森の生活

この秋に

もう(2020年)9月の末だというのに暑いなあ、暑いなあとぼやいていたけれど、その28日は一気に冷えて朝の外気は8.5度まで下がりました。ずいぶんといつまでも蒸し暑い日が続いただけに、冷気は気持ちがいいです。夜もぐっすりです。

外気温が8.5度ぐらいだと室内は17度ぐらい。こうなると、暖が欲しくなります。
それで、これからいつでもストーブが焚けるようにと煙突の掃除をしたり、薪や焚きつけの準備をはじめました。何せ我が家の暖房の主流は薪ストーブ、主屋と工房・ヒュッテの2棟に4つの薪ストーブを据えつけているので、準備には半日ほどかかりました。でもうれしいです。いよいよ薪ストーブのシーズンの到来です。
薪ストーブは、単に部屋をあたためてくれるだけではなしに極上の時間をこしらえてくれます。これに勝る喜びはそうあるものではありません。

web 新潟の野鳥・フィールドノートより

下の地面を掘り返した跡は、ニホンアナグマ(日本穴熊/イタチ科アナグマ属)の仕業です。アナグマ君が地中のミミズや昆虫の幼虫を探しているのです。
地面の掘り返し跡はここ4、5年前にはじまったことですが、最初はイノシシかと思っていました。けれどもあの大きな図体で夜中に掘り返すにしては家屋のすぐそばでありながらその気配は全くといっていいほど感じることはありません。で、この夏の昼下がりのこと、リビングでくつろいでいるとどこかタヌキのような親子が通りかかるのを目にしました。でもどうもタヌキのイメージと違い、顔が細く、背中が丸いのです。そうして図鑑などに当たったところ、それはニホンアナグマと分かりました。
それにしても激しいあさりようです(イノシシの場合は深さと規模においてこんなものではすみません)。
これで困ったことには、敷地に毎年約束したように生える優秀な食菌のハタケシメジがほぼ全滅です。これはちょっと悔しい。

主屋のリビングの薪ストーブのために、薪をベランダに運び込みました。

薪ストーブ用の箱車には、焚きつけ用の薪を。これは知り合いの大工にありがたくいただいたもの。とても助かります。
大工は現場とは別に、自宅にある下小屋で材料の加工をして現場の仕事に備えます。その切れ端をていねいに取っていてくれ、たまると声がけしてくれます。

筆者の第2の仕事場であるアトリエ兼ギャラリーの薪箱にも薪を満たして。

夏は扇風機代わり、冬分は薪ストーブであたたまった天井の空気を下におろすためにサーキュレーターを動かします。

ストーブの上に載せているのは、サンショウ(山椒/ミカン科サンショウ属)の実。乾燥させて種と皮を分離させています。

サンショウの種と皮の分離など、はて、なぜに?
それは、サンショウの乾燥した皮を用いて、“山椒味噌”を自作したいがため。アレンジとして“山椒マヨネーズ”もできるでしょう。“粉山椒”そのものを作っておいて他の調味料と合わせて使うことも可能のよう。これによって、食卓にまたひとつ彩りが増すことと思います。

下は、現在の庭のサンショウ。果皮は緑から赤に変わり、中の黒い実が飛び出す頃となっています。

サンショウをよくよく観察すると、ミヤマカラスアゲハ(深山烏揚羽/アゲハチョウ科アゲハチョウ属)の大きな幼虫が葉をムシャムシャしていました。
今まで成虫を見てきてそれがカラスアゲハなのかミヤマカラスアゲハなのか判別がとても難しかったのですが、この幼虫を見て分かりました。我が家に舞っているのはミヤマカラスアゲハであると。幼虫の頭の回りにオレンジ色の縁取りがあるのがミヤマカラス、縁取りがないのがカラスということなので。

5月の半ばから今もやってきているミヤマカラスアゲハ。美しい、輝く青の翅です。

乾いたサンショウは皮つきの実をすり鉢に入れてすりこ木棒で軽くたたきます。そうすると、皮と実が分離していきます。ピンセットを使いながら、皮と実を分けていきます。

下は、皮だけを分離したもの。これを粉末に加工したものが、いわゆる“うなぎのかば焼き”にかける“粉山椒”ですね。これをミルで挽けば完成です。

木漏れ日の工房。外の仕事も快適になってきました。

庭の花壇にはシュウメイギク(秋明菊/キンポウゲ科イチリンソウ属)が繁茂しはじめました。
赤の濃い八重がもっとも野生に近い品種のようですが、花弁が少ない白やピンクの園芸種も増えているよう。我が家にも3種のものが咲き競っています。

