製作の時間

サクラ材新作

伐採を生業とするSさんに原木市場に連れていってもらったのは、この3月22日のこと。吾妻おろしの風の強い日でした。
そこで初めての市場体験、せっかくの機会にと原木を購入することにしました(実際はお供していただいたKさんが購入したものを分けてもらったという形)。
樹種はクヌギ(椚)とクリ(栗)です。クリ材については家具作りなどで何度か扱っているのでどういう性質かどんな風合いかは分かるのですが、クヌギ材はまったくの未知の領域、選択は目や模様への興味からです。
下は、原木市場のセリの様子、クリ材。

その原木がクレーン付きの木材運搬車に満載され、4月23日、米沢市の黒田木芸さんの製材所にやってきました。筆者のものはこのうちクヌギ2本クリ2本の計4本のみです。
原木は今後の作業のしやすさや材料の使い勝手、乾燥の進行時間などを勘案して、厚さは3.5寸(約106ミリ)に挽いてもらうことにしました。

原木の挽き割りが終了したという連絡があったのはこの5月の16日の夕方のこと。
家から製材所まではだいたい14キロの距離、挽き割ったとはいえ材料の(特にクヌギの)重量は相当なもので、軽トラでの運搬はせいぜいが3枚程度が限度でした。したがって、次の日を皮切りに往復がはじまりました。以降、都合3日を要しました。
クヌギは幅広のもの1枚で150キロから200キロぐらいの重量なのではと思います。これを、軽トラから下ろして薪小屋として使っていたスペースに積み終わったのが下の写真。筆者ひとりでの作業でしたので、少々苦労しました。
150キロから200キロのものをどうやって? と不思議に思うでしょうが、重量物を移動するコツはあるのです。しっかりと腰痛バンドをしめて(笑い)。

製材所のアドバイスにしたがって、乾燥による割れ防止のため小口には木工用ボンドを厚く塗りました。

厚さは3.5寸ということは、1寸で1年といわれる乾燥時間として3年半、余分に見て早くて約4年という時間を経てようやく材料として使用できるようになるという計算です。
木工の魅力のひとつは、時間が材料を育てていくというところにもあると思います。そうして適正含水率が20パーセント前後になるよう乾燥を待ちます。
含水率がこれより高いとどうなるかといえば、木材はまだ“暴れる”途中にあるということ、作業の途中にねじれや歪みが生じるということです。

話はそれるけど、家を建てる場合、何より肝心なのは木材の乾燥度合いです。
本当は自然乾燥で適正含水率になったものを使えばいいのですが、そんなに時間は待っていられないとばかり人工乾燥のものを、ひいては乾燥不十分なものまで使ってしまうということがあります。そうするとどうなるかといえば、家自体にねじれや歪みを抱え込むわけですから構造上の弱さにつながるのは当然のことです。
このことは時間をせかす現代の病いの現れでもありますね。

筆者は、ゆっくりじっくりと待ちましょう。太陽の熱と吹き渡る風に期待して。

さて、ハルニレ(春楡)材がほぼ切れてしまい(ハルニレ材によるドアリラは在庫のみです)、新たにサクラ(桜)材での製作に入ったのは既報(「挽き割り、今だけリクエスト」)の通り。そこでは薄く挽き割る過程を説明しました。

中材にしたものは実は、骨董店から購入した囲炉裏の炉縁に使われているサクラ材です。長い年月をかけより乾燥が進んだものをと事前に入手していたのです。
使ってみて分かったことですが、炉縁はサクラはサクラでもぐっと目のつまっているもの、すばらしく良質な材料ということでした。持っただけで比重の違いが分かるほどです。中材(側材)にするのがもったいないぐらい。

サクラ材による新作は、本当は予告通り、D‐05 horn leftを主に作る予定にしていたのです。が、中材の事前の幅取りの見通しが甘く、共鳴空間確保のための事前の欠きの位置をあやまり、それがために最終的な成形でピンを打つべきところが空洞になってしまうという失態を犯してしまいました。それによって作った10体すべてが不十分なものとなり泣く泣く廃棄せざるを得ませんでした。それで、せっかくの炉縁のサクラ材の大方がだめになってしまいました(涙)。もったいなかった。
気持ちを切り替えるため、一部を残し焼却しました。
D‐05 horn leftについては、型から作り直して、近いうちに再度挑戦します!
下は製作予定だったD‐05 horn left。

で、新たにできたのは、A-02 pickの材料を違えた新バージョンF-01 pickが5点(ただしすぐに引き合いがあったため、実際は4点)、それにE-02 sakuraが4点です。
group Fというのはこれまでにない新しい分け方で、既存のgroup Aとgroup Bの型で、「表面がシナ合板または突き板、中材はSPF材=マツ科類、4弦4球、スチールサポートピン」という仕様を「表面と中材がともに広葉樹の無垢材、4弦4球は同様、サポートピンは真鍮(ブラス)」にしたものを指します。
サクラ材は少々の余裕があり、今後この材料で再挑戦のD‐05 horn leftも含め、評判のよいものを中心として作っていきたいと思っています。
新設group Fの値段については、15,500円と設定しました。ちなみにgroup Cの型で広葉樹の無垢材を使用の場合についてはgroup Dの値段(18,400円)となります。

余話として。
こんなめずらしい依頼もありました。
「自分は漆(拭き漆)を扱うので、成形された本体をいったん引き受け、漆で塗装したのちに組み立ててほしい」と。
そうして出来上がったのが下のものです。これは本体のみならず、吊りピンも球も漆で塗装されています。
従来のダニッシュオイル仕上げとは趣が異なり、これはこれでいい味ですね。