時は11月初旬、高い山ではもう、枯れ色からさらに色味が抜けて寒々とした風景のはず。
雪も降っただろうし、雪氷が矮小(わいしょう)化した木々にまとわりついて“エビの尻尾”(エビの天ぷらの尻尾の衣のよう)もできていることでしょう。
高山植物たちはいち早く長い長い眠りについたのではないでしょうか。
ルーザの森は今、紅葉のピークを少し過ぎたあたり、まわりはまだあざやかな彩りにあふれています。美しいです。
もう少しすれば全方位の木々はただ一心に葉を降らせることでしょう。
やがて来る寒くてつらい無彩色の季節の前に彩りがあるというのは幸いなことです。
この彩りはさながら身体をあたためるカイロのよう、それをふところに入れてひとびとは冬を迎えるのですから。こころに彩りをためてつらさに抗(あらが)うのです。
下は、隣接するコナラ(小楢)の林。
林にあるイタヤカエデ(板屋楓/ムクロジ科カエデ属)の美しい黄色。
筆者はこの黄色がとても好きです。
敷地のヤマウルシ(山漆/ウルシ科ウルシ属)の紅葉。この目の覚めるような赤はすばらしいです。
「この世に漆のなかりせば」としばし思わされます。この世がそうならばそれはきっとつまらなくさびしいことでしょう。
コブシ(辛夷)にそっくりな白い花をつけるタムシバ(田虫葉/モクレン科モクレン属)の葉も黄色味がかって。
で、キノコ採り(マツタケ採り)が来なくなったので(今年のマツタケはここルーザの森に限っていえばさっぱりだったよう)、ひさしぶりに近くの鑑山(かがみやま)に登ってきました。
そしてキノコ採りが無造作に捨てていったゴミ(弁当のプラ容器、おにぎりのフィルム、たばこの吸い殻、ペットボトル等々)を拾い集めました。
なんで自分のしていることが悪いことだと気づかないんだろうと切に思います。自分の領分の外は汚しても構わないとするならとんでもないこと、本当に嘆かわしいことです。
筆者は自分の住むフィールドガーデンが汚れているのはとてもいやなので、(イタチごっこのようだけど)拾い集めては我が家のゴミと一緒に処分しています。
もうひとつのめあてはナツハゼ(夏櫨/ツツジ科スノキ属)の実です。キノコ採りが引ける頃がちょうど採り頃でもあるのです。
ナツハゼも西吾妻の高山で目にしたいくつものハックルベリー(ツツジ科スノキ属の総称)の仲間、野生のブルーベリーの1種です。
これを摘んで、果実酒に漬け込むのがこの時期の習(なら)いなのです。1年したら、美しいガーネット色のとてもおいしいお酒ができます。
筆者に言わせると、数ある果実酒の中でもナツハゼ酒はキング・オブ・キングスです。
*
雪が近くなって、そろそろ冬支度。
ここらの豪雪地帯では除雪機は欠かせないもの、その準備もOKです。
我が家の現在の除雪機は1993年に引っ越してきて以来3代(台)目になります。
現在はホンダ社製13馬力のものを使用していますが、値段は現在の相場で90万円近くします。除雪機とは高価なものです。でも背に腹は代えられません。
下は今年2月の様子。雪は、自然積雪深で最大240センチほどに達したのでした。
で、購入先の(地元米沢市の)小さな農林機具店“むらやま”に保守点検をお願いし、それが先日戻ってきました。
取りたてて不具合とか調子の悪さはないのですが、使いはじめ前に専門の技術でみてもらうのは心強いものです。自分なりの保守点検もいいけど、シーズン途中に故障ともなれば目も当てられなくなりますので。
点検明細によれば、バッテリー充電、エンジンオイル交換、オーガギヤオイル注入、ゼネレータベルト張り等々の項目が記載されていました。
これでは、自分でできる範囲を超えています。特に、ゼネレータベルト張りは(やり方を教えてもらったのだけれど)感覚がつかめません。
で何より、この店を営む高齢のご夫妻が気さくでとてもいい方で、懇切ていねいなのです。
愛用のチェンソー(ゼノアのプロ仕様)もここから購入したのですが、指導よろしく故障知らずです。
除雪機とか刈払機とかチェンソーとかのマシンは、値段につられてホームセンターで買ってはいけないですね(実際は値段もそうは変わるものではありません)。これは経験から得た大きな教訓です。
マシンというのは使い手の腕しだいでいかようにも動くわけで(腕によっては動かないわけで)、ホームセンターでは使い手に寄りそっての指導はなかなかしてくれないものです。
第一、ストーブのまわりでお茶をはさんで世間話なんてないでしょうし(笑い)。
