が本格化してきたのがこれも何とも早い4月の28日のことでした。
この日はけっこうな量が入る肩掛けの山菜バッグ(リサイクルショップで100円で手に入れたもの)にはみ出すほどの収量でした。気温が例年より明らかに高く推移していることからか、異様ともいえる出方です。

あく抜きは薪ストーブから回収した灰を使います。当地方のスーパーマーケットではこの灰さえ売っています。同じあく抜きをするにしても、重曹と灰ではちがいがあるのかどうか。
定番のワラビのおひたし、我が家では千切りの生姜と唐辛子の輪切り少々を乗せ、味醤油をかけて食しています。
筆者は、味噌汁の具としてのワラビも好きです。最後の晩餐にもワラビの味噌汁は食したいほどです(笑い)。

もうワラビの季節になっているのに、ワラビとフキ(蕗)の塩蔵物があったと思い出し、漬け樽から取り出して天日干しをすることとしました。

塩蔵も塩蔵品の乾燥も元をたどれば、冬分にせめてもの食糧を得ようとした先人たちの知恵です。
貧しい雪国のニンゲンは冬を生き延びようとさまざまに工夫してきたのは確か、その代表的な保存法が塩蔵であり乾燥であり、塩蔵したものの乾燥でした。
物流が発達した現在は雪国とて自由にいつでも何でも手に入るようになっていますが、それでもこれらの保存法が生きて引き継がれているのはうれしいことです。
塩蔵品と乾燥品、それから塩蔵品をさらに乾燥させた物は農協の直売所や道の駅などに並びます。

いつだったか都会に住む知人に塩蔵キノコを送ったことがありました。「塩抜きをして召し上がれ」と添えて。
ところがもらった電話で返ってきた言葉は「塩抜きってどうするんですか」というものでした。80歳を超えたご婦人がそうおっしゃる。
そこでハッとしました。
都会って、保存する必要がないんだと。たとえそれが極端な物不足にあえいだであろう戦中や戦後の混乱期といえどもです。そして(金さえあれば)何でも手に入る現代ならなおのこと。

カタクリさえ干して保存して食べていたわけです。今もその味が引き継がれています。
自分も食したことはあるのだけれど、あの可憐なカタクリを食べるというのはちょっと気が引けます(-_-;)。

下の乾燥した「こめごめ」というのはミツバウツギ(三葉空木)のこと。
高畠と米沢は隣同士、でもミツバウツギは高畠にあって米沢にはないのです。不思議なことですがそこは太平洋関東区気候と日本海側気候のせめぎ合いの場所、その境界が高畠と米沢ということです。
高畠では昔からなじみの食材で、その煮物は冠婚葬祭には必ず提供されるとのこと。

ここで少しばかりのコーヒーブレイク。

youtubeでアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノの研究をしていたら(笑い)、ある有名店のシェフが、自分はパスタを10パーセントの岩塩で茹でると言っていたので、岩塩を買うことにしました。オレって、単純だなあ(笑い)。
ところが届いた岩塩はひとつが50~100グラムほどの大きなもの、これを使うには砕く以外にはありません。
ではどうするか。


飛び散らないよう布ででもくるんでハンマーで叩き割るかとも思ったのですが、もっとスマートにできないかと考えたのが不要になっているボール盤に付属するバイスを利用することでした。
ただ挟みつける部分が小さいので厚くて堅牢な鉄板を切って穴を開け、それを両面に取りつけました。また片方の面には後ろからボルトを差しこんで、岩塩にピンポイントで直に力が伝わるようにしました。
バイスの下の支え台には大きな穴を開けたので、小さく砕かれたものは台の下に差し入れたバットで回収できます。
ご覧あれ、この秀逸な岩塩砕き器!

これでまたアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノの腕をグンと上げてしまいそう(笑い)。

ベーコンとかチーズとか魚とか冬のうちにつくった燻製品がなくなってきたので、気温が上がらないうちにと、夏が来る前の最後の燻製をしました。
もう何度も繰り返してやっていることなので、できあがりもほぼ満足。塩サバ(鯖)、塩シャケ(鮭)、それに塩麹で下味をつけた鶏のささ身を作業で出た赤スモモのチップで燻しました。出来上がりはご覧の通り。
燻製は風乾がポイント、少々乾かし過ぎの感じは改善の余地ありではありますが。

もらったオイル缶ふたつでつくった燻製器。

よい煙が出ています。

チップの補給のため、上にのせた缶をわきに置いたところ。

燻製品の完成です。
煙を掛けるのは独特の風味を出すとともに表面の殺菌をするということでもあります。これらは冷蔵庫でかなり長く保存できるでしょうか。

春の野に出でて。
春の野に出でて、ゼンマイ(薇/ゼンマイ科ゼンマイ属)。
どうのこうの言っても、山菜の王者は昔からゼンマイと決まっています。
その風味、香り、匂い、食感…、そのどれをとってもこれほどに完成された食材はあろうかというぐらいなのです。

雪国、ことここ米沢にあっては食材としてのゼンマイは欠かすことができません。
店頭では上物100グラムで3,000円ほどもしますが、多くの家では購入したり家によっては我が家のように拵(こさ)えたりして備蓄しているのものなのです。
当地方ではゼンマイを使った煮物は盆や正月や祝い事のハレの日の席では必ずと言っていいほどに供されるもので、それほどに大切に守られてきた伝統の料理なのです。

下は、筆者たちのゼンマイの採り場。清流が流れているその山肌を歩き回ります。
隣接する杉林にもよいものが出ます。平坦なところもありますが、勾配が急なところも多いです。
ゼンマイ採りは運動量が多いし、決して容易なものではなく、素人がすぐできるというものではありません。

ゼンマイの採り場には家から歩いて10分もすれば着きます。その間に目にする植物のいくつか。

オヤマボクチ(雄山火口/キク科ヤマボクチ属)の若葉。
やがてアザミのような花をつけます。
写真のような若葉は、地方によっては餅の副原料やそばのつなぎに、根は「やまごぼう」として漬物にされるよう、この植物はさまざまに有用なのです。
かつて磐梯山に登った時に、袋いっぱいに採取しているひとを見かけたっけ。
ただし、当山形県の米沢を含む置賜(おきたま、おいたま)地方にその食文化はありません。

イワガラミ(岩絡/アジサイ科アジサイ属)の若葉。
岩に絡みつくのでこの名がありますが、樹木にも同様です。
同属のツルアジサイ(蔓紫陽花)にも似て、きれいな白い花をつけます。
この若葉は山菜として利用でき、これを噛んでみるとまるでキュウリの味がするものです。
筆者はまだ使ったことはないのですが、きっとサラダに合いそうです。

レンゲツツジ(蓮華躑躅/ツツジ科ツツジ属)。
そうです、そうです、ゼンマイが出る頃に咲く、指標植物のひとつがこのレンゲツツジです。
レンゲツツジと言えば、近くでは磐梯朝日国立公園の雄国沼(おぐにぬま)の群生地が有名だけど、我がルーザの森もどうしてどうして、です。

キバナイカリソウ(黄花錨草/メギ科イカリソウ属)。
太平洋側にはイカリソウ、日本海側はキバナイカリソウという棲み分けがあるようです。
若い花と葉これ自体が山菜ではありますが、筆者はまだ利用したことはありません。

イワカガミ(岩鏡/イワウメ科イワカガミ属)。
イワカガミというのは照り映える硬質の葉が鏡のようだということからの命名ですが、このうつくしい花は名前のどこにもないとお怒りの専門家の言い分を読んだこともあります。なるほどです、このラッパ型の、先の切り刻まれたフリルのうつむく花姿の愛らしさ!
標高を(ここのゼンマイ場では350メートルから)400メートルくらいにまで上げないと出会えない花ですが、この花が出ているあたりに上物のゼンマイが出ているのです。
なお、ルーザの森にはより低地に、近縁種のヒメイワカガミ(姫岩鏡)も自生しています。こちらの花は純白です。

