森の小径

森の小径、9月1日

朝夕ようやく涼しさを感じられるようになってきて、本日は9月1日。暦の上ではなく、実際の季節感からすれば秋は9月から11月に相当するように思います。その初日、あたりはいったいどうなっているのか、本当に久しぶりに歩いてみました。

クリ(栗)は今、これぐらいの青さです。熟して割れて落ちるまであと3週間ぐらいでしょうか。これは自生するもので粒は小さいけれど、その分甘みがつまっています。ただ、小さいだけに、茹でて食べるにしてもやっかいだけどね(笑い)。
筆者が10歳か11歳のころ大好きな先生がいて、野山で拾った袋いっぱいのクリを手土産に(笑い)ご自宅に遊びにいったことがあったっけ。そのS先生は小学校とともに中学と高校の理科の免許を有していたらしく、筆者の進学とともにその中学にもおいでになり、そのまま3年間理科をお習いしたのでした。そんなこともあってか当時、理科はとても好きで 得意でもありました。
現在先生は、御年90歳ぐらいかもしれない。まだ年賀状の交換だけは続けていますが。

クズ(葛)が名残りの花をつけていました。
春先のクズの若い芽は食べられると知って試したことがあったけど、全体が毛で覆われ、その処理がたいへんで食べるどころではありませんでした(笑い)。
葛粉は当然この根から採取するものだけれど、たいへんそうです。本葛が貴重で高価なのが理解できます。
しかし、クズの繁殖力といったらすごい。這いだしたランナーの途中途中に根を下ろしていきます。クズが浸食したところの草刈りはたいへんです。

すぐ近くの、ウワミズザクラ(上溝桜。地方によって、アンニンゴ)の実。まばらな葡萄状の実のまだ青いうちのものは、塩漬けにして食べる地方もあるそうな。販売もされているそうな。
この8月19日の午後、隣りで鳴らした撃退用花火の爆発音がし、すぐさま電話が来ました。「今、家の前のウワミズザクラの木にクマが登っていた!」との興奮の声。そう、クマが一心に無心に食べていたのはこの木のこの実です。折れていた枝があったけど、爆発音に驚いて逃げようとしてクマが踏み込んで折れたのではないかしら。
食べ物があまりないこの時期のウワミズザクラの実は、クマにとってはたいへんなごちそうのようで。

クマが怖くない? 怖くないっていったらウソになるけど、同じ環境の住人という仲間意識はありますね。
同じように、クマに問いましょうか。
人間が怖くない? 怖くないっていったらウソになるけど、同じ環境の住人という仲間意識はありますね、と言いかねない!かも。
森に棲(住)んで思うのは、人間というのはつくづく、不遜と思い上がりの象徴だということです。

黄色なオミナエシ(女郎花)に対して、こちらの白いのがオトコエシ(男郎花)。
このへんでは普通に見られるけれども、一方のオミナエシは自生のものはどんどんと少なくなっています。

我が家に自生するサンショウ(山椒)の実が色づいてきました。
このぐらいで収穫して乾燥させ、粉状にすれば立派な香辛料になるとのこと。今度、挑戦してみようと思います。我が家では青い実のうちにたくさん収穫して、茹でて冷凍しておいて、年がら年中“ちりめん山椒”とするのがならわしです。相棒がウマいを連発するので、気をよくして、切れるとすぐさま作ります(笑い)。

キンミズヒキ(金水引)が終わりを迎えている様子。ずいぶんと花が実に変わってきていました。

家に隣接する林に行ってみました。おびただしい数の、青いコナラ(小楢)の葉が散乱しています。以前はこの光景を、前夜にでも強い風が吹いて落ちたんだなあぐらいに思っていたものです。
しかし、変なのは、どの葉にも青いどんぐりがついていること。それから、風が原因するのなら、その枝の折れ口は様々であるはず。ところが、枝の切り口はすべてがハサミで切ったみたいにきれいなのです。
これは何が原因するのか、誰の仕業かというと、ハイイロチョッキリという体長8ミリほどの昆虫なのです。これをはじめて知ったときは(5年くらい前だったと思う)びっくりしました。すべて、先端に刀がついているような長い口先を器用に動かして切り落としていたのです。

そしてどんぐりをよくよく見ると、帽子の部分に何やら点がひとつふたつ。実はこれ、卵を産みつけた跡です。しかも、穴をふさいでいます。そうしたのちに、枝ごと切り落とすのです。
でもなぜに。それは、どんぐりを食べて大きくなった幼虫が土の中に入ってサナギになるから。サナギから成虫になって地上に現れ、木に登ってどんぐりに産卵する……、これがハイイロチョッキリの一生のサイクルなのです。
すごいです。すごいです。

ハイイロチョッキリにとってコナラは恋人のようだけど、コナラにとっては迷惑千万なヤツ? でも、コナラはコナラでちゃんと考えているのだと思います。こういうことを見越して実の数をつけているのだと思う。また、自分の木に昆虫がいれば、それをめあてに野鳥が来てうたを歌ってくれることも期待しているかも!???? ←すごいファンタジー!(笑い)。

