下は、筆者のこのところの日々の作業。このことについてはいずれまとめてお伝えしようと思うけど、これは、もらった高畠石(凝灰岩)をディスクグラインダーで切れ目を入れているところ。
切れ目を入れたあとにレンガ用タガネ(チゼル)で叩いてより小さなブロックへとしていきます。建物の基礎を作るべく、そのパーツを作っているのです。
すぐに全身粉まみれ、泥まみれ。何も、買えばいいものを!(笑い)。
日々こんなことをしているものだから神経すり減り疲労もたまり、これではいかんと折を見て歩くようにしています。暮らしのアクセントです。何より腰痛持ちには歩くのが一番でもあり。ついでに、春をポッケに。
以下は、まだ本格的とは言えない春のいくつかをポッケに。この4月4日から9日にかけての蒐集物。
下は、鑑山(かがみやま)から見たルーザの森。左下に赤い屋根の我が家、斜め上方に兜山(かぶとやま、1,199メートル)、その右に白い飯森山(いいもりやま、1,596メートル)。
さわやかな朝の飯森山。
相棒のヨーコさんは望遠鏡で。
今回はほぼ相棒が拾った鑑山のゴミ。こうして折にふれふたりで鑑山の美化に努めているのです。
それにしても、マツタケ採りの連中ってひどいね。マツタケを持ち帰るのと引き換えに飲み食いしたゴミを置いていくことの無神経さ。
それからこのゴミの大方は麓の駐車スペースのもので、わざわざここに町場からゴミを持ち込んで捨てていく輩がいることも確か。
こういう不届き者を抱え込んでの世界です。これもひとつの、日本の民度の表れでもある。
山を下りると、キブシ(木五倍子、キブシ科キブシ属)が満開になっていました。
日はあらたまって、ここより東方、便宜上“東山”と呼んでいるゼンマイの採り場近くに足を運んでみました。約10分少々のところ、その水場。
清冽な水をすくって喉を潤して。とてもおいしいです。
この水はすぐに天王川の流れとなり、それは米沢の市中で松川と合流し、1級河川の最上川となってやがて酒田の海に注がれます。
降った雪の一片や雨の一滴が集まって流れとなって海に至る……、海の水は蒸散してやがて雪や雨となって地表を湿らす……、このくりかえしの中に人々の暮らしが成り立っているわけですよね。
ヒトは、水を大切にしているだろうか。水に敬意をはらっているだろうか。
清冽な水のほとばしり、春のほとばしり。
水場の少し下流にある名もない淵です。
ここは筆者の聖地。ここに何度来ただろう、これから何度訪れるだろう。どんな唱えごとより、どんな聖人の言葉よりもこの風景、この水の風景は筆者の拠りどころとしてもよいのです。
夏には夏の、秋には秋の、冬には冬の、そして春には春の、声ならぬ声を発する静謐な淵。
淵からの帰り、家から150メートルと離れていない場所で、ツキノワグマの大量の糞を見ました。
ここ1週間から10日ぐらいの時間の経過のものと思います。
これからしても、この暖かさゆえ冬眠からはずいぶん早くに覚めて(それより何より、冬眠などできたものか)、今はもう活発に動き回っているということでしょう。
興味深かったのはその内容物です。昨秋に食べたものも含まれているようで、ガマズミと思しき果実の種、タヌキと思しき獣の毛、それから何とプラスチック類も見られました。
動きの鈍い獣も襲ったよう。餌が不足だったのだろう、手あたり次第の摂食活動をしているようです。
しかし、海洋で“クジラからプラスチック”が騒がれているけれど、ツキノワグマからも、とはね。これ、すべて人間が生み出したものですよね。罪深いことです。
これからクマの糞は、黒から緑色に変化していきます。大好物の柔らかな山菜が出るから。
もうそちこちにショウジョウバカマ(猩々袴、メランチウム科ショウジョウバカマ属)が咲くようになりました。
相棒は福島県は県北の出身だけれど、この花を“雨降り花”と言っていたという。これはこの当地・米沢の市中でも聞いたことがあるのだけれど、なぜなんだろう、花びらのとがりや長い雄蕊雌蕊の姿が雨の景色に似るから?