あたりは少しずつ紅葉をしはじめました。
これは(10月4日)本日の、ウワミズザクラ(上溝桜/バラ科ウワミズザクラ属)の葉の様子。
ウワミズザクラの本来の紅葉はセザンヌの絵のような美しい色彩を呈するのだけれど、これから見ると今年はしっかりと色を発する前に枯れが生じている感じがします。総じて、美しくないのでは。これも異様な暑さが続いたことの影響かもしれません。

コマユミ(小檀/ニシキギ科ニシキギ属)の紅葉。
基本、コマユミはニシキギの一種。枝に翼(よく)がないものをコマユミとして区別しているようですが、この地方で翼のあるものに出会ったことはありません。

キノコ類はおしなべて不作です。3年連続です。
筆者のあたりはもはや山に含まれるエリアなので、敷地内にも様々な食用キノコが出るのです。
たとえばいずれも優れた食菌であるホウキタケ、ナラタケ、サクラシメジ、ニセアブラシメジ、それにムラサキシメジ、タマゴダケ……、これらは今年はまったく見えません。第一、この時期のキノコ特有の匂いがしません。
そういう意味では、見えないところで異様な秋が進行しているのだと思います。

すぐ近くの道端に落ちていたクリ(栗/ブナ科クリ属)のイガ。今年は実が少なく、大きさも例年より小さく感じます。
クマだろうかリスだろうか、タヌキだろうかアナグマだろうか、実はすっかり持ち去られています。

この地方にして、ここしばらくマスコミをにぎわせている話題のひとつはクマの出没です。
この9月28日には、米沢市中の住宅密集地にある南部小学校にクマの足跡と糞が発見されたとのこと。昨日3日は、筆者らも含む米沢市万世町の、住宅地である牛森地区で自宅そばの畑でクマの足跡があったとのこと。米沢の南隣の福島県喜多方市では駅前に出没してけが人が出たとか。とにかく今年はクマの報道がひんぱんです。
そういうここルーザは、何を隠そうツキノワグマの生息地です。時に糞を見かけたりします。

クマにとって今年は特に大変です。
クマの主食は何といっても木の実、特にブナの実は好物なのにその大凶作が報じられています。キノコ同様ここ3年連続です。それに加えて我が方の主木のコナラの実もまれにみる凶作、目にする木にドングリがほとんどついていません。山に食べ物が本当に乏しいのです。
クマにとって今年は飢饉、大飢饉の年といってもいいと思います。だから、(ヒトという危ない動物がいるので)本当は行きたくないけれど背に腹は代えられず食べ物を求めて仕方なく里にも町にも出てしまう、これが出没の真相というものでしょう。かわいそうなものです。

ツキノワグマは6月から9月にかけて交尾をします。ところがツキノワグマは、受精卵が子宮に着床するのは11月から12月なのだそうで(着床遅延)、冬眠の前にどれだけ栄養を蓄えられるか、それによって着床そのものをコントロールしているということです。とても神秘的なことです。だから今、クマは食べることに必死なのです。でないと、命をつなぐことができない。

ただ、筆者とてふいにばったりと出会いたくはないのであたりを歩く場合はクマ鈴を携行したり、(100円ショップにある、玩具の)火薬銃を持ち歩いて時々発砲したりしてヒトの存在をあらかじめ知らせるよう努めています。時に強烈な爆発音を発する撃退用花火を打ち上げることもあります。食べ物の匂いのするものを野外に放置しない(生ごみは収集所に出す)ことも心がけています。

それで、怖くない?
それがあまりそうは思わないんだなあ。正直に言えば、隣人という感覚の方が強い。こんなひどい環境の今でも、何とか生き延びてくれよという願いがあります。

町場のみなさんは、まずは自衛として(いい音のする)クマ鈴を身に着けるのはいいことだと思います。
それからむやみに怖がらずに、クマの基本的な生態を少しずつ学習していってほしいものです。これは情報を流すマスコミにも言えることです。

さて、空が美しく晴れ上がった30日、相棒のヨーコさんともども、ここから6キロほどの(町場に近い)蛙石山(びっきいしやま/307メートル)に出かけました。
目的はひとつ、ナツハゼ(夏櫨/ツツジ科スノキ属)の実を摘むこと。果実酒にするためのものです。もう、ナツハゼ酒が切れそうなのです。
ふたりともプルプルと手がふるえてきて、禁断症状を呈しています。ウソです(笑い)。