ハイイロチョッキリの写真は、web「どんぐり虫の落とし物/松井修一」より

カタバミ(片喰)が咲いていました。
もう5月の初めには咲いていたと思うけど、花期が長いです。美しい薄紫の小さな蝶ヤマトシジミ(大和蜆)の食草だそうな。

ツユクサ(露草)。
これも花期が長いです。この花が見えなくなると本格的な秋到来ということになるのでしょうか。

ノコンギク(野紺菊)が咲きはじめました。
里の秋を象徴する花のひとつです。色は薄い紫から白に近いものまでいろいろです。

夏の花のひとつ、カワラナデシコ(河原撫子)。もう最後の一輪という感じです。
この花がサッカー女子ナショナルチームの愛称“なでしこジャパン”の“なでしこ”だけど、どれだけのひとがこの花を知っているのかなあ。

お盆のころから咲きはじめていたツリガネニンジン(釣鐘人参)も、終わりは近いようで。
この若いものは知るひとぞ知る山菜、“トトキ”なのです。我が家は花を楽しみたくて食べることに躊躇しています。

笊籬溪(ざるだに)の風景、笊籬橋より。
一部、ハウチワカエデ(葉団扇楓)が紅葉をはじめていました。

笊籬橋のたもとに多いママコナ(飯子菜)。米粒模様がはっきりしています。
弥兵衛平湿原で見たものはミヤマママコナ(深山飯子菜)だったけど、米粒模様はぼんやりし、このようには上部に毛がないのが特徴でした。

夏を象徴したヤマハギ(山萩)も、もう終わりに近いようで。

今年この近辺でははじめて見つけたツノハシバミ(角榛)。
もう少ししたら実は黄褐色になり、そしたら中の堅果を取り出して食べたいと思います。なにせはじめてのこと、ワクワクします。食用ナッツとして知られるヘーゼルナッツはヨーロッパ原産の本種の近縁種とのこと。

チカラシバ(力芝)。
ブラシのようなこの草の茎はけっこう強靭なのだそうで(名前はここから来たのだろうか)、この茎を素材にして編み組細工でバッグなどをこさえるひともいるそうな。たっぷりの時間が許されるなら筆者も挑戦したいところではあります。
チカラシバを見ると秋が訪れたんだと思わされます。この草が消えるのが10月の半ばで、そしたらあたりは一斉に紅葉をしはじめ、秋はいよいよ深まっていきます。

家のすぐ近くに、ツリフネソウ(釣船草、吊舟草)が。実は熟すとはじけて飛び散るようです。

ちょうどヒュッテの前に咲くアキカラマツ(秋落葉松)。
カラマツソウ(落葉松草)に似ていますが、カラマツソウの花は白く、こちらは黄色がかっています。
カラマツというのは、落葉松の若葉に花が似ているから。

今、敷地に咲くホツツジ(穂躑躅)。踊っているようで、これはこれで美しく。
ミヤマホツツジ(深山穂躑躅)とは花茎の長さがちがって、こちらは倍から3倍ほどもあるようで。

下2枚は、ヒュッテ前の薪小屋にからみついたヤマノイモ科ヤマノイモ属のオニドコロ(鬼野老)の花と実。ヤマノイモ(山芋)に似ているけれども、葉の横幅がこちらのほうがぐんと広いです。むかごはつきません。
不食と言われていますが、調べてみると、青森県の南部だけはこの根を伝統的に食する習慣があり、朝市や産直にも並ぶのだとか。地元民にとって、「苦いけど、おいしい」「やみつきになる」ようです。

子どもが小さかったときには夏によくキャンプに行ったけど、十和田湖近くのキャンプ場で何やらキノコを一生懸命取っている大人が。それはあとで知ってチチタケ(乳茸)というものだったのだけれど、これは栃木県のひと達の好物。栃木ではマツタケ(松茸)並みの扱われ方だというから驚きですが、我らにはモソモソしてどうもいただけません。
新潟県民が異様に興奮するのがアケビ(木通)の萌えだそうで、店頭にも並ぶのだとか。それはさっと茹でて生卵と一緒に食するのが一般的、そのころの新潟の卵の消費量は尋常ではないとのことです。我が家でもそれにならって食すのですが、これは本当においしい。
畑などに普通に生えてくるスベリヒユ(滑莧)、ここらの呼び名で“ヒョウ”ですが、これは山形県民のソウルフード。一生懸命採取し、茹でて辛し醤油などにして食します。乾燥ものが店頭に並んだりします。けれど他県のひとは見向きもしない雑草扱いです。
地方って、その地方なりの食文化があっておもしろいものです。

夏から秋へ、植物が入れ替わり立ち代わりしながら時は移ろっています。
夏はもう、終わりです。