“むらやま”に通うようになったのは、懇意の伐採業者が「店というのは(あるじの)顔(の良し悪し)だ。あの店のオヤジ(そして夫人)はいい顔をしている」と言って勧めてくれたからです。
それはけだし名言、けだし正解でした。
で、除雪機を店に運ぶために筆者は事前にラダーレールを借りに行き、それを持って帰って除雪機を軽トラに載せて店まで運ぶ…、点検作業が済んだら家まで除雪機を戻してまたラダーレールを返しに行く…、それをあるじがじれったく思ったものか不憫(ふびん)とでも思ったものか、「(自分が伐採して製材して取っていた)板をやる。これから使う当てもないし、いらない。これで運んでいけ」というのです。
ここで、ラダーレール。
ラダーレールとは一般にはなかなか耳にしない言葉だと思いますが、普通は“ブリッジ”と呼ばれているものです。バイクや農機具などを地面からトラックに積み込むための渡しの板のことを指します。
でも普通に使われるとはいえブリッジ=橋では意味が違うと思います。
ブリッジというのは川が流れていたりして分断された両側のほぼ同じ高さの地点同士をつなぐものです。こちらは傾斜のあるところを上り下りするための板です。
これは日本語の貧困の一例、筆者はこういうところに引っかかりを覚えてしまいます。
で、ラダーレールのラダー(ladder)ははしご(梯子)またははしご状のもの、つまりラダーレールとははしご状の軌道(きどう)という意味です。
市販される製品はほとんどがアルミ製で、重量を軽くするのと摩擦をつける意味でだいたいがところどころ隙間が空いていて、つまりははしごのようになっています。こちらの方がまだましに指し示していると思います。
単純に“渡し板”あるいは“渡し”でいいようなものではありますが、“渡し”なら“矢切の渡し”になりますし(笑い)。
あるじからはこんな立派な板をいただきました。
聞けば、材はヒバ(檜葉/ヒノキ科アスナロ属。アスナロの変種のヒノキアスナロ)ということです。板厚は45ミリほど、長さは230センチほどもあります。
これをレールにするのはもったいないこと。これはもっと別のものに、有効に生かせるはず。
で、手持ちの材料でレールを作ろうと思い立ちました。
アルミ製ラダーレールは耐重量500キロ程度のものは30,000円ほどもします。高価なのです。それなら、かねてからほしいと思っていたのでこの機会にと。
軽トラックでの遠隔地への移動だけでなく、段差があって乗り越えることができない除雪箇所にも対応可能で、十分に利用価値がありそうですので。
さっそく、ストックしてある3寸5分(105ミリ)角の古材を3本引っ張り出して、それを半分に割りました。
こういう場合は丸ノコ盤ではなく電動丸ノコを使い、オモテからとウラから(マシンへの負荷を軽減するために)それぞれ約25ミリと約55ミリの深さの刃を2段階で入れますので、1本の角材を挽き割るのに4回の動作が必要になります。それを3本について行いました。
でもこれはガイドをつけての作業なので比較的楽な作業ではあります。
挽き割ったものは自動カンナで厚さを均一に整え、3枚を並べました。
これをボルトを使って接続することとしました。
板厚約48ミリ、幅30センチで長さ210センチは、レールの用途として十分なつくりだと思います。
幅が約10センチの板に穴を開け、それを3枚つなげて約30センチ幅の板にするというのはきわめてむずかしい作業です。これは本職の大工でも苦労すると思います。
ボルトの径は10.5ミリ、それで穴は“遊び”を考慮して径12ミリということにしました。
直角に穴を開けるために筆者が考えたのは、まずオモテとウラに正確な位置を記し、ドリルガイドを固定してドリルを回すことでした(ボール盤を使う手もありますが、むずかしさはあまり変わらないと思います)。
でもいくら正確を期してもオモテとウラでピタッと貫通することは叶いません。
よって、いくらかでも誤差を少なく食い止める努力をするのがせいぜい、そしてようやく3枚×2レールで計6枚、1枚に3カ所で計18カ所の穴を開けました。
つなぎのボルトは、手持ちのアンカーボルト(土台などを固定するためにコンクリートに埋め込むためのボルト)を使うことにしました。ちょっと見通しなく買ってしまい、余っていたものです。
下は、アンカーボルトを板幅の長さに切断しているところ。
切断してネジ山がなくなった部分に、ダイスによって新たにネジ山(雄ネジ)を切りました。
