山歩き

仲秋西吾妻

知り合いから栗林の伐採木の処理を頼まれていて、自分の家でもそろそろ(ただし来年以降の冬の)暖房用の薪の確保をと思っていたので、都合4日を割いてチェンソーと斧をふるいました。毎日3時間程度ではあったのですが(中には直径60センチもの大径木)、薪づくりは全身の肉体労働でヒーコラヒーコラ、もうヘロヘロの状態でした(笑い)。
ついで、ふっと湧いた工房の増築計画がトントン拍子に進むことに。
新しい憧れの機械(もうこれ以上は何もいらない)のドラムサンダーがやってきました。うれしかった。これでドアリラのクオリティがぐんと上がるはず。で、そのドラムサンダーを動かすと大量の粉塵が発生し(それはベルトサンダーどころではなく)、セットで集塵機を買うことにしました。そうして集塵機が到着してみると、ただでさえ狭い工房がもう作業ができないほどになってしまった、それを受けての増築計画です。
さっそくにも今までにストックしていた材料から、木取りをはじめた、その目途がつきました。気分転換は山に限る。9月19日、約40日ぶりの西吾妻行きです。

里は今、白と黄色です。ソバ(蕎麦)の花は雪のよう、田んぼの稲穂は菜花畑のよう。花が枯れ、稲穂がさらに首(こうべ)をたれれば収穫なんだろう。

天元台の第2リフトのあたりはうっすらと赤味や黄色味が差す程度、こんな感じです。

リフトトップの北望台。ここですでに標高1,810メートル、吾妻連峰の最高峰の西吾妻山は2,035メートル、西吾妻山登山とはいっても、標高差220メートルほどを登るに過ぎないのです。筆者はもう何度も来ているので、西吾妻は庭、この山登りは散歩とさえ言っていいぐらい。

スマホで写真を撮っている方は福岡からいらしたというIさん。御年75歳くらいとお見受けしたのですが(見当違いならごめんなさい)、このIさん、車に寝泊まりしながら方々の山に登っているのだとか。「毎日が日曜日じゃけんねえ」とのこと。そして昨日は何と、会津側の川入から入って、飯豊本山に日帰りで登り、雨に降られてたいへんだったとか。ヘッドライトを灯して午前2時に登り始め、下山が午後2時だったという。これにはいくらなんでもびっくりです。
こうなると常人じゃない、猛者(もさ)です、国民栄誉賞的スーパー爺さんです(笑い)。そんな彼とずいぶんの時間をご一緒しました。

かもしか展望台を抜けて、西吾妻最大のお花畑の大凹(おおくぼ)を見下ろしたところ。
手前の黄色はミネカエデ(峰楓。ムクロジ科カエデ属)です。ミネカエデはルーザでも普通に見られるヤマモミジ(山紅葉。ムクロジ科カエデ属)より葉の裂れ込みが激しいです。

これは赤系になろうとするミネカエデ。

そうこうしていると、西吾妻を代表する花のひとつ、エゾオヤマリンドウ(蝦夷御山竜胆。リンドウ科リンドウ属)が道々目立ちはじめました。
この種は山形県以北より北海道に分布するという。見た目、オヤマリンドウ(御山竜胆)との区別はむずかしいとのことです。この青紫はこころ落ち着かせる色です。

大凹の水場。一日前の雨があったためか水量はいつもより増していました。
水場のシンボルの泉看板はもう、こんなにソジて(これ方言とはつゆ知らず。=劣化して)しまっています。

大凹の水場を過ぎると、こんな大岩の登山道が続きます。筆者はゆえに、西吾妻に登るときはトレッキングポールを持ちません。手がふさがる方がたいへんなのです。

梵天岩の岩はまるでアブストラクト。

梵天岩にて。Iさんに撮っていただきました。
Iさんは西吾妻ぐらいの山なら地図は携えていないということです。筆者が地元をいいことに、西吾妻のポイントの地名を使ってその特徴などを話すのですが、何と位置関係とかだいたいの標高とか坂の緩急とかの地図情報が頭に入っているのです。これにもびっくりでした。だから恐れずに、山に向かうことができるのだと感心しました。

湿原に咲くエゾオヤマリンドウ。湿原を覆う植物はスゲ類と思うけど、もう枯れ色です。

別の湿原に咲くエゾオヤマリンドウ。エゾオヤマリンドウ自体も葉や茎が枯れ色です。
山頂付近はもう秋が深まっています。

緑から赤に変色しようというネバリノギラン(粘芒蘭。キンコウカ科ソクシンラン属)。
セザンヌはこの色使いが得意だったなあ。名画「サント=ヴィクトワール山」の基調はまさにこの緑から赤への変化。

