お知らせ製作の時間

デモ用のドア

時間をさかのぼって、年賀状に記した今年2020年の大きな目標、それは、6月の12-13日に福島は会津の三島町で開催される「ふるさと会津工人まつり」に出店参加するということでした。
三島は工芸の聖地、ここで、三島と工芸についてふれておきますね。

“過去が咲いている今 未来の蕾がいっぱいの今”  河井寛次郎
三島には生活工芸館という建物があってここはものつくり・工芸の活動拠点、その入口にこう刻まれた記念碑があります。河井寛次郎(1890-1966)は日本の著名な陶芸家であり、柳宗悦(1889-1961)とともに民藝運動を主導したひとり。
三島町は農業や林業を中心とした人口2,000人ほどの小さな町、雪に埋もれる冬に人々はマタタビ(又旅)やヒロロ(オクノカンスゲ=奥寒菅)やヤマブドウ(山葡萄)を材料として笊や籠などの編み組み細工を営々と作り続けてきたのです。そういう伝統的な生活を基盤として工芸館ができたのですが、その意義をこの言葉で飾ったのです。
「過去が咲いている」とは何十年、何百年にも及ぶ先人たちの手わざへの敬意、「未来の蕾がいっぱい」はそれを価値として受け継ぎ新たな歩みをはじめようとする人々の決意、そういう「今」がここにあるというわけです。よい言葉です。
下は、会津駒ケ岳登山の帰りに寄った時のもの。2010年8月。揮毫の村松貞次郎は生活工芸館の設計代表だったよう。

下は、2018年のひとコマ。

この生活工芸館の前庭で開かれるクラフトフェアは全国有数の一大イベントなのです。ここに参加するというのはクラフトマン(工人)にとって栄(は)えあることであり、そこで工芸を愛する人々にドアリラなるものをぜひ見てもらいたいものだと思っていたのです。そこでこの冬は、そのための準備という位置づけです。

一坪強の広さの簡易テントはすでに購入済みです。そのスペースにドアリラ製品をどう展示していくのか、そのイメージに沿って折りたたみ式のレジャーテーブルも既にあるもの(W120×D60×H70センチ)に加えて同じ大きさのものをさらにふたつ購入しました。新しいものは既存のもの同様、これから天板の加工を施し頑丈にするつもりです。

で、一番の準備はデモ用のドアを作るということでした。
ドアリラはご承知のように、ドアの開閉の動きによって吊り下がった球が弦を打って音が鳴るもの、壁や棚に飾るそれだけではその機能は伝わりません。だからぜひ、来場者には実際の音を聴いてほしくて、まずは体験のできるドアを作らねばと思われたのです。

さてみなさんはこういう設定自体しないと思いますが、一緒に考えるのも一興かも。
デモ用ドアをつくるとして、あなたならどういうコンセプトを立てるでしょう。

筆者が考えたデザインコンセプト、デモ用ドアは……、
①壁に相当する枠があって、蝶番によって開閉ができる。
②持ち運びに便利なよう、(枠も含めた)ドア部分と足部分が分解でき、簡単に組み立てられる。
③テーブルなどの水平面に、自立することができる。
④わずかな力で開閉ができる。開閉にかかる力でも自立に支障はない、倒れない。
⑤本格的な木製ドアの雰囲気がある……、でした。

そうして、以上を形にしたのが次のものです。
なお、ここに使われた木材はすべて、今までにストックしてあった建築廃材です。
表面の板ぐらいは同じ樹種でとは思ったのですがなかなかそうともいかず、まちまちなのはご愛嬌というもの。中央はスギ(杉)ですが、マツ(松)も外材のスプルース(Spruce 米唐檜、蝦夷松)なども入っています。

足は左右、ボルト2本ずつで固定します。ナットは蝶ナットを使用しているので、スパナがなくとも簡単に組み立てることも取りはずすこともできます。

自立のために、足に45度の“控え”をつけています。
よく見れば、垂直材、水平材と斜め材の接合部分に特別な刻みが入っているのがお分かりかと。これは住宅建築の火打ち梁の組みの刻みを参考にしたものです。

ドアノブを引いても自立を阻害しない(ドア自体が倒れない)のですが、念のため、ドアの枠を左手で押さえることで万が一にも事故が起きたりしないよう、“hold!”の意味で握りの親指を図案化しています。

ドアの閉まっているときの固定は、棚などの開閉に見られる簡易なキャッチ金具を取りつけました。

デモ用ドアを設置することによって、どの種類のドアリラも取りつけることができ、これで音の響きや音の違いを確かめることができます。
下は、デモ用ドアに取りつけたドアリラのサンプル。
上からD-04 tree、C-04 mantel、C-06 juhyo、D-05 horn left。

下は、デモ用ドアに取りつけたドアリラの、開閉による連続写真。

デザインから塗装(ドアリラ同様ダニッシュオイルのオイルフィニッシュ)を含めた完成までの製作には、約10日ほどを要しました。やれやれ、です。

なお、新作ドアリラとともにこのデモ用ドアは3月14日(土)―22日(日)、よねざわ市民ギャラリー(℡0238-22-6400)で開催のARTS MEET OKITAMA2020でお披露目します。
ARTS MEET OKITAMAは絵画、彫刻、工芸など多岐にわたるジャンルの作品が一堂に会する一風かわった展観です。作者の意向によっては購入することができるというのも特徴のひとつでしょうね。
お時間のある方、米沢にいらっしゃる方はお立ち寄りいただければうれしいです。

下は、そのチラシです。

ARTS MEET OKITAMA2020