森の小径

山野晩秋

ルーザの森の紅葉の彩りのピークは毎年11月1日、この前後です。
これよりあとは色がどんとんと褪せて飴色に枯れ色にと変わり、落葉として舞うことになります。早春にはじまったみどりの物語のラストです。
そんな、冬を前にした移ろいの風景を綴ってみました。
題して「山野晩秋」。

リビングにある佐藤忠良の彫塑ポスターには色づいたコナラの木々が映っていました。

あたりが紅葉のピークを迎えた頃にようやく色づきはじめるのが(ここブナ帯の主木たる)コナラ(小楢/ブナ科コナラ属)です。
この木の葉が風を受けていっせいに中空を舞い、空気の流れがないときにもハラリハラリと葉を落とすようになれば、それは、冬はもうそこまでというシグナルです。

下は、夕日に照り映えるコナラの紅葉。

隣接の広場は紅葉したコナラに囲まれて。

朝、広場から北に見る我が家。

広場の中央に立って上空を見上げれば…。

そうして広場には落ち葉の絨毯が敷きつめられました。

そんな(11月)5日に、(森の生活を祝福するように)美しい虹がかかりました。

散歩の途中で見たメタセコイヤ(曙杉/アケボノスギ/スギ科メタセコイヤ属)。これは植栽された樹木。
和名のアケボノスギの名が示すよう、メタセコイヤの紅葉は夜明けの日輪を思わせる淡い緋色です。
このメタセコイヤは日本を含む北半球では化石として発掘され長らく絶滅種とされていたけれども、1946年に中国の四川省(現・湖北省利川市)で現存することが確認され、そこから広まった樹木。
いわゆる生きた化石ですね。

我が家のイタヤカエデ(板屋楓/ムクロジ科カエデ属)の、てっぺんにわずかに残った葉。

ヤマナラシ(山鳴/ヤナギ科ヤマナラシ属)の黄葉。
ヤマナラシの葉は表面に蝋(ロウ)を塗ったように光沢があって硬質で、風を受ければ満載の葉が互いに擦(す)れ合い山が鳴いているように音を出すことからの命名です。
写真は大方の葉を落としたヤマナラシの姿。この木の葉は黄色ですが、濃い橙(だいだい)の個体も見ることができます。

敷地のすぐ近くで見つけたツルリンドウ(蔓竜胆/リンドウ科ツルリンドウ属)の果実。
まるで宝石のように美しいガーネット色の実は晩秋のサインです。

ルーザの森のビューポイント、笊籬溪(ざるだに)の3週間ばかりの時の移ろい。
上が11月6日、一番下がその25日です。
25日の谷川は、前日に降った雪が解けて増水しています。
風景はこうして少しずつ色味を失っていきます。

上の溪の景色の左端の上に位置する、すっかり葉を落として赤い実が目立ってきたアオハダ(青膚/モチノキ科モチノキ属)。
アオハダの若い芽は山菜として(今年初めて“おひたし”として食したけど、まずまずの味)、青葉は茶の代用ともされるとか。
それにしてもこの木の、すっくと株立ちする姿の美しさは格別です。

笊籬溪を流れる天王川の川面に移った木立。

谷川の冷たそうな水の流れ。
宮澤賢治の「やまなし」を髣髴(ほうふつ)とさせるような1シーン、沢蟹の父子が会話しているよう。
ただし、ここルーザの森にサワガニはいますが“やまなし”はありません。近年、“やまなし”が研究者によって特定され、それは固有種の“イワテヤマナシ”だということです。

手前の黄色な葉は今にも枝からごっそりと離れ落ちそうなタカノツメ(鷹爪/ウコギ科タカノツメ属)。
タカノツメは晩秋にあって最後まで残る彩りです。

滝となって天王川にそそぐ、橋(笊籬橋)すぐ近くの笊籬沼の風景。
ここにはアオサギ(青鷺)やカモ(鴨)がフナ(鮒)などの小魚(ハヤ/鮠もいるだろうか)や水生小動物を狙って時々立ち寄っています。
下は、霧に包まれた沼。

静かな晩秋の水鏡、4選。

樹木というものは極端で単純な競争社会。日の光を獲得できた者が成長を許され、得られなかった者は枯れる運命にあります。
そのようにして負けてしまったコナラを伐採し、玉切りに(斧で薪割りができる状態に)して積んでいたところに自然に生えてきたヒラタケ(平茸/ヒラタケ科ヒラタケ属)。
ヒラタケは自然の森の中で見かけることはありますが、敷地内の薪材に発生するなんてビックリ。ここに住んで28年、はじめてのことです。
さっそくにもバター炒めや汁物の具にしていただきました。恵みに感謝です。
今秋、下の写真くらいの量を3回は収穫しました。