下は、タネツケバナ(種漬花、アブラナ科タネツケバナ属)。
アブラナ科の特徴である4枚の花弁が十字形を描いて、それゆえにアブラナ科をキリスト教と結びつける向きもあり。
苗床を作る準備の種籾を水に浸ける頃に咲くという命名説があります。
アイヌでは、シペキナ(鮭の草)の名で鮭料理の香辛料にされたという。
ハコベ(繁縷、ナデシコ科ハコベ属)。
春の七草のひとつ。地味ながら、よくよく見ると10枚の花びらが美しくもあり。
オオイヌノフグリ(大犬陰嚢、オオバコ科クワガタソウ属)。
この美しいコバルトブルーの春を象徴する花を、“犬のキン〇マ”とはすごい発想です。花後の実が、犬のバックから見えるキン〇マに似ているからとか。マキノ君*たら!(笑い)。ったく!(笑い)
エゾエンゴサク(蝦夷延胡索、ケシ科キケマン属)。
みちのくの春の野山を代表する美しい花です。群生が見事です。分布は東北と北海道とのこと。
一般には聞きなれない“エンゴサク”は、この種(しゅ)の塊茎を生薬にしたものから、という。
春の真っ先に咲く花のひとつがキクザキイチゲ(菊咲一華、キンポウゲ科イチリンソウ属)。
日をいっぱいに浴びてうれしそうです。この花の群生地は雪が降ったように白くなり、その景色たるや圧巻です。
これもキクザキイチゲだけれど、特別にルリイチゲ(瑠璃一華)とも。
春にこの瑠璃色は素敵です。いろんな色味の具合のルリイチゲがあります。
カタクリ(片栗、ユリ科カタクリ属)も一輪、二輪と。
このうつむき加減にして花びらを反り返らせる姿は特徴的ですよね。春の妖精(スプリング・エフェメラル)とも。
生前の母とカタクリの群生地で全草を摘んだことがあったっけ。それを茹でて干して、煮物にしました。今はもう花を愛でるだけにして採ることはないけれども、ほんのりとした甘さを持つ忘れられない味わいです。
名は、片栗粉の片栗ですね。片栗粉は今はもうジャガイモ澱粉で作られているようだけど、もとはこの球根から作られたことから。
コシアブラ(漉油、ウコギ科ウコギ属)の現在の芽。食べごろまでには、あと3週間というところでしょうか。
筆者らにとってコシアブラのキドさ(エグ味)が、まずは何よりの春の実感なのです。おひたしにてんぷらに、早く食べた~い(笑い)。
下がちょうどよく育った食べごろのもの(昨年の画像から)。
これはタカノツメ(鷹爪、ウコギ科タカノツメ属)。
コシアブラとタカノツメって、枝の張り方や木の膚、それに樹形もよく似ていて、素人は葉が展開するまではその区別はつかないのではと思います。
写真は現在の芽だけど、コシアブラとは形が違います。命名者はこの芽の形に、鷹の爪に似た鋭さを見たものでしょう。
下は、食べごろのつやつやとした展開した葉(昨年の画像から)。
タカノツメのキドさは絶品、ハリギリ(針桐、ウコギ科ハリギリ属)やコシアブラよりもきついです。おひたしにしてもてんぷらでもうまいけど、炊き込みご飯もグーです。
コシアブラとちがってタカノツメが市場に出ることはまずないし、実は地元の人間もこれが山菜であることをあまり知りません。というのは、コシアブラの終わった時期に出はじめること、もうその頃の山菜採りはゼンマイやワラビに熱中してもう上を見なくなるからだろうと筆者は推測しています。でも、これを覚えてこそ山菜の通というものです。
以下は敷地の斜面。半分に分かれている緑がイワウチワ(岩団扇、イワウメ科イワイチワ属)、赤がイワカガミ(岩鏡・岩鑑、イワウメ科イワカガミ属)です。
イワカガミはもともとここにあった自生種、イワウチワは飯豊山の麓(国立公園区域からはずーっと離れた場所)からのものを2株ほどを移植して広がったもの。
そのイワウチワがもう咲いていたのです。びっくりです。
イワウチワは通常なら4月20日頃に咲き出すのですが、これからすると、春の訪れは2週間ほど早いということになります。これでは、筆者たちにとってとっても重要な山菜カレンダーは修正が必要です。
それにしてもイワウチワ、いつもながら清楚で美しい花です。淡い韓紅花(からくれない)がなんとも言えず。
散歩道にあった山桜。種の特定は、むずかしいです。オクチョウジザクラ(奥丁子桜)?
敷地に咲きはじめた山桜。これも上と似ているような。
悔しいけど、桜の区別の仕方がイマイチ分からないのです。
散歩の途中で見つけた山繭のひとつ、ウスタビガ(薄手火蛾、ヤママユ科ヤママユガ属)のもの。
宮澤賢治の作品に「グスコーブドリの伝記」というものがあるけど、そのモチーフはこれらヤママユの繭ではないかと思います。
これらのいわゆる天蚕糸(てんさんし)でかつては織物が作られていた歴史もあったようで、その薄緑色の生地は見事という他はなく。
最後は、クロモジ(黒文字)の芽。
クロモジの枝は清々しい香りを放ちます。
クロモジは高級和菓子の切り楊枝に使われているようです。茶道にあっては必需品なのでしょう。
ポッケはもうパンパンになって、「春をポッケに」はこれでおしまい。
もう少しで、もう本当に、春です。
*
世はますます深刻化するコロナ禍。不安は、治療法が確立されていない中で感染がどんどんと拡がっているからですね。情報には不安を煽るものもあるし、誰を信じてよいかの疑心暗鬼……。
筆者のようにこんな山中にいれば巷とはちがって(申し訳ないけど)別世界なのだけれど、それでも言わせてもらえれば、テラヤマの「書を捨てよ町へ出よう」ならぬ「書を捨てよ野に出よう」(笑い)です。いかに外に出るなと言われても、巣ごもり、引きこもりは精神的にどんどんと不健康にしていくと思います。
健康を保つには、まずは(不健康にしてしまうような)情報を制御して(選別または遮断して)、たっぷり寝てしっかり食べる、そして何より人混みを避けて外に出るのがよい。身体を動かして調子を整えるだけでなく、春の自然が命の輝きを教えてくれるはず。
今般の行事やイヴェントの延期・中止のオンパレードにあって、筆者の上半期のめあてであった福島県会津は三島町の「工人まつり」6.13-14も(中止を含んだ)延期が決まり、筆者も糸が切れた凧のようです。はじめての参加・出店をめざして準備に余念がなかったので。
計画の練り直しが必要、気持ちの持ちようを変えていかなければなりません。くよくよしても仕方のないこと。まずは工房の増築に全力です。
それでは、お元気で。バイバイ!
と、10日朝は、美しい春の雪です。
*「マキノ君」は、植物学者の牧野富太郎博士。