そうして、ゼンマイ、ゼンマイ。
筆者はゼンマイを採っている時にこの上ない幸福を感じます。

日がさんさんと降りそそぐ林床に、近くの清流からはまるで野鳥ともまごうカジカガエル(河鹿蛙)の声が響いてきます。 

ツツドリ(筒鳥)が、その名が示す通り筒を吹いているようにのどかに啼き、ミソサザイ(鷦鷯)やオオルリ(大瑠璃)の得も言われぬ美声が響く中にゼンマイを折り取るのです。

そうして1時間2時間していつものように辿りつく、笊籬淵。この水の色、この透明感。
ここでのどを潤おして家路につきます。

笊籬淵から見上げれば、青空に若葉。

帰り着いて、工房でひと息。
この時期、木工のための工房は山菜の処理場になります。
写真は筆者ひとりの収穫のときのものですが、重量はほぼ10キログラムでした。これから堅い茎を折り取れば9キロに減り、完全に乾かせばこれで800グラム強にしかなりません。

 

年季の入った時計型薪ストーブで火を熾し、下処理したゼンマイを茹で上げます。
経験からして、熱湯に入れてから引き揚げるまでは16分がちょうどよいような。 

ちょうどよい具合に茹で上がったゼンマイ。

干場に持っていき、強い天日で乾かします。
乾き具合によって3度、4度と揉んで、徐々に水分を出していきます。

そうして、やっとこさと干しゼンマイの完成です。

 

と口では簡単に説明していますが、これはゼンマイを採ったあとに好天が続いた場合のことで、これが天候不順となればさあ大変です。このためにせっかくのゼンマイを腐らせてしまった苦い経験もあります。
それで今はそのようなときは、仕事部屋にもしているヒュッテを乾燥部屋にして薪ストーブをボンボンと焚いて急場をしのぎます。
お天道様のありがたさをこれほど実感できる作業を他に知りません。

以下は、あとからのつけたしです。
連休最終日に遠方よりお客様が見えて、焚火のかたわらで仲間とともに。

テーブルに並んだのはそれぞれが持ち寄った逸品、まずは山形を代表する郷土料理の芋煮…、

山菜はタラの芽、コシアブラの天ぷら…、

山菜はウルイ(オオバギボウシ/大葉擬宝珠/キジカクシ科ギボウシ属)の胡麻ドレッシング和え…、

そして米沢を代表する伝承郷土料理の冷や汁(ひやしる)。筆者作。
当地方で冷や汁は盆や正月、祝い事のいわゆるハレの日に(ゼンマイ煮とともに)欠かせない一品、これは名からイメージされる汁物ではなく、野菜のひたしものです。
この料理のポイントは、乾燥貝柱と戻しシイタケで出汁をとること。ここに定番として、打ち豆、凍みコンニャクが入り、あとは季節ごとに出回る新鮮な材料を使いますが今回は時節柄山菜をメインにしています。
今回の具としては、コゴミ、コシアブラ、タカノツメ、ウド、タチシオデ(立牛尾菜/サルトリイバラ科シオデ属)、それにいただきもののアスパラ、ニンジン、ちくわを使っています。

焚火をしての野外の夕餉はよい趣き、よい風情です。

笊籬橋からの、現在の溪の風景。もうこんなに緑がいっぱい、ちょうど今アオダモ(青梻/モクセイ科トリネコ属)の白い花が咲いています。
季節はずいぶんと足早です。

そして現在の我が家。うつくしい季節となりました。

春の野に出でて、山菜採り…、この季節ももうすぐ終わりとなります。
そうすると筆者は、今度は、古い薪小屋の解体とひき続く新薪小屋の建設に取りかかります。
その合間合間に本来の工房の仕事をし、それからそれからまたして合間合間に山に登ることになります。
「早く来い! 早く来い!」と、山が大声で呼んでいるのですよ(笑い)。

それじゃあ、また。
バイバイ!

 

※本文に割り込んでいる写真はサムネイル判で表示されています。これは本来のタテヨコの比から左右または上下が切られている状態です。写真はクリックすると拡大し、本来の比の画像が得られます。また、下にあるスライドショー表示をさらにクリックすると写真が順次移りかわります。