鉄の棒にボルトのネジ山が切れるなんて、ダイスってすごい道具だとつくづく感心してしまいます。
出来たネジ山。
板をアンカーボルトで3枚連結したところ。
座金を入れ、ボルトにナットを回し入れて締めつけたところ。
少し段差が出たけど、これぐらいは妥協ですね。
端の段差については、クランプを使って矯正しました。
ここで穴径の“遊び”が生きてきます。板のズレをここで吸収してくれるのです。
アンカーボルトによるつなぎには接着剤を入れていますので、このクランプによる矯正は効果的だと思います。
連結して、ほぼ出来上がったレール(渡し板)を仮置きしてみました。
ここで、引っかけ金具の位置とスムーズな傾斜のための先端の削り具合(角落とし)を確認しました。
削り部分はガイド線にしたがってノミで粗く彫り、仕上げは電動カンナで行いました。
電動カンナの動作は(手カンナとちがって)板目も木口も関係ありません。連結の板に電動カンナを横に滑らせて。
手持ちのスチールの40ミリ角パイプがあったので、切断砥石を使って割りました。
割って、長さ250ミリのL型鋼をふたつつくりました。
L型鋼のバリ(出っ張りやギザギザ、返り)取りが少々やっかいでした。
L型鋼を連結した3枚の板に1枚につき2カ所、計6カ所のネジで固定しました。
これが軽トラのアオリ(荷台の後方の壁板)を倒したところの引っかけになります。
つくったL型鋼で軽トラのアオリを傷つけたくないと思って、手持ちの硬いフェルト状のボックスカーペットの切れ端を接着しました。
この多用途接着剤は美術教室を開いている友人に教えてもらったものですが、金属にボックスカーペット(ポリエステル素材?)でも大丈夫でした。
この接着剤は今までの常識を打ち破る画期的なものです。なにせ、木・革・布・紙はもちろん、片方なら塩ビでも金属でもたとえ石でも大丈夫というのですから。まったく素晴らしい。
従来の木工用ボンドは成分が酢酸ビニル樹脂なのに対して、こちらはエチレンという成分がプラスされているようです。
クランプをたくさん使ってL型鋼にボックスカーペットを圧着しているところ。
L型鋼の覆いの完成です。
L型鋼に覆いをつけてこれで完成と思ったのですが、雨にも雪にも強く、防腐防虫効果がある塗料が残っていたのでそれを全面に塗って、2日間の十分な乾燥時間を取りました。
今度こそ完成です。
このレールはひとつで18キロありました。ふたつで計36キロということになります。
除雪機の重量は250キロです(ちなみに軽トラの重量は750キロ)。これを動かしてその重さに耐えるにはこれぐらいの重量感のあるレールである必要があります。
いよいよテストです。
保守点検から戻ってきた除雪機を格納庫(リス小屋)から出します。
緊張の(笑い)踏み込みです。
ほとんどたわむことなくスムーズな移動ができました。
これで除雪機の遠方への移動はもとより、敷地内での段差のある箇所の除雪も可能となりました。
めでたしめでたし、です(笑い)。
またひとつ、有意義な仕事をして満足です。
このレール、不要な夏場はベンチの天板にもいいかもしれないとイメージはさらに膨らんできました。
*
ルーザの森のビューポイントの笊籬(ざる)橋からの、笊籬溪(ざるだに)の風景の現在。
山菜の1種でもあるタカノツメ(鷹爪/ウコギ科タカノツメ属)の冴えたクリームイエロー(右側の上下の黄色)があざやかです。
笊籬溪に流れ落ちる滝の上部の笊籬沼。
静謐(せいひつ)な晩秋の時間が横たわっていました。
我が家のヤマモミジ(山紅葉/ムクロジ科カエデ属)。
初夏にマイマイガ(舞舞蛾)の幼虫がすべての葉を食い尽くしたというのに葉は見事に復活し、今は今までにないくらいの(移住して29年で最高の)あざやかな彩りを見せているわけで。
植物が内部に持っている生命力のすごさを教えられます。
そしてこの秋にさらに彩りを加えているのは、あたらしいいのちが我が家にやってきたこと、いわば、“こんにちは赤ちゃん”です。
いたいけな赤ちゃんは今、アオゲラ(緑啄木鳥)と張り合うように泣き(鳴き)かわしているかのようであり。その声が森に響くさまは感動的でさえあり。
世の中はどうにも不穏当だけど、森は今、冬を前にした静かな時間におおわれています。
もうすぐ雪がきます。
筆者は今、この森に住まうことの幸いを思っています。
それでは、本日はこのへんで。
バイバイ!
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