下は2013年の蛙石山のナツハゼの実つき。
ところが今年は異常気象を反映してかさっぱりです。あまりの少なさです。
相棒はそれでも必死に採取していましたが、集まったのはほんの50粒ほど。これでは漬け込むなどお話になりません。残念。ナツハゼは場所を変えてまた探すことにします。

今までたくさんの種類の果実酒を作ってきたけれど、おいしい果実酒はこのナツハゼに極まれりです。酸味といい甘味といい絶妙に野性味を加えて、これぞ果実酒という趣なのです。濃いガーネットも大きな魅力です。

せっかくの採集ハイキング、それではと頭を切りかえて、ガマズミ(莢蒾/ガマズミ科ガマズミ属)を採ることにしました。ガマズミだけでは足りないので、(ガマズミより小さく少々扁平な実の)近縁のミヤマガマズミ(深山莢蒾)も一緒にすることに。
下は、ガマズミの赤い実。

35度のホワイトリカーに漬け込んだガマズミ。1日でこんなに赤い色が抽出されてきました。やがてワインレッドの美しい色合いの果実酒ができます。少々すっぱみのある野生的なおいしさに仕上がっていきます。これから1年の我慢。

家の敷地には様々な野生の植物が生えていますが、ヤマノイモ(山芋/ヤマノイモ科ヤマノイモ属)もそのひとつ。(あまりにたいへんなので)掘り起こして長い芋を採取する気は起きないけれども、地上部のむかご(零余子)は簡単に摘むことができます。むかごはわき芽が栄養分を蓄えて肥大化したもので、これが落下して新しい個体が増えていくわけです。
むかごは魅力的な食材、これでむかごご飯を炊きます。この時期の我が家の定番です。

相棒は必死にむかごをかき集めています。ずいぶんと老眼が進んでいるようで、この焦点距離!(笑い)。

ヤマノイモにむかごがついている様子。

採取したむかご。こんなにデカく変形したものも。

それから、秋といえばアケビでしょう。
ここらへんにアケビは2種類あって、それはアケビ(木通)とミツバアケビ(三葉木通/アケビ科アケビ属)です。大方はミツバアケビで、こっちの方が断然おいしいです。
相棒はいつの間に、道向かいになっていたといって採ってきました。

筆者の父親が山形県は庄内地方の温海町(現在の鶴岡市温海)の出身でそこに親戚がいるのですが、筆者の幼いころに兄とか従兄が秋に訪ねてくるとアケビを見て驚いていたのを思い出します。アケビは庄内では中の甘い実を食べるけど皮は捨ててしまう、こっちでは皮を食べるのかと。そう、こちらは中の実などは(食べることは食べますが)どうでもいいもの、アケビは皮こそが大切なのです。
シメジやマイタケなどのキノコ類(今回は乾燥させていたシメジを戻して使った)を刻み、豚のひき肉をみりんと砂糖で炒り煮にしたものをアケビに詰めて、油を引いたフライパンで焼く……、これがいわゆる“アケビの姿焼き”または“アケビの油焼き”です。

下は、米沢郷土料理レシピ集『おわえなえ』(米沢商工会議所)から。
今はインターネットの時代でいつでもどこにでも情報はかけめぐってこのアケビ料理はもう山形県の一地方の専売特許ではないでしょう。でも昔からの伝統料理として今に受け継がれているという点では米沢を含む置賜地方はアケビ料理の本場としてもよいと思います。
この時期のマーケットでは普通に(栽培)アケビが売られていますし、当地方の旅館ではアケビ料理を一品に加えるのも特色といえましょうか。

ということで、本日の夕食のメニューは、さっそくにも“むかごご飯”に“アケビの姿焼き”です。
ホクホクのむかごと少々の塩味のきいたご飯、それに少しばかりの苦みを残したアケビの皮と肉みそが相まっての絶妙な味の姿焼き。いやあ、たまらなくおいしいです。絶品です。
素朴で質素ながらこころ豊かな夕餉、まさしく幸せな時間です。

気候変動や環境の変化はあるけれども、秋は恵みをほどこしてくれるのは確か。
森に感謝、山に感謝です。

それじゃあ、バイバイ!

 

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