旅の空、飛ぶ声

会津、山の湯と工人まつりと。その2

お世話になった老沢温泉旅館をおいとまし、峠を越えて(工人まつりの会場のひとつである)三島の中心地の宮下までの道々、出会った植物。
ウツギ(空木)は、“卯の花”の方が通りがよいかも。
♪卯の花の 匂う垣根に 時鳥(ほととぎす) 早も来鳴きて 忍音(しのびね)もらす 夏は来ぬ……。佐佐木信綱(1872-1963)による歌詞の、この卯の花ですね。
古文にくわしかった娘にいつか、卯の花をかいでみたんだがさっぱり匂わないんだけど、と聞いたことがありました。それに応えて言うには、匂うというのは匂いがあるという以外に、花咲き乱れる、咲き誇るにも使うんだよと教えてもらったっけ。と、いうことだそうな。
卯の花、梅雨の時期に合うね。

マタタビ(又旅)の白化した葉。
以前はマタタビの実でマタタビ酒を造っていたなあ。癖が強くて、今はちょっとです。
このあたりではこのマタタビの枝を薄くはいで細い紐状のものをこさえて編むマタタビ細工も有名です。

それに、雄花のばすアカシデ(赤四手、赤垂)のよう。
峠の森は木立が高く、ルーザよりずっと深い感じです。

指定駐車場のひとつの宮下中学校に着いて、まずは宮下通りの出店(“てわっさの里”)を一通り回って、買い物を楽しみました。
ひとつのめあてであった骨董店からマタタビ細工の器、そして古い皿を。

このマタタビ細工の器は径31センチ、高さが13センチのものです。この美しい技のこの大ぶりな器は、新作であれば7~8,000円くらいはするのだろうか、それを3,000円で。
これは、お気に入りのコーヒー器具・マキネッタ(これについてはいつか説明します)の乾燥用にしようかな。

買った陶器の皿は印判による呉須(酸化コバルト)という染料が使われていますが、これがよい味を出しているのです。
印判ということは染付け(手書き)ではなく、簡単に言えば判子です。染料を版につけて、押せばいいわけです。比較的簡単に出来上がることによって陶器が一般庶民に普及した記念碑的な技です。
だいたいは蔵に眠っていたものを古物商がひと蔵いくらで大雑把に安く買い取ったもので、末端(店)に出回るとしても大した金額ではありません。そこが魅力です。
我が家の食器の多くはこの印判で、日常使いをしています。食材にコバルトが映えるのです。
ちなみに、左の大皿26センチのもので1,000円、小皿は12.5センチで、おまけでした。ラッキー!
求めた皿にはゆうに100年を刻んだ時代感があります。
窯に入れた際の皿の重ね跡がいい味です。これを汚れと見るか、味と見るかで評価はちがってきますね(笑い)。

雄国根曲がり竹細工の店で、果物かごにちょうどよいと思って器をひとつ買いました。雄国(おぐに)はニッコウキスゲの大群落で有名な(昨年、登山をして見てきたけどやはり圧巻でした)裏磐梯の雄国沼の雄国です。その周辺にはネマガリダケが自生していてそれを材料にしています。同じ竹細工でもネマガリダケを材料とするものは強靭です。
この器は上から見るとわずかに楕円形で、ヨコに29センチ、タテに27センチ、高さが13センチありますが、床から5センチの上げ底になっています。もう少し大ぶりなら、食器の水切りにも使えそうなほどに頑丈です。
ここに、リンゴとかミカンとか、ラ・フランスとかが入るのを想像するだけで楽しい。
この器を3,500円で購入しました。材料を採取し、裂いてひごにし、それを編むとしてどれほどの時間を要することか、それを考えたら3,500円というのは高いわけでは決してなく。

ふるさと会津工人まつりは全国有数のクラフト展。日本で最大級のものと言っても過言ではないでしょう。
地元会津の伝統工芸である(ヤマブドウの蔓、アケビの蔓、ヒロロ=オクノカンスゲの茎、マタタビの枝などを利用した)編み組細工をはじめとし、木工、金工、紙工芸、ガラス工芸、服飾等実に多彩な技が全国から集うのです。
メイン会場の工芸館周辺だけでも今回は230の工房が集結していました(宮下通り“てわっさの里”でも70~80はあったと思うので、工房総数300ぐらいの出店はあったのでは)。まさに、日本の手わざ見本市という様相です。
そこで、一流の多彩な手仕事を求めて全国からお客さんもおいでになるわけです。

あいにくの雨模様、というのにこの人出です。2枚目は昨年の様子。

いくつかの店で工人に、話を直接話を伺いました。
ここは大分からいらした竹工芸の「風とんも舎」。洗練されていて、いかにも九州の器という感じです。大分って、竹の文化があるのです。

これは岩手県宮古の山奥のタイマグラという集落で桶を作っている奥端さんの作品。ヒバ(檜葉)やスギ(杉)のよい香りがします。
平面の板を加工して丸みをつけ、それを竹や金属のタガで締めつけて水をも漏らさぬよう作っていくわけですからすごい技です。
タイマグラは名峰・早池峰の麓に位置します。近くにキャンプ場があって下山後に泊まったことがあって、タイマグラは思い出の場所でもあります。
名作ドキュメンタリー「タイマグラばあちゃん」(澄川嘉彦監督、2004年公開)の舞台としても有名です。思い出の映画です。

これは静岡市からの出店の漆工芸、加藤工芸所。
この弁当箱は“めんぱ”というのだそうな。趣きがありますね。

秋田は横手市からおいでの和紙職人の渡辺さん。「手しごと和紙 わ遊」主宰。
和紙で防水性のある帽子や服も作るのだとか。本人が着用しているベストも帽子も紙!

青森県階上町からおいでのほうき工房・左京窯の職人さん。
箒の柄にしているのはホテイタケ(布袋竹)という竹の根本のものという。左京さんは、ホテイタケのデコボコは環境が悪いほどおもしろいものが出、環境がよいとひょろっとしてつまんないと言います。筆者がすかさず「人間もだね」と合槌を打つと左京さんもまわりのお客も笑ってました(受けた!)(笑い)。
でも、いいなあ。美しいなあ、この箒。次に来る時には、大切なひとへの贈り物にしようと決めました。

柳宗悦(やなぎむねよし1889-1961)らが提唱した民藝の技がテクノロジー全盛の今に息づき、そして未来をも連れてこようとしている。今回の工人まつりにはそれが脈々と受け継がれていることを実感しました。とても素晴らしかった。
そして筆者は決めました。来年のこの工人まつりに工人(職人)のひとりとして参加することを。(まあ、参加には予備審査があるのだそうで、そう簡単なものではないようですが)。
これを励みにドアリラの製作に専心していきたいと思います。

圧倒的な自然に抱かれ、そこでひっそりとつつましやに生きている会津の人々の暮らしはよかった。山の湯も工人まつりも。
そうして今年も、6月はじめの楽しい時間は過ぎていきました。