製作の時間

原木市場のこと

伐採を生業とするSさんに誘われ、製材と木製玩具の加工製造をなさるKさんとご一緒して、この22日、福島市の高湯街道と土湯街道の交差地点近くの福島原木センターというところに行ってきました。かねてからお願いしていたのです。そこでは、(来場者には昼の花見弁当とお土産として花見団子も用意されるという)特別市・花見市と銘打った原木市が開催されていました。

その場所は吾妻小富士と一切経山が目の前に大きくそびえる吾妻連峰の東端の素晴らしいロケーション。しかしそれゆえその日はものすごい“吾妻おろし”が吹き荒れ、立っていては吹き飛ばされそうな程の荒天でした。寒いの何の、春の嵐にちょうどぶつかってしまいました(笑い)。

木を扱って製品作りをしている筆者のような者にとって、“原木市”というのはかねてからの憧れでした。
まずもってそもそも原木市というのはどんなところなのか、そこにはどんな人たちが集まってくるのか、セリはどうやって進行するのか、どんな樹種が出品されているのか、樹種ごと値段はどの程度なのか等々……、興味は尽きません。

上に即して言えば、まず“原木市”の風景としてのイメージは、様々な樹種が樹種ごと整然と並んでいる様子は事前の想像通り。

集まってきた人たちは東北はもちろん関東から遠くは関西からも来ているのだそうで(これにはビックリ)、職種としては住宅の工務店、建築資材業者、家具製造の会社、そして木工職人が主なようでした。

市(セリ)の進行は社長と思しき人が自ら行い、敷地の端のアカマツ(赤松)クロマツ(黒松)などの針葉樹にはじまり、徐々に銘木のケヤキ(欅)やクリ(栗)などの広葉樹に移っていきました。
最初の社長の言い値に対して、来場者からの一声で値段が吊り上がっていくものもあれば、掛けられた一声で終わるもの、どこからも声が掛からずセリが不成立のまま置いてきぼりのものも少なくないようでした。

下は、圧倒されるほどに大きいケヤキ。会社のホームページを見ると、これで1本4,100,000円のようです(!)
さらに下は、クロガキ(黒柿)。クロガキという木はなく、カキが成長して大きく太くなって芯材に黒が入ってきた銘木です。こういうものはカキ全体の数万本に1本という貴重な品だそうです。
今回は残念ながら、値がつきませんでした。

セリの終わった木の一例を、写真で見てみましょう。これに紙が貼ってあり、その上に赤ペンで記されていますが、これがセリの成立の印です。

紙にはこうあります。「樹種:栗、長さ:4.0、末口:36、材積:0.518」。そして赤のマジックペンで手書きされた、「18」と「20.-」という数字。

まず印刷文字の長さの4.0は「4メートル」、末口の36は、末口(根本側の切り口)の直径が「36センチ」、材積の0.518は、この容積が「0.518立方メートル」ということを表します。
末口の直径を掛け合わせ、さらに長さを掛けると材積が出るというものです。つまり、0.36m×0.36m×4m=0.5184㎥というわけです。

学校では、円の面積は「半径×半径×π」と習うのだけれど、それは「直径×直径」とほとんど変わらないとのこと。材木の業者は、直径を使って計算するということです。
こんなこと、はじめて知りました。次に赤ペンの文字は何かといえば、18は入札者の番号、下の20.-は1立方メートルにつきの価格20,000円を表します。
入札者番号18番の人がこれを20,000円で落札したことを意味していますが、実際の材積が0.518立方メートルですので、20,000に0.518を掛けて、このクリ材は10,368円で買うことになるというわけです。
素人感覚で言ってはどうかと思うけど、このクリ材、これに運賃と挽き賃が加わったとしても安いという感じです。

主催者はここから15パーセント程度の手数料(取引手数料、配列、皮処理含む)を差し引きますので、10,368円の落札金額に対して、出品者には9,000円ほどが支払われるという仕組みのようです。
なお情報によれば、入札の資格者になるには10万円を要するとのこと。

以上については、ご一緒したSさんとKさんにとくと教えてもらったことです。これは原木市場の“いろはのい”のようです。
原木を買うということが、だんだん分かってきました。

会場には専門の業界紙の記者も東京からおいでで(こういうきわめてマニアックな新聞があるというのも初めて知りました)、記者には市況や各地の原木市場の様子についてなど興味深い話を聞くことができました。とてもラッキーでした。

なお、筆者の今回のスタンスはあくまでも原木市というものの様子見でしたが、市場ではなくチップ工場に回されたクヌギ(椚)があると聞き、近くの現地まで案内してもらって原木を少々見せてもらいました。
Kさんが今回めざしていたものはこれでした。筆者もその径(約50センチ)と長さ(2メートル)が気に入り、身近な素材クヌギへの興味もあってKさんの購買に便乗して買うことにしました(入手にはこの原木の値段に、運賃、製材-挽き賃が加わります)。
今後このクヌギは、乾燥に3年から5年を経てドアリラの材料となっていく予定です。どんな目が出ることやら、今から楽しみ。

3月22日という日は、とても実り多い、とても充足した時間となりました。
連れていってくれたSさん、お供してくださった御年85歳にもなろうかというKさんに、感謝、感謝。