森で見かけた初々しいヒラタケ。今秋、ヒラタケは6箇所くらいで見かけました。
確かに今年はヒラタケの発生は多いかもしれない。ここの森自体がそのようなフロラ(植相)に変わってきているのかもしれない。

ナメコ(滑子/モエギタケ科スギタケ属)の群生。
ナメコの発生で昨年と今年が大きく違うのは、立木よりも倒木に多かったということでしょうか。
昨年暮れの一挙の大雪によって倒れた木の何と多かったことか、その影響かもしれない。

クリタケ(栗茸/モエギタケ科クリタケ属)(上)とナメコ。
クリタケの名は幼菌が色や形から栗に似ているから。
名がクリタケだからと言って何も栗の木に出るとは限りません。クリにも出ますが多くはコナラとミズナラ、その根元です。
クリタケは比較的傷みやすく、道の駅や産直などにも並ぶことは極めて稀ではないでしょうか。
しかしクリタケはよい出汁が出るとともに食感のよいおいしいキノコです。

ムキタケ(剥茸/ガマノホタケ科ムキタケ属)は木の根元から頭上高くまで発生します。
このキノコが取りついた木はこの先倒れる以外にはありません。
キノコというのは樹木の生命を徐々に弱らせ、有機物を無機物に変換する重要な役目を担っています。キノコはいわば分解者、森の掃除屋なのです。そうして森は更新していくのです。
それをひとはありがたくいただきます。

写真はコナラに出ていたムキタケ。
高いところのものは、こさえた専用の道具(竹竿の先にムキタケの石づき部分をこそぎ、こそいだものが網で受けられるようにしたもの)で採っていきます。
この道具が新鮮に映る相棒のヨーコさんは面白そうに遊ぶようにしてゲットしていました(笑い)。

チゴユリ(稚児百合/イヌサフラン科チゴユリ属)のかわいらしい小さな白い花は黒い実となって。

筆者たちのキノコの採り場にそびえるオノオレカンバ(斧折樺/カバノキ科シラカバンバ属)の独特な樹皮。このへんに5株ほどが自生しています。
オノオレカンバは斧が折れてしまうほどの堅さからの命名で、それだけ比重が大きい堅牢な材質ということでしょう。
算盤の玉にも使われているそうな。
原木市場に出品されたりすると高値で取引きされると聞いたことがあります。
オノオレカンバについては、所持する専門書(『原色日本樹木図鑑』保育社)にも数行程度しか記述はなくて詳細が分からず、よく利用するネット上のフリー百科事典wikipediaでも不明です。どうしてだろう。

ムキタケとナメコの森はすっかり葉を落とした裸木が大方を占めているのだけれど、わずかに残る彩りはタカノツメの黄色とウリハダカエデ(瓜膚楓/ムクロジ科カエデ属)の赤味の橙と。

そうして急峻で深い森を歩きまわって帰りに立ち寄るのは、いつもの静謐(せいひつ)な淵、笊籬淵です。
笊籬淵に会うと動いて消耗した身体が癒されるというか、アドレナリンが分泌した頭が鎮まっていくというか。心と身体はこうあれと諭すがごとくの静かなたたずまいなのです。
でもひとは淵を前にすると、なぜに落ち着くのだろう。どうして会話したくなるのだろう。

笊籬淵、時を違えた2景。

淵の少し手前の流れ、落ち葉がゆっくりぐるぐると回っていました。

そして(昨年より4日早く)この24日に、ルーザの森にも雪がきました。ゾクッとしました。
それは、初雪としてうれしいことがひとつ。それは、これからどんどんと行動(働き)が制限されてゆく悔しさがひとつ。そして、もうすぐ長い長いトンネルに入らねばならないつらさも混じり…。


車庫の建築は終盤にさしかかっているのだけれど、この雪ではねえ。
でも、やれることをやれるうちに、急がなくちゃ!

それじゃ、また。バイバイ!

 

※本文に割り込んでいる写真はサムネイル判で表示されています。これは本来のタテヨコの比から左右または上下が切られている状態です。写真はクリックすると拡大し、本来の比の画像が得られます。