山頂標識。この通り、一切の眺望がありません。

西吾妻小屋。経年劣化はあるものの、清潔な避難小屋です。
西吾妻では筆者はいつもここで昼食をとります。今回もカップラーメンだったのですが、何と不覚にも箸がない!持ち物チェック表に沿って点検してきたつもりだったれど、トホホです。それで外に出て、オオシラビソ(大白檜曽。マツ科モミ属)の枯れた枝を一本折って急ごしらえの箸を作ってすすりました(笑い)。

小屋には20~40代前半の紅一点を含め5人が何やら調査のよう。聞けば、県の仕事で県内の避難小屋の環境や状況を見て回っているとのことでした。それぞれのリュックは見るからに50~60リットルの容量で、これは山小屋泊なら4~5日ぐらいにも耐えられるもので、いかにハードな山行きを伴う調査であるかがうかがい知れるものでした。お疲れ様です。

小屋前のキンコウカ(金光花。キンコウカ科キンコウカ属)に覆われた湿原。もはや晩秋の景色です。

ミネザクラ(峰桜、別名タカネザクラ。バラ科サクラ属)も赤く色づきはじめ。

ナナカマド(七竈。バラ科ナナカマド属)も色づきはじめ。
東北の紅葉のビビット感はこのナナカマドに負うところが大きいです。やがて真っ赤になっていきます。

和製ブルーベリーの一種、クロウスゴ(黒臼子。ツツジ科スノキ属)。とてもおいしい実です。
クロウスゴも色づいて。

オオカメノキ(大亀木。別名ムシカリ。レンポクソウ科ガマズミ属)の実は赤から黒への途中。葉は徐々に赤化です。

西吾妻小屋から天狗岩の途中で出会ったひときわ鮮やかなカエデ類。詳しい図鑑に当たって調べてもどうもはっきりしなかったのだけれど、これもミネカエデのように思います。もしかしたら、ミネカエデの一種、ナンゴクミネカエデ(南国峰楓)というものかも知れない。このミネカエデだけは鮮やかな赤の紅葉となるようなので。どうだろう。

天狗岩の西端、素朴な吾妻神社の石構えの入口より西吾妻山方面。うっすらと紅葉、という感じです。

西吾妻を代表する風景、池塘の数々。池塘も秋です。

人形石分岐から北回りコースでリフト乗り場への途中、赤と白の見事な競演です。ゴゼンタチバナ(御前橘。ミズキ科ミズキ属)とシラタマノキ(白玉木。ツツジ科シラタマノキ属)。

ヒロハユキザサ(広葉雪笹。ユリ科マイズルソウ属)は赤い実をつけて。この若いものは山菜です。

そうして、ちょっとした仲秋の山行きは終わりました。
これから紅葉はどんどんと標高を下げてくるでしょう。9月の下旬にはリフトトップあたり、10月初旬から中旬にかけて天元台の紅葉はピークに達するようです。
雪が降る前、真っ赤な紅葉を見に、もう一度来なくちゃ。

おまけ。
今年のきのこは近年にない不作のようです(だいぶ遅れているとも言えるのかもしれないけれど)。だいたいにおいてこの時期ともなれば、山全体にきのこの香りが漂うものなのですが、まったくなしです。
近くのクリ園でも、今年はあまり実がならないとのこと、コナラ(小楢。ブナ科コナラ属)のどんぐりもあやしい。そうするとクマ(ツキノワグマ、月輪熊)の、これから晩秋にかけての動向が気になります。クマはこれから冬眠に備えて、とにかく、食べて食べて食べて食べて、脂肪をつける必要があるからです。冬眠中に出産もしてしまうのですよ。

下は今少し前の、筆者の敷地に生えていたきのこ。ナラタケモドキ(楢茸擬。キシメジ科ナラタケ属)。
ナラタケ(楢茸。キシメジ科ナラタケ属)によく似ていますが、茎にツバのないのが特徴です。ふたつはとても似ているようでも、うまさでは格段にちがい、ナラタケに軍配です。

サクラシメジ(桜湿地。ヌメリガサ科ヌメリガサ属)。毎年、同じところに出てきます。
ダシがよく出るおいしいきのこ。家では、みそ汁の具やバター炒めにもします。

ニセアブラシメジ(偽油湿地。フウセンタケ科フウセンタケ属)。意外と知られていない優秀な食菌。
筆者は今回はペペロンチーノの具にして食べました。とてもおいしかったです。

家の前のサンショウ(山椒)の現在。果皮は真っ赤、一部黒い実が出はじめました。

さあて、工房の増築めざして木取り、木取り!