森の小径

初夏は白い花

ルーザの森にはいろんな鳥が棲んでいるけれども、うれしいのはヨタカ(夜鷹)。「キョキョキョキョキョキョキョ」という特徴的な啼き声です。
春から初夏にかけての今頃から、暗い野原に潜んでは響かせ、闇夜に飛んでは啼いて過ぎていきます。
ヨタカは賢治童話「よだかの星」の“よだか”です。「顔は、ところどころ、味噌をつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけてい」る童話の主人公、その主人公が身近にいるのです。
もうずっと前だけど、相棒のヨーコさんは職場からの帰り道に家の近くの道路の真ん中で佇んでいる2羽のヨタカを見たことがあったとか。
下は、筆者が作ったヨタカ。ジェルトン材のカービング(彫刻)、彩色(1995年)。

それから、うれしいのはフクロウ(梟)。
フクロウは森の王者、そのフクロウも啼いています(フクロウの場合は季節に関係なく啼きます。ただ春になると声がうれしそうに聴こえます)。漆黒の闇に響く「ホーホー、ホッホホッホ」は何という安らぎをもたらすことか。
フクロウが棲むことができるということは、それだけこの森の生態系が豊かだというしるしでもあります。
冬の夜ふけに父と娘がアウルをさがしに森に入る物語、秀作絵本「OWL  MOON」(By  Jane Yolen, John  Schoenherr 日本題は「月夜のみみずく」)偕成社1989というものがあったなあ。この世界はよく分かるなあ。フクロウって、詩情が湧いてくるんだよね。
下は、筆者のフクロウコレクション。

そして、この時期の鳥の代表格は何と言ってもホトトギス(不如帰)でしょう。
ホトトギスはちょうどゼンマイ(薇)の収穫が終わる頃に啼きはじめます。つつましさなどはどこへやら、よそ様の迷惑などお構いなしに、とにかくあらんかぎりの甲高い声で森中に響かせます。その声は強烈で、ちょっと遠慮してくれない?とでも言いたくなるほど(笑い)。まあホトトギスもこの森が好きなんだろうけどね。
ホトトギスが啼くということは、もう春はおしまいですよというサインです。

日本野鳥の会京都支部HPから

いよいよ夏に向かっていく象徴は蝉、エゾハルゼミ(蝦夷春蝉)です。
オスの体長は約30ミリぐらい。透明な羽です。
「ジー、ギュー」とまず低音を発してから一気にオクターブを上げて「ケケケケケケケ」ときます。その大勢の合唱といったら、まるで音のシャワー。暑さが倍加する感覚になるのは確か。
今耳を澄ますと、もう一種の蝉の声です。主はハルゼミ(春蝉)だろうか。
下は、エゾハルゼミ。

屋久島の友人がいつか言っていたけど、「夏に向かう時期の花ってみんな白いんだよね。何でだろう」。
そうなのです。ここ東北は奥羽脊梁山系の山ふところのルーザでもやはりそれは同じなのです。一部、ヤマツツジ(山躑躅)の韓紅(からくれない)やタニウツギ(谷空木)の牡丹(ぼたん)の少しさめたような色も混じるけれども、基本は白です(いずれも樹の花)。

まず目につくのは、ミズキ(水木)。
あの、小正月に活躍した団子木飾りの団子の木のミズキです。ちょうど今頃に密集した白花をつけます。

周りの山の尾根筋の栄養分の乏しいところによく見かけるナナカマド(七竈)の白い花。秋には赤橙の実をつけてとてもあざやか、紅葉も絶品です。
写真は、家の庭のもの(山からの移植)。

それから初夏の白花の代表格は何と言ってもカンボク(肝木)でしょう。
秋には赤い実をたくさんつけるも、その実はとても不味いのかどの鳥も知らんぷり。鳥がこの実をついばんでいる様子を見たことがありません。でもあちらこちらにカンボクが自生しているということは、これを好む鳥や動物がきっといるんだろう。いったい誰だろう。
このカンボクの花は見事。満開の時には木全体が雪が降り積もったように真っ白になります。ガマズミ(莢蒾)の花もカンボクとほぼ同時に咲く白い花。
ガマズミはやはりカンボクと同じく秋に赤い実をつけますが、こちらはひとが食べても甘酸っぱくておいしい。よってさまざまな鳥たちがやってきてはついばんでいきます。
童謡の「赤い鳥」に描かれる赤い鳥が食べた赤い実はこのガマズミなのでは。
筆者は果実酒を仕込むけれども、莢蒾酒は色はワインレッドに仕上がるし、味もナツハゼ(夏櫨)と双璧かもしれない。

ムシカリ(虫喰)または別名オオカメノキ(大亀木)の花も白く。

この時期の白い花でもヤマボウシ(山帽子)は素敵。白いものは花びらではなく総包片とのこと。

アオダモ(青梻。別名コバノトネリコ)の花は、円錐花序に小さな花が密集します。
このへんでは至るところで見られますが、笊籬橋(ざるばし)から見た笊籬溪のアオダモの花は見事。
この木は野球のバットを作る木なのだそうです。

日本で最大の葉を持つホウノキ(朴木)の花は豪華。大きく、ポツン、ポツンと咲きます。
これもちょうど今頃の季節です。

久しぶりに鑑山を登れば、白いツクバネウツギ(衝羽根空木)に出会いました。
鑑山には追って、アズキナシ(小豆梨)やアオハダ(青膚)も花をつけますが、これまた白です。
こうしてみると、本当に白ばかり。なぜ白ばかりなんだろう。樹はなぜ花の色に白を選んだんだろう。

鑑山のオオイワカガミ(大岩鏡、大岩鑑)はすっかり花を散らしたというのに、何と何と、まるで雪のような白花を見つけてしまいました。少々調べてみると、白い花のものはヤマイワカガミ(山岩鏡、山岩鑑)というのがあるそうだけれど、本州中部の太平洋側に分布域があるのだとか。花が薄桃色から白まであるという母種のヒメイワカガミ(姫岩鏡、姫岩鑑)の自生は関東、中部、紀伊半島の太平洋側とのこと。
もしかしてこれ、新種かも? 世紀の大発見? 命名権は我れにありで、ルーザイワカガミまたはカガミヤマイワカガミというのはどうだろう(笑い)。

そうこうしていた25日、横浜よりお客さんがおいででした。
風渡る森で、マキネッタ(モカエキスプレス)コーヒーを。これが美味いんです。
ヨタカ啼く満天の夜に焚火をして。
翌朝は一枚岩の川を渡って。

そして、わが森は緑なりき(笑い)。分かるひとは笑うよね、このもじり(笑い)
もう、初夏です。