6月の25日、またも西吾妻を歩いてきました。
それまでの日々というのはじめじめとしていかにも梅雨らしい日が続いていたのですが(こういう時にできる仕事を集中して片づけて)、この日ばかりは快晴の空、山歩きにはもってこい、こういう日を逃す手はないと。今年になって早くも3度目です。
筆者はシーズン券を買ってあるので、今後も折を見て歩く予定です。まあ、少し高い山に行く際の事前のトレーニング、あるいは散歩コースというぐらいの意識ですがね。
天元台の基地(1,350メートル)から終点(1,820メートル)までのリフトは3基、標高差470メートル、距離にして約1,500メートル を約40分かけて登っていきます。
このリフトの特徴は、リフト直下のところどころに植物の名の標識が設置されていることにあります。地元の愛好会の方々のお力だと思います(環境省の委託だろうか)。
標識は雪が降る前に撤去し、古びたものは新調し、雪が消えるとまた設置されるのです。たいへんな労力と察しますが、とてもありがたいことです。
おかげで客はリフトに乗りつつ花の名、木の名を知ることができるのですから、まさに空中植物園という趣きなのです。こういうのって、他にはあまりないことです。
今、直下はハクサンチドリ(白山千鳥)やマイヅルソウ(舞鶴草)、ゴゼンタチバナ(御前橘)、イワハゼ(岩黄櫨)がとてもきれいに咲いています。コバイケイソウ(小梅蕙草)が咲きだすのももうすぐのよう。
ダケカンバ(岳樺)の若葉の何とみずみずしいことよ。
ウグイス(鶯)の鳴き声一層高くして、エゾハルゼミ(蝦夷春蝉)は大合唱。それは初夏の訪れをいざなっているかのようです。
リフト終点の北望台から見晴らしのよいかもしか展望台までは約20分の歩きです。
その登山道わきに咲くムラサキヤシオツツジ(紫八汐躑躅)の美しい韓紅(からくれない)。
オオバユキザサ(大葉雪笹)がようやく花をつけはじめてていました。
バイカオウレン(梅花黄連)と思いきや、これはミツバオウレン(三葉黄連)。ミツバオウレンは花びらが少々尖っており、葉は3枚です。
そして、何と言ってもサンカヨウ(山荷葉)の花の美しさ。今がちょうど盛りという感じです。
サンカヨウはメギ科サンカヨウ属の多年草。分布は中部以北、北海道、サハリンに及んでいるとのこと。
こんなに見事に咲いている様はそうはお目にかかれないもの。この独特な姿態、そして白い花の清楚さはどうだろう。
やがてつける実は青紫の宝石のようです。これがあまくておいしく、山歩きの疲れを癒すのです。
かもしか展望台からほぼ西方を望遠したところ。少々の雲が隠しているけれども、本当はこの最上部に白い飯豊連峰が横たわっているのです。いつかまたあの稜線を歩いてみたいという憧れが募っていきます。
南にはたおやかな西大巓(にしだいてん。1,981メートル)。
西大巓の南斜面は西吾妻にあっては大凹に次ぐお花畑なのではないでしょうか。キンコウカ(金光花)はまだかしら。夏のハクサンシャジン(白山沙参)の繁茂が見えるよう。
西大巓は吾妻連峰のピーク西吾妻山(2,035メートル)から約40分の距離で、そこから白布峠へ、檜原湖近くの集落の早稲沢へ、そしてグランデコへと道が続いています。
近いうちに一度、白布峠から馬場谷地を通って西大巓・西吾妻山へのコースを辿ってみたいもの。
岩海のかもしか展望台を過ぎてからは木道が続き、そこには咲き競いはじめたチングルマ(稚児車)の群落が続きます。
ワタスゲ(綿菅)は池塘とともに。ミツバオウレンの群落もところどころに。
西吾妻最大のお花畑の大凹(おおくぼ)はずいぶんと雪が解けてきました。この俯瞰図は四季折々に心地よい眺めです。
雪はもうしばらくすると解けてなくなるでしょう。そしたらお花畑はイワイチョウ(岩銀杏)の群落の白で占められていくのでしょう。
大凹からの、池塘のある美しい東方の風景。
そして大凹に、東北の名花、ヒナザクラ(鄙桜)が咲きはじめました。
今回の筆者は、これに会うために登ってきたと言っても言い過ぎではないのです。本当に、会えてよかった。
ヒナザクラはサクラソウ科サクラソウ属の日本特産の多年草。東北地方にのみ分布し、この西吾妻が南限、八甲田山が北限とのことです。
この美しい花をはじめて知ったのは月山だったと思うけど、西吾妻の大凹に大群落のあることを知って大いに興奮したものでした。
この花の、何という可憐なことでしょう。まさに東北の誇りうる花の美しさです。
いわば、西吾妻大凹はヒナザクラのメッカです。会いたければすぐ会えるという幸いを思うばかりなのです
大凹の行きどまりの水場。この水場は、これから登ろうとする西吾妻山への、ピークから戻っての小休止にどれほど登山者の心をとらえることか。
この大凹の水は冷たくておいしいものですが、西吾妻山に降った雨が深く浸透して時間をかけてしみ出してくるものでしょうか。
今年も雪の下から「泉」の看板が顔を出しましたが、程よい古びた趣きを超えて、この錆、この歪みはどんどんと進行している様子、あと何年持つことやら。
大凹の水場から引き返して、人形石に回りました。
木道のわきには様々な高山植物が噴き出したように咲きはじめていて、今が盛りのイワカガミ(岩鑑、岩鏡)の濃いピンクが青い空をバックにして映えていました。
その下はチングルマにイワカガミ、そしてミツバオウレンの三役揃い踏みという感じの場所がありました。
以下は、人形石からのリフトまでの北回りコースに出会った花々。
道々、散らばった花びらを目にして見あげると、ミネザクラ(峰桜。別名にタカネザクラ)が咲いていました。
サンカヨウの見事な群落。
下はたった2株しか見つけることができなかったコミヤマカタバミ(小深山片喰)。
ルーザの森にはミヤマカタバミ(深山片喰)というカタバミの種があるのだけれど、コミヤマカタバミに比べれば花も葉も大型です。
コミヤマカタバミに出会える機会というのは今までにあまりなく、いつかその群落を目にしてみたいなあと思っています。
そうして帰りには、いつものようにネマガリダケ(根曲竹)の副産物。
ネマガリダケはあと10日も採ることは可能と思うけど、筆者はこれで今年はおしまいとしました。採るだけならいいのだけれど(でも、腰が痛い。笑い)、食べるまで(あるいは水煮として保存するまで)の処理がとてもたいへんで、それをやり通す根気も限界という感じで(笑い)。
お世話になっている方々(ほうぼう)に生のものを配って喜んでもらったし、仲間にタケノコ汁を食べてもらって感謝されたし、そうして今年の筆者のネマガリダケシーズンは終わりです。また来年のお楽しみというところです。
西吾妻行第3回はこれでおしまい。
里は今、栗の雄花でいっぱい、その香り充満の梅雨真